第28巻 第3号 2013年3月 和文要約

表題
自己制御行動がバーンアウトに及ぼす影響:
就労者の自律性に着目したパネル調査に基づく検討
著者
後藤崇志(京都大学大学院 教育学研究科・日本学術振興会)
楠見 孝(京都大学大学院 教育学研究科)
要約
 本研究の目的は、自律性が異なる就労者間で自己制御資源の減少がバーンアウトを引き起こすかの検討であった。424名の就労者を対象にパネル調査を行った。その結果、1) 自律性は感情の制御とバーンアウトとの関連に影響することが明らかになった。自律性の低い人では、感情の制御がバーンアウトを増大させたが、自律性の高い人ではそのような影響は見られなかった。さらに、2) 自律性は感情の制御以外の自己制御行動とバーンアウトとの関連には影響しないという結果が見られた。なぜ自己制御資源の減少がバーンアウトに繋がったのか、またどのように自律性がこのことに影響したのかについて、制御資源モデル、認知制御、生理学上の基盤をもとに、自己制御のプロセスに言及しながら論じる。
キーワード
自己制御、バーンアウト、自律性、制御資源モデル
表題
物語の構築しやすさが刑事事件に関する判断に与える影響
著者
浅井暢子(東北大学大学院文学研究科)
唐沢 穣(名古屋大学大学院環境学研究科)
要約
 本研究では、事件情報に基づいて構築される「物語」が、法学の非専門家の裁判判断と被害者認知に与える影響を検討した。実験では参加者に、故意の殺人、または正当防衛と判断可能な事件に関する20個の証言を呈示した。物語が構築しやすいように、証言を事件の生起系列順に呈示すると、系列と無関連に呈示した場合と比較して、殺人事件の被告人にはより重い量刑が、正当防衛のケースではより軽い量刑が科されることが示された。また、証言が時系列順に呈示されると、被害者による事件の回避可能性の認知も極化した。同様の効果は、正当防衛条件における被告人の有罪性判断でも認められた。証言の呈示順序の明確な効果が認められない裁判関連判断も存在したが、本研究の結果は総合的に、物語の構築が裁判判断や事件認知に強く影響することを示している。以上の知見を踏まえ、一般人の裁判判断の基盤となる認知的過程について議論した。
キーワード
裁判員制度、物語の構築、非専門家の判断過程、被害者認知
表題
「幸運の相対性仮説」とその検証
著者
村上 幸史(神戸山手大学現代社会学部)
要約
 村上(2009)は「幸運」な事象を得た直後に、不確実事象の成功可能性を低く見積もる傾向を「運資源ビリーフ」の観点から示した。ただし実際の選択では、期待の低下に応じて、必ずしもリスクを含んだ選択を回避する訳ではないことが分かっている。
 この傾向を説明するために、複数の事象に関する価値の観点から「幸運」の相対性仮説が提唱された。この仮説は、単独で「幸運」な結果を得たことはマイナスの価値は持たないが、未来に生起する事象の結果を含めて考慮される場合には、得た「幸運」の価値が変化するという相対的な認識変化を指す。
 この価値の変化と選択の傾向を調べるために、質問紙調査(研究1)と実際に行われたサッカーワールドカップの試合を予想する実験(研究2)が行われた。その結果、重要な事象の前に生起した「幸運」な事象の価値は低下するために、「運資源ビリーフ」を持つ者はリスクを含んだ選択を回避する傾向が見られた。これは「幸運」の相対性仮説を支持する結果であり、この結果は予期後悔の観点からも議論がなされた。
キーワード
「運資源ビリーフ」、リスクテイキング行動、「幸運」の相対性
表題
道徳的違反に対する怒り感情:義憤を規定する状況要因の検討
著者
上原俊介(東北大学大学院文学研究科)
中川知宏(近畿大学総合社会学部)
国佐勇輔(株式会社ベネッセスタイルケア)
岩淵絵里(仙台市役所)
田村 達(岩手県立大学社会福祉学部)
森 丈弓(いわき明星大学人文学部)
要約
 道義に反する他者の行動を見ると、知覚者の側にはしばしば怒りが喚起されるが、これは義憤(moral outrage)と呼ばれている。しかし最近の研究によれば、どんなに不当な危害であると認知されても、怒りは自分や自分の同胞が被害にあったときしか強まらず、道徳的違反場面では私憤(personal anger)の怒りしか確認されていない。そこで本研究では、義憤とは被害者の救済など公正回復の見通しが高いと期待される場面で引き起こされるものであると仮定し、3つの実験を通してこの予想を検討した。日本人参加者に対して拉致の被害者を操作した架空の新聞記事を読ませ(被害者が日本人vs.スロベニア人)、彼らの怒りがどう変化するかを観察した。その結果、公正回復が可能であれ不可能であれ、参加者の報告した怒りは日本人拉致の記事を読んだときにしか強まらなかった。この結果は、違反行為に対して抱かれた怒りが私憤であること、公正回復可能性の知覚は義憤を生み出す強力な規定因とならなかったことを意味している。3つの実験結果を通して本研究は、現実の怒り場面では義憤よりも私憤が優位であるという可能性を指摘した。
キーワード
怒り、義憤、私憤、公正回復可能性
表題
基礎自治体に対する公正感と地域社会に対する態度の関係、および経済格差による調整効果についての検討
著者
今在慶一朗(北海道教育大学)
要約
 地方分権改革により、日本の行政において基礎自治体が果たす役割は以前にも増して重要になってきている。本研究では、市政の意思決定に対する公正感が地域住民の態度に与える影響について検討した。従来の手続き的公正研究によれば、一般に、人々は集団の権威者を手がかかりとして、意思決定の公正さを評価し、公正感の強さに応じて集団に対する親和的態度を強めることが確認されてきた。札幌市民を対象とした質問紙調査を行ったところ、市職員が市民にとっての市政の公正感の心理的要因として機能しやすいことが確認された。また、世帯年収別の分析では、とくに低所得者の場合、市政に対する公正感によって地域に対する愛着を強め、暮らし向きについて楽観的な見通しを抱きやすくなることが確認された。
キーワード
手続き的公正、長期的利得、自治体
表題
平均構造・多母集団同時分析を用いたセルフ・モニタリング(Self- Monitoring)尺度の文化的等価性の検討
著者
船越理沙(フェリス女学院大学大学院人文科学研究科)
田崎勝也(青山学院大学国際政治経済学部)
潮村公弘(フェリス女学院大学文学部)
要約
 本研究は、Snyder(1974)のセルフ・モニタリング(Self-Monitoring)尺度の文化的等価性に関して、構造方程式モデリングを用いて特異項目機能(Differential Item Functioning)の観点から検証を行うことである。日本と米国とで収集されたデータ(日本211名, 米国171名)を対象として、セルフ・モニタリング尺度の下位次元である外向性、他者志向性、演技性それぞれの因子ごとに因子分析を行い、外向性5項目、他者志向性4項目、演技性4項目に着目して、質問項目への反応が日米間においてどのように異なるのかについて、質問項目の特異項目機能を検討した。分析の結果、外向性、演技性の2因子においては部分因子不変が、他者志向性因子においては強因子不変が認められ、それぞれの因子が日米間で因子平均の比較に耐えうる等価性を有していることが示された。因子ごとのDIF分析の検証と因子平均の比較から、比較文化的妥当性について考察がなされた。
キーワード
セルフ・モニタリング尺度、文化的等価性、特異項目機能、構造方程式モデリング