2015年度日本社会心理学会若手研究者奨励賞受賞者一覧

選考経過と講評

受賞者
中尾 元(京都大学大学院人間・環境学研究科 博士課程1年)
研究課題
包括的認知をめぐる異文化間能力に関する異文化間心理学と文化心理学の統合的研究
要約
 本研究の目的は、「異文化間能力」の高さと「包括的認知傾向」の強さとの関連を実証的に検討することである。
 異文化間能力とは、異文化間心理学の分野でIntercultural competence(Dinges, 1983; Ruben, 1989)と呼ばれる、「自らとは異なる文化背景を持った人と良好な関係を築くことが出来る能力」(渡辺, 2002)である。本研究では、知能(Intelligence)の研究の枠具みから近年演繹的に理論化・実証研究が進んでいる文化的知性(Cultural intelligence: Dyne et al., 2010)の尺度を用いて包括的認知傾向との関連を検討する。包括的認知(holistic style)とは、文化心理学において認知傾向の文化差として検討されてきた認知スタイルの一つである。分析的認知傾向(analytic style)が一つの対象に注意を集中するスタイルであるのに対し、包括的認知は対象を含めた周辺や背景との関連性に注意を向ける包括的な認識枠組みとされる(Nisbett, 2003)。
 本研究の意義は、本研究が異文化間心理学と文化心理学の知見を統合する試みである点にある。実験的手法を用いた認知傾向の検討により、「包括的な認知傾向と異文化間能力との関連」の仮説を量的に検討することが出来る。
受賞者
Charis Eisen(神戸大学大学院人文学研究科 博士後期課程1年)
研究課題
When the Absence of Choice Equals Freedom: Culture and Agency
要約
 欧米で実施された先行研究によれば、選択があることはそれを通じた自己表現や周囲に対するコントロールを可能にし、様々なポジティブな結果をもたらす(e.g., Schwartz, 2004)。しかし、文化によって人々が選択する欲求は異なる。東アジアにおいて、選択はむしろ他者との関係の中で成り立つ。そのため人々は選択の際に他者からの期待や評判を考慮しやすく、評価懸念を感じやすい(e.g., Kitayama et al., 2004)。これらの知見は主に選択の存在を前提としているが、本研究では「選択がない」状況に着目する。選択がないことは、選択を重視する欧米文化の人々にとっては非常に問題でありネガティブな感情を引き起こすのに対し、東アジアの人々にとってこの状況は社会配慮や責任からの解放を示唆し、比較的ポジティブな感情を引き起こしやすいだろう。このような予測のもと、本研究は、日本とドイツにおいて、無選択の状況はどんな感情や行動を惹起するか、またどのように対人関係に影響を及ぼすかを検討する。
受賞者
鈴木伸哉(名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士前期課程2年)
研究課題
モラル遵守のダークサイド:不公正と危害が援助要請の回避に及ぼす影響の検討
要約
 協同や協力を目的とする職場組織での援助要請の回避は、個人の精神的不健康や組織運営の非効率化につながる。経営の効率化を志す職場組織では、1人あたりのタスク量が多くなるため、個人資源が不足し、援助資源を必要とする個人が多く存在することになる。その一方で、援助資源を提供できる個人は少なくなる。このような職場組織で援助要請を行うことは、希少性・競合性・不可分性の特性をもつ援助資源を自ら主体的に獲得する行為とみなせる。この場合、主体的な援助資源の獲得は、不平等という公正のモラル違反に加えて、他者を資源不足という苦境に立たせる危害のモラル違反にも該当するため、否定的な感情反応をともなう。したがって、職場組織での援助要請を回避することは「モラル遵守のダークサイド」であるといえるだろう。本研究では,職場組織での援助要請を模した状況を設定し、二重のモラル違反にあたる主体的な資源獲得行動が回避されやすくなることを実験的に検討する。
受賞者
仁科国之(玉川大学大学院脳科学研究科 修士課程2年)
研究課題
評価懸念の神経基盤の解明:VBMによる検討
要約
 私たちは他者から監視されている状況では自身の評判を維持しようと動機づけられ、他者に対する利他性は促進される。人間の利他性の進化を説明するモデルである間接互恵性によれば、他者への利他性は評判を介して第三者から返報されるため、他者評価を気にし、自身の評判を維持するように振る舞うことは人間社会においては適応的であると考えられる。評価懸念傾向、および監視の効果はどのような脳の働きによって支えられているのだろうか。本研究では恐怖や不安といった情動処理の中枢である扁桃体に着目し、扁桃体が他者から監視されている状況において評価懸念傾向を高め、利他行動を促進させる働きを持っていると考えた。本研究では、Voxel-Based Morphometryという脳を細かなボクセル単位で統計解析することによって脳の解剖学的な特徴と心理傾向の関連を検討するための手法を用いて、扁桃体の体積と評価懸念傾向、および監視の効果の関連を検討することを目的とした。
受賞者
井上裕香子(東京大学大学院総合文化研究科 博士課程1年)
研究課題
利己的な協力は、利他性の評価を上昇させるか?
要約
 人間がなぜ協力的なのかは、様々な分野で研究されてきた。なぜなら、コストをかけて協力するより相手を搾取した方が得であるジレンマ状況における協力は、自己利益追求の観点から説明できないからである。
 一方、相手が協力する限り自分も協力した方が得をする状況(コーディネーション状況)における協力は、自己利益追求で説明可能であり、あまり検討されてこなかった。しかし、人々が日常的にジレンマ状況とコーディネーション状況の双方を経験しているならば、ジレンマ状況での協力をコーディネーション状況での協力が支えている可能性がある。実際、コーディネーション状況での協力の経験はジレンマ状況での協力を促進する(Knez & Camerer, 2000)が、そのメカニズムは明らかになっていない。ただしKnez & Camerer(2000)では、コーディネーション状況での協力の経験が、相手がジレンマ状況で協力するという予測を高めていた。そこで本研究では、利己的な行動として説明可能なコーディネーション状況での協力が、状況要因ではなく相手の協力性という内的要因に帰属され(根本的な帰属の誤り; Ross, 1977)、ジレンマ状況での協力が増加する、という仮説を立て、これをゲーム実験にて検討する。