1997年度日本社会心理学会若手研究者奨励賞受賞者一覧

受賞者
久保田 健市(筑波大学)
申請課題
少数派および多数派集団の集団間差別と移行可能性(2)
研究目的
Tajfel & Turner(1979)は,不平等な集団間関係における成員の集団間差別に影響を与える要因の1つに集団境界の移行可能性(permeability)を挙げている。従来の研究は、主に高地位―低地位という地位の格差が存在する集団間関係で移行可能性の問題を扱ってきたが(Ellemers, 1993)、少数派―多数派という文脈で検討してはいない。特に社会的態度のような基準で構成される社会的カテゴリーでは、集団サイズの変動もまた,集団のもつ勢力や優位性を変化させるという意味で重要である。久保田(1997)は、サイズの小さい少数派が,移行可能条件でも有意な内集団びいきを示すことを明らかにした。しかし、分散分析の結果移行可能性の有意な主効果および交互作用は見られず、明確な実験結果は得られなかった。そこで,社会的カテゴリー化などの手続きを改善し、引き続き少数派―多数派という集団間関係における移行可能性の効果について検討することを目的とする。
研究方法
研究の方法として、最小条件集団パラダイム(Tajfel, Billig, Bundy, & Flament, 1971)に基づく実験研究を予定している。実験参加者として120名程度の大学生を募集し、1回の実験に15人程度が参加する小集団状況で実験を行う。実験参加者は、カテゴリー分けのための質問紙に回答し、その結果について教示を受けた後に、集団間差別に関る課題を行う。少数派および多数派集団への割り当て、および、集団境界の移行可能性の条件の操作は、実験者からの教示をもとに行う(具体的な教示の内容については未定)。集団間差別の測定には、久保田・吉田(1995)で用いられたのと同様の報酬分配マトリックスを使用し、匿名の2者に得点を分配する課題を行う。さらに、得点の分配に関連する複数の質問項目にも併せて回答してもらう。実験では、カテゴリー分けの際に偽の教示を与える必要があるので、実験終了時に十分なデブリーフィングを行い、謝礼を手渡す.奨励金は主に実験参加者への謝礼に充てる予定である。
受賞者
坂元 桂(お茶の水女子大学)
申請課題
刺激の表記形態の差違が閾下単純接触効果および有名性効果に及ぼす影響
研究目的
近年、社会的認知研究において注目されている現象として、閾下単純接触効果と有名性効果がある。閾下単純接触効果とは、閾下で、ある刺激を繰り返し呈示されると、その刺激を覚えていないのもかかわらず、好きになってしまうという効果のことである。また、有名性効果とは、無名名・有名名にかかわらず、ある名前に以前接触していると、その名前を覚えていなくても有名と判断してしまうという効果のことである。こうした現象が生じるプロセスとして、知覚的流暢性(すなわち、刺激の処理が促進された状態)の誤帰属説が出されているが、この仮説の妥当性を実証的に検討したものはない。知覚的流暢性の誤帰属説によれば、刺激が反復呈示されることでその刺激の処理効率が高まり(すなわち、知覚的に流暢になり)、その刺激に対しファミリアリティを感じるようになる。このファミリアリティの感じは、その刺激が以前反復呈示されたことに気付いている場合には、感じの原因を刺激呈示に正確に帰属できるが、気付いていない場合(すなわち、閾下で刺激が呈示された場合)には、その刺激自体の性質(例えば、好ましさや有名性)に誤って帰属してしまうというものである。本研究は、知覚的流暢性の度合いを最適処理転移の原理を利用して操作することで、この仮説の妥当性を検討することを目的とする。
研究方法

本研究の目的は、知覚的流暢性の低い条件を作り、この条件下では今まで見出されてきた閾下単純接触効果や有名性効果が弱まることを示すことで、こうした効果の媒介過程として知覚的流暢性の誤帰属が妥当であるかを確認することである。このため、通常の反復呈示によって知覚的流暢性を高める群と、反復呈示はするが最適処理転移の原理を利用して知覚的流暢性をあまり高めない群を用意する。


認知心理学の分野では、学習時と課題時の刺激形態が異なる(例えば、学習時に片仮名で呈示・課題時に平仮名で呈示する)場合には、先行呈示による処理効率の促進は得られないことが示されている(最適処理転移の原理)。つまり、りんごを片仮名表記で学習し、平仮名表記の課題を後に行った場合には、片仮名表記の課題を行うよりも処理の促進は低いことになる。そこで、本研究では、刺激(人間の名前)を閾下で呈示し、単純接触効果や有名性効果の有無を検討する。さらに、この際に、半分の被験者には片仮名表記で、もう半分の被験者には平仮名表記で名前刺激を呈示する。従属変数は、知覚的同定率(知覚的流暢性の測定)、好意度判断(単純接触効果)、有名性判断(有名性効果)である。これらの従属変数を測定する際、さらに、半分の被験者は平仮名表記の課題が呈示され、もう半分の被験者は片仮名表記の課題が呈示される。


こうした操作を行った結果、次のような結果が期待される。平仮名表記の刺激に接触し平仮名表記の課題を行う(または、片仮名表記の刺激に接触し片仮名表記の課題を行う)方が、平仮名表記の刺激に接触し片仮名表記の課題を行う(または、片仮名表記の刺激に接触し平仮名表記の課題を行う)よりも、呈示刺激の知覚的同定率が高く、より好意的に判断し、より有名であると判断する。もしこうした結果が得られれば、知覚的流暢性の誤帰属説が妥当であると結論できるだろう。
受賞者
杉浦 淳吉(名古屋大学)
申請課題
ゴミ分別回収の導入が住民の社会的利益・個人的負担の認知に及ぼす時間的影響
研究目的

リサイクルの普及といった環境問題への対処には住民(消費者)一人ひとりの協力が不可欠であるが、社会的ジレンマであるため協力行動を引き出すのは容易ではない。こうした社会的ジレンマの解決に関して、これまで実験室実験やゲーミング・シミュレーションによって実証データが蓄積されている。しかし、社会的ジレンマの理論を精緻化していくには、現実社会の問題に関わる実証データが不可欠でる。また、容器包装リサイクル法の実施により、ゴミ減量を目的とした資源リサイクルが社会的に求められており、社会心理学の諸理論・諸技法による現象の分析の必要性は、環境問題の専門家からも指摘されている。


本研究では、実際の地域社会におけるごみ分別収集の導入において、協力行動に影響を及ぼすと考えられる社会的利益・個人的負担の認知に焦点をあて、その時間的変容を検討する。
研究方法

行政によって資源ゴミの分別収集が導入された地域社会における住民の資源リサイクルへの協力行動について、以下の方法を利用し、補完的に現象を明らかにする。


  1. 参与観察OJTとしての住民の立当番やステーションにおける分別回収に実際に参加し、そこで交わされる住民の会話を収集し、内容分析をおこなう。
  2. 聞き取り
    まず、資源回収の運営に関する問題点や資源回収の実績などに関して、行政の環境課担当者より継続的に聞き取りを行い、地域社会における資源リサイクルの現状を明らかにする。一方、住民にたいして、分別の負担感や立当番制度に関する意見などの聞き取りを行い、時間経過に対する個人のスト評価を記述的に明らかにする。
  3. 社会調査
    サンプリング調査を行い、地域における分別回収にたいする認知変数の変化を時間を追って検討する。まず、社会的利益に関する認知と個人的負担に関する認知が分別回収の評価に及ぼす影響について、導入時期の異なる3地点をピックアップし、3地点に対して同時に調査を行う。さらに、同じサンプルに対して結果をフィードバックするとともに、再び分別回収への評価に対する調査を実施する。この調査から、時間経過による住民の分別回収に対する評価を明らかにする。
研究協力者
広瀬 幸雄(名古屋大学文学部)