第21巻 第1号 平成17年(2005年)8月 和文要約

表題
謙遜の生起に対するコミュニケーション・ターゲットの効果
著者
村上史朗(東京大学大学院人文社会系研究科)
石黒 格(弘前大学人文学部
要約
本研究の目的は、これまで文化的自己観など行為者に主に焦点を当てた研究が行われてきた謙遜行動について、対人関係の視点から検討を行うことである。謙遜をする側だけでなく、謙遜をされる側であるコミュニケーション・ターゲットにも合わせて焦点を当て、両者の謙遜規範への支持と謙遜行動の関連を、代表性のあるサンプルから郵送調査によって得られたダイアド・データを用いて検討した。その結果、謙遜規範を支持しているターゲットに対して謙遜しやすいことが示された。また、互いに謙遜規範を支持していないときにのみ謙遜の生起率が低下し、ダイアドレベルでの謙遜支持の共有は、行為者とターゲットのいずれか一方が謙遜支持をしている場合と比較して謙遜の生起率を高めないことが示された。ここで示されたのは謙遜という現象の特に社会的、相互作用的な側面であり、コミュニケーション規範を研究する上でダイアドを用いることの重要性を示唆するものである。
キーワード
謙遜、自己呈示、規範、ダイアド・データ
表題
怒り表出の対人的効果を規定する要因:怒り表出の正当性評価の影響を中心として
著者
阿部晋吾(関西大学大学院社会学研究科)
高木 修(関西大学社会学部)
要約
本研究では、対象者(229名の学生、うち男性87名、女性142名)に怒りの表出と被表出の両経験を回答させて、表出、被表出という立場の違いによって、怒り表出の対人的効果の規定因が異なるかどうかを検討した。結果より、表出者による怒り表出の正当性評価は、対人的効果に影響を及ぼさないのに対して、被表出者による正当性評価は対人的効果に有意な影響を及ぼしていた。すなわち、怒りの表出を被表出者が正当と評価するほど、対人的効果はより肯定的になりやすいことが示唆された。他にも、表出目的や表出方法が対人的効果に及ぼす影響の強さや方向性が、表出者と被表出者の間で異なることが明らかとなった。
キーワード
怒り表出、正当性評価、対人葛藤、攻撃行動、被害者-加害者
表題
異性交際中の出来事によって生じる否定的感情
著者
立脇洋介(筑波大学人間総合科学研究科)
要約
本研究の目的は、異性交際中の出来事によって生じる否定的感情の構造を明らかにし、性、相手との関係や対処行動、関係満足感との関連を明らかにすることであった。調査対象者は、356名の大学生であった。調査では、相手との関係、異性交際中の否定的出来事、否定的感情、対処行動、関係満足感、恋愛尺度について尋ねた。分析の結果、否定的感情は、親和不満感情と攻撃・拒否感情に分類された。親和不満感情は、悲しい、不安などの感情で構成され、相手との距離を感じる出来事によって生じ、恋人では、関係満足感に影響を与えない感情であった。攻撃・拒否感情は、いらだち、怒りなどの感情で構成され、相手からの干渉などの出来事によって生じ、恋人では、関係満足感を低下させる感情であった。
キーワード
異性交際、否定的感情、否定的出来事、対処行動、関係満足感
表題
拡大する社会的ネットワークは少数派を残存させるか:DSITシミュレーションにおける非近接他者情報の導入
著者
志村 誠・小林哲郎(東京大学大学院人文社会系研究科)
村上史朗(神戸大学大学院文化学研究科)
要約
Information and Communication Technologies(ICTs)の発達により人々は物理的に離れた友人・親戚との紐帯を維持し、またインターネットを介して新たな紐帯を形成できると考えられる。このことがマクロレベルで生じさせる帰結を検討するために、Latane他のDSITモデルに非近接他者情報を導入してシミュレーションを実行した。その結果、Lataneモデルと比べて少数派の最大クラスターサイズ・平均クラスターサイズが小さくなる一方で、少数派のクラスター数は増加した。ICTsにより物理的に離れた他者とつながることで、人々は近接した他者と異なる意見を保有するときでも自分の意見を保持できる。一方で、それは近接他者からの相対的な影響力が低下することにもつながる。つまりICTsにより人々は物理的制約から部分的に解放された等質なネットワークを形成し、その結果少数派の意見は残存し続けると考えられる。
キーワード
社会的ネットワーク、ICTs, インターネット、意見分布、Dynamic Social Impact Theory
表題
自己呈示行動における文化的自己観の影響
著者
長谷川直宏(名古屋大学大学院環境学研究科)
要約
本研究の目的はミウチやソトに対して自己呈示された自己イメージから、文化的自己観の影響に関する示唆を得ることである。予備調査から福島(1996)の15個の自己イメージに新たに4個の望ましい自己イメージを得た。本調査において19個の自己イメージそれぞれについて重要な他者(母、好意を持つ異性、教師)に対して示したいと思う程度、実際に示せていると思う程度を尋ねた。その結果、文化的自己観のうち相互協調的自己観が呈示する自己イメージの変化をより強く規定していた。また、自己卑下的に自己イメージを捉える傾向が被調査者全体に見られ、さらにその傾向は相互協調的自己観が優勢な人に顕著に見られることが明らかになった。これらの結果から、文化的自己観の、自己呈示行動への影響について議論する。
キーワード
文化的自己観、自己呈示、重要な他者
表題
交渉と怒り:北西ケニア・トゥルカナにおける怒りの経験
著者
作道信介(弘前大学人文学部)
要約
北西ケニアの牧畜社会トゥルカナは交渉によって問題を解決する交渉社会である。トゥルカナの人びとにとって、「怒り」(アゴイキン)は災厄をひきおこしかねない危険な情動である。相談者は深刻な病気や異変に出会ったとき、相談者は怒りの原因を知るため、サンダル占い師をたずねる。相談者は、相手を怒らせたエピソードを想起し、ときに反論として、相手によって怒らされた場面について語る。本論は、占いでのやりとりを怒りの脚本の生成過程としてとらえ、情動の社会的構築主義にもとづく脚本分析をおこなった。その結果、22の占い場面から4つの怒りの脚本が抽出された。不十分な対応、無断で処分・決定、要求の拒否、関係の拒否である。これら脚本は、「たがいにむきあって共存をはかる」協働原理への侵犯をテーマとしていた。トゥルカナの怒りは交渉社会がどうして生み出す不満を「怒り」として明示し、調整する機能を果たしている。最後に、比較社会的展望と構築主義の課題を示した。
キーワード
情動、怒り、社会的構築主義、占い、トゥルカナ