ほどほどに気を散らすのが創造的になる秘訣?



山岡明奈・湯川進太郎 (2016).
マインドワンダリングおよびアウェアネスと創造性の関連
社会心理学研究 第32巻第3号

Written by 三浦麻子
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創造性とマインドワンダリング

日常生活において創造性を求められる場面は数多く存在する。時には奇想天外といわれても,アイディア豊かに,クリエイティブな思考をしたい。社会心理学者のみならず多くの研究者は日々こうした思いを抱いているだろうし,新しい商品を売り出そうとする開発者しかり,あるいは恋人にちょっと意外な,でも「まさかこんなものをくれるなんて!」と感激してもらえるクリスマスプレゼントを贈ろうとたくらむ人もしかり,である。求める人あらばそこに解決策を模索する試みが存在するのが常で,創造性を高めるための技法の開発やその有効性を検証する研究は長年にわたり数多く行われてきた。君の研究こそちょっとクリエイティブにすぎないか,と言いたくなるようなユニークな試みも多いのだが,どのような個人特性が,あるいはどのような状況が,数多くの,そしてユニークなアイディア創出に結びつくのかを考えるのは魅力的な研究テーマである。特に本研究が注目したのは,「注意」に関する個人の傾向と創造性の関連である。


マインドワンダリング(mind-wandering)は,現在行っている課題や外的な環境の出来事から注意が逸れて,自発的な思考を行う現象である(wanderは「さまよう」「さすらう」という意味)。いわゆる「心ここにあらず」という状態のことだ。授業中に何となく窓の外に目を向けると,雪が降り始めている。ああ,もうそんな季節か。クリスマスももうすぐだ。まだプレゼントを買えていないが,どうにかして恋人を喜ばせたい。最近何が欲しいと言ってたっけな…。こうなるともう授業どころではない。ワンダラーは授業時間の残り30分をかけて,ああでもない,こうでもないとプレゼントについて考える旅に出てしまう。


現にある状況に何とか注意を向けさせたいという立場で考えると,マインドワンダリングはやっかいな現象である。だからかどうかは分からないが,マインドワンダリングが多いとテストの成績が悪くなるとか,ネガティブなことばかり考えてしまいがちだとか,ワンダラーになってしまうことの悪影響を謳う研究が少なくない。しかし,前述例からも想像がつくだろうが,創造性との関係は悪くないと考えられる。新しいアイディアを多く生み出そうと思えば,マインドワンダリングのような注意散漫状態の方が,特定の方向性に固着することのない,抑制をきかせすぎない思考ができて好適なのではないか。


もう一つ著者らが注目したのは「マインドフルネス」である。「今ここでの経験に,評価や判断を加えることなく能動的な注意を向けること」と定義されているマインドフルネスは,認知行動療法における第3の有効なアプローチとして近年つとに注目度が高まっている。マインドフルネスの中核となるのは「アウェアネス」すなわち「気づき」で,現在の活動や経験に十分に注意や気づきを払うことのできる能力を指す。注意集中を求めるのだからマインドワンダリングとは対立する概念だ。となれば「新しいアイディアをより多く」という創造性との相性はあまりよくなさそうである。


本研究では,創造性を測定する際に,われわれが日常よく使う品物を題材にして,本来の用途とは異なる使い方をできるだけたくさん考えさせるタイプの創造性課題(Unusual Uses Task; UUT)を用いている。UUTに取り組む参加者のマインドワンダリング傾向とアウェアネス傾向を測定して,思いついたアイディアの創造性との関連を調べている。


実証研究の結果

協力者は大学生538名で,質問紙調査によって行われた。マインドワンダリング傾向は以下に示すような5項目で測定され,アウェアネス傾向は15項目で測定された。UUTの対象となった日用品は「靴下」と「缶詰の缶」である。靴下は足に履く,缶詰の缶は食品を密封保存するのが本来の用途だが,クリスマスプレゼントを入れる袋にする,とか,蓋をとって植木鉢にしてポインセチアを植えてプレゼントする,といったアイディアをできるだけたくさん書き出すのである。


マインドワンダリング傾向の測定項目(MWQ日本語版;梶村・野村(2016)に基づく)
人の話を聞きながら,気づいたら何か他のことも考えている
授業中に別のことを考えてしまう*
物事を行うのに十分な注意を払わない
単純な,あるいは単調な作業に集中し続けることが難しい
書類や本などを読みながら,他のことを考えたりぼんやりしたりして,もう一度読み返す
*梶村・野村(2016)では,幅広い年齢層に適用することを踏まえて“仕事中や授業中に別のことを考えてしまう”と項目を修正している。


UUTで挙げられたアイディアは,先行研究にならって「流暢性」「柔軟性」「独自性」の3つの観点から創造性が評価された。ざっくり言うと,流暢性とはアイディアの数で,柔軟性はアイディアの多様さで,独自性はアイディアの非凡さである。たくさんあっても互いに似たりよったりだったり他の人も思いつくようなものばかりだと流暢性は高いが他の2つが低く,少ししか思いついていなくてもそれがユニークなものであれば独自性は高い,と評価される。特に本研究では独自性を「非重複独自性」「希少的独自性」「評価的独自性」3つの観点から評価している。非重複独自性は,他の参加者が誰も思いつかなかったアイディアに1点が与えられ,希少的独自性は書き出された全アイディアの中で占める比率が低いものに高得点が与えられ,評価的独自性はこれらとは異なり,アイディアそのものが創造的かどうかを評定者2名が評価することによって得点化された。つまり,非重複/希少的独自性は内容によらず「今回得られたデータの中で他に類似のものがない/少ないかどうか」の指標であり,評価的独自性は内容が「クリエイティブだと見なされるかどうか」の指標である。


図 マインドワンダリング各群における非重複独自性と評価的独自性
図 マインドワンダリング各群における非重複独自性と評価的独自性(論文Figure 2とFigure 3より引用)


マインドワンダリング傾向とアウェアネス傾向が創造性評価の各指標とどのような関連をもつかを分析した結果,アウェアネス傾向はどの指標とも統計的に意味の関連をもたない一方で,マインドワンダリングについては以下の図のような関連をもつことが見出された。特徴的な傾向をもっていたのはマインドワンダリング傾向が「ほどほど」な中群であり,非重複的独自性が高い一方で,評価的独自性はむしろ低かった。つまり,「ほどほど」に注意散漫な参加者は,そうでない参加者よりも,他者が考えつかないような稀なアイディアを思いついてはいるが,その内容がクリエイティブだと他者から評価されるかといえばそうでもない,ということである。これは,他と比べて突出して非重複的独自性の高いアイディアを思いついていた参加者のマインドワンダリング傾向が「ほどほど」に集中していたことの影響が強いと思われる(論文Figure 1参照)が,そのメカニズムは明らかではない。


本研究の結果,マインドワンダリングをよくする人はクリエイティブだ,といった単純な直線的関係ではないことが示された上に,突飛で稀なアイディアを思いついたからといってそれらがクリエイティブだと評価されるとは限らないことも示唆された。何事もほどほどがよい,かと思いきや,そうでもないようである。授業そっちのけであれこれ考えた末に贈ったクリスマスプレゼントが,あまりに突飛すぎてかえってドン引きされることもありそうだ。あぶないあぶない。マインドワンダリングと創造性の関連もまた,まだまだ解明しがいのある魅力的なテーマである。著者らの今後の研究の展開に期待したい。


山岡明奈氏へのメール・インタビュー

1)この研究に関して、もっとも注目してほしいポイントは?
マインドワンダリングは,そのネガティブな影響に注目されがちですが,人間にとって機能的な,ポジティブな一面も持っている可能性がある点です。

2)研究遂行にあたって、工夫された点は?
今回はあまり工夫ができませんでしたが,無自覚に生じる現象(思考)をいかに測定するべきかを,今後検討していくべきだと考えています。

3)研究遂行にあたって、苦労なさった点は?
データ(特に分布図)や結果の解釈です。

4)この研究テーマを選ばれたきっかけは?
もともと思考という活動に興味・関心がありました。

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『社会心理学研究』は,日本社会心理学会が刊行する学術雑誌です。
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