第19巻 第3号 平成16年(2004年)3月 和文要約

表題
中途重度肢体障害者は障害をどのように意味づけるか:脊髄損傷者のライフストーリーより
著者
田垣正晋(大阪府立大学社会福祉学部)
要約
本研究は、中途重度肢体障害者の自分の障害に対する意味づけを生涯発達という長期的な時間軸から検討した。受障期間が10年以上で男性の外傷性脊髄損傷者を10名対象にし、受障から現在までの生活に関して半構造化面接を行った。各ライフストーリーを、受障から現在までの「通時的変化」と「現状」という観点から再構成した。その結果、多くの話し手が障害による問題を繰り返し解決してきたと見なしていた。現状への肯定的な意味づけを見ると、①受障前よりも仕事が改善したり、あるいは障害者への理解が深まったりした、②受障後の一時期より家庭生活が安定、③他者よりも経済的に安定のいずれかを認められた。このような3通りの意味づけがあるが、「現状は良くなった」という共通性を考察できた。特に①の話し手は、肯定的意味づけの原因を障害に求め、しかもそのような意味づけを長期的な時間経過によるものと見なしていると考察できた。
キーワード
中途重度肢体障害、ライフストーリー、語り、意味づけ、生涯発達
表題
非固定的関係における信頼:シグナルとしての信頼行動
著者
真島理恵(北海道大学大学院文学研究科)
山岸俊男(北海道大学大学院文学研究科)
松田昌史(北海道大学大学院文学研究科)
要約
本研究の目的は、特定の相手との間に継続的関係が存在しない「非固定的関係」における信頼行動の役割を調べることにある。本研究では、非固定的関係において信頼行動が、相互協力の達成を促進する「シグナル」としての役割を果たすことを予測し、その検討を行うことを目的とし、信頼行動を協力行動とは独立に測定可能なPD/Dないし通常のPDを、毎回異なる相手と繰り返す実験を実施した。実験では70名の参加者が、PD/DないしPDのいずれかの条件に割り振られた。結果、PD/D条件ではPD条件よりも高協力率が得られ、非固定的関係においても信頼行動が相互協力を促進することが示された。ただし同様の方法で松田・山岸(2001)によって実施された固定的関係における同様な実験と比較すると、非固定的関係での協力率ははるかに低いことが明らかとなり、シグナルとしての信頼行動の効果が限られたものにとどまることが示された。
キーワード
信頼、協力、囚人のジレンマ、シグナル
表題
移行対象の出現・消失に関する社会心理学的規定因の検討:生育環境と夫婦間ストレスの視点から
著者
池内裕美(関西大学社会学部)
藤原武弘(関西学院大学社会学部)
要約
「移行対象」とは、乳幼児が特別の愛着を寄せる、"自分でない"最初の所有物であり、例えば、タオルや毛布、あるいはテディベアなどがその典型として挙げられる。本研究の目的は、こうした移行対象の出現・消失を規定する要因を解明することにあり、特に「生育環境(母乳哺育/人工乳、兄弟関係など)」と「母親の夫婦間ストレス」の2要因に焦点を当てた。211名の母親に対し、質問紙を併用した個人面接法により調査したところ、主に次のような結果が得られた。(1)移行対象は、母乳哺育よりも人工乳哺育の乳幼児に出現しやすい。 (2)弟や妹がいる子は、兄や姉がいる子や一人っ子に比べて、移行対象を手放す時期が遅い。(3)移行対象は、断乳とほぼ同時期に出現する傾向にある。(4)移行対象は、夫婦間ストレスの高い母親の子供に出現しやすい。そしてこれらの知見を基に、最終的に「移行対象出現過程モデル」を提唱した。
キーワード
移行対象、先駆物、乳幼児、生育環境、夫婦間ストレス
表題
平均点以上効果が示すものは何か:評定対象の獲得容易性の効果
著者
工藤恵理子(青山学院女子短期大学)
要約
Kruger(1999)は、平均点以上効果は相対的評定において、人々が他者の能力レベルを考慮せず、自分の能力レベルに基づいた判断をすることによって生じることを示した。さらにKruger(1999)は、人々の能力のレベルが絶対的に低い場合には、平均点以下効果が生じることを示した。ここでは2つの研究において、おなじメカニズムが(1)特性判断(2)否定的な側面の判断(3)日本人において働くかどうかを検討した。その結果、平均点以上・以下効果が生じるのは、個々の特性を有する(または有さない)ことの難易度に依存することが示された。また、さまざまな測定法間の違いが検討されたが、自尊心との相関から、(1)直接比較においては、自分と平均を比べることと平均と自分を比べることは、異なる構成概念を測定している可能性があること、(2)間接比較においては自分と平均の評定順序が大きな違いを生むことが示された。
キーワード
平均点以上効果、相対的自己評価、自己高揚
表題
自己性格特性情報の呈示が引き起こす自動的な接近・回避行動傾向:自己関連感情プライミングによる検討
著者
林 幹也(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
要約
個人の理想自己と回避自己に属する特性語が呈示のみによって評価および接近・回避行動傾向を生起するか検証した。実験1では性格特性語をプライムとし た感情プライミングパラダイムを用いることによって,これらの呈示が特性の評価を自動的に活性化するか検証した。その結果,プライムが理想自己に属し ターゲットがネガティブ語である条件とプライムがfeared selvesに属しターゲットがネガティブ語である条件は他の条件に比べてターゲットに対する反応が速く,プライミング効果が見いだされた。実験2では 実験1で用いられた特性語を2色のうちいずれかの色で呈示した。片方の色は接近的評価を,他方の色は回避的評価を有している。その結果,色と語の評価が 不一致の場合は一致している場合に比べて反応時間が遅延した。これらの結果は2つの自己に属する特性が評価と行動傾向を自動的に生起することを示してい ると考察された。
キーワード
自己関連感情プライミング、自己性格特性、目標評価判断、接近、回避
表題
ライバル関係の認知の基準:ライバル観尺度の作成
著者
太田伸幸(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
要約
本研究の目的は、個人が持つ「ライバル」という対人関係に対する概念を「ライバル観」と定義し、そのライバル観について明らかにすることである。予備調査では高校生206名、大学生227名を対象とした調査の因子分析より「相互性・互恵性」、「競争意識」、「対等性・対照性」の3因子を抽出し、大学生・短大生173名を対象とした調査を基に28項目のライバル観項目を採用した。本調査では高校生155名、大学生145名を対象にライバル観、達成動機、競争の尺度について測定した。「相互性・互恵性」は自身を高める意識との関連が強く、「競争意識」は競争心との関連が強かった。また、ライバルの有無、学校種(高校生、大学生)を独立変数とした分散分析の結果より、ライバルが存在する回答者、また大学生の方がライバル関係の認知基準として「相互性・互恵性」を重視していることが明らかとなった。
キーワード
ライバル、ライバル観、相互性・互恵性、競争意識、対等性・対照性
表題
歩行者の信号無視行動に関する観察的検討:急ぎ要因と慣れ要因の影響について
著者
北折充隆(金城学院大学人間科学部)
吉田俊和(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
要約
本研究では、交差点での歩行者の信号無視に影響する要因として急ぎ要因と慣れ要因に着目した。研究1では、講義に遅れそうで急いでいる学生を対象とし、行動観察を実施した。その結果、急ぎ要因は個人の行動判断に直接影響するのではなく、記述的規範"渡れ"の形成を媒介した、間接的な影響要因であることが明らかとなった。研究2では信号無視行動に対する慣れ要因の影響に関する比較検討を実施した。観察対象は、初めて交差点を通る歩行者として受験の下見に来た高校生を対象とし、普段からこの交差点を通っている通学歩行者群との比較を行った。その結果、初めて交差点を通る歩行者は日常的に交差点を通っている歩行者よりも、より信号を遵守する傾向が強いことが明らかとなった。いずれの結果も、周囲の他者が示す行動示範である、記述的規範の強い影響力を改めて確認するものであった。
キーワード
信号無視、記述的規範、命令的規範、急ぎ要因、慣れ要因
表題
コミュニケーション様式と情報処理様式の対応関係:文化的視点による実証研究のレビュー
著者
石井敬子(北海道大学大学院文学研究科)
北山 忍(京都大学総合人間学部)
要約
関連の文献をレビューし、文化的なコミュニケーション様式と情報処理様式の間の対応関係を検討した。コミュニケーション様式と情報処理様式の両者とも、西洋は言語内容重視だが、東洋は文脈情報重視であると結論した。このような文化間の差違は、オンライン処理を測定した場合に確かに見られた。一方、内省判断に基づく質問紙法では、解釈可能なパターンは見られなかった。最後に、今後の研究と異文化間コミュニケーションへの展望を示した。
キーワード
文化心理学、文化と認識、コミュニケーション様式、情報処理様式、行動指標