本研究の目的は、対人コミュニケーション認知を社会的スキルとして捉え、そのメカニズムを解明することである。
近年、欧米の研究では、対人コミュニケーション認知における行為者・観察者効果として、観察者が活発性を手がかりにしてコミュニケーションの成功度を判断する「表出性ハロー効果」が報告されている。申請者は、本邦でもこの効果を確認し、これによって、ポジティブな話題では観察者の判断の精度が高まる一方、ネガティブな話題では低下することを明らかにした(木村・余語・大坊, 2002, 2003a, 2003b)。
研究パラダイム
Gifford(1994)、Bernieri et al.(2001)を参考に、Brunswikのレンズモデル(lens model)・アプローチを対人コミュニケーション認知に適用し、
の3点を明らかにすることによって、認知メカニズムを検討する(Figure 1)。
その際、
実験手順
変数aの測定 未知関係にある大学生60組120名を会話者として用い、ペアごとに10分間の会話実験を行う。後半5分間の会話の様子をVTRに撮影する(このような会話場面の抽出方法についてはBernieriや申請者の研究から妥当性が確認されている)。会話終了後、会話者には、会話満足度、相手に対する好意について回答を求める。
変数bの測定 撮影したビデオテープをもとに、会話中のコミュニケーション行動および発話内容に関する分析を行う。行動指標は、仮説を知らない独立したコーダー2名によるコーディングを行う。言語指標は、文字化してカテゴリー化する。
変数cおよび社会的スキルの測定 観察実験を行う。撮影した会話場面を刺激にして、会話者と面識のない大学生60名を観察者として用いる。観察者は、事前に社会的スキル尺度(KiSS-18; 菊池, 1988)を実施し、スキル高群・低群に分ける。一度の実験参加人数は3-5名程度とし、全3回(1回1時間半程度)の観察実験を行う。各刺激(会話場面)を呈示後、観察者に話者の会話満足度および相手への好意を推測するよう求める。
仮説検証と探索的検討による考察
研究結果から、練習効果による判断精度の向上可能性、社会的スキルと判断精度の関連について議論し(仮説検証部分)、更に、レンズモデル・アプローチによる(1)(2)(3)から議論を深める(探索的検討部分)。最後に、今後の展開として、文化的特徴との関連や、教育現場での教師による生徒間、企業での上司による部下間の関係良好性判断への応用について議論する。本研究の目的は,目標を表現する枠組みが認知・行動に影響を与えるという目標フレーミング効果の背後にあるメカニズムの解明にある.
従来の目標研究では,目標の内容が行動方略に与える影響が検討されてきた.しかし,近年,目標の内容が同じでも,その表現が"快への接近"の場合と"不快の回避"の場合では,異なる感情・認知・行動が生起するという知見が増加している(Higgins, 1998).ただし,既存の研究では,フレーミング効果間の関係や処理の順序性について検討されておらず,接近目標と回避目標がどのようなプロセスを介して認知・行動を導くかは解明されていない.
目標フレーミングが特定の感情処理を促進し,感情処理が特定の認知・行動を導くという構造モデルを検証する.これまでの申請者の研究によると,接近目標が歓喜-落胆の処理を促進し,回避目標が安心-焦燥の処理を促進する.本研究では,これらの感情処理が認知・行動を導くと想定し,以下の2つの研究を行なう.
<研究1:感情媒介モデルの妥当性>
上記の構造モデルの妥当性を検証するために,目標フレーミング,感情の処理効率,行動方略の関連について検討する.
参加者は,大学生80名.実験要因は,目標フレーミング(接近 vs. 回避)の1要因2水準.手続きは,目標提示後に,感情処理の効率,行動方略を測定する.目標フレーミングは,実験時間についての教示より操作する.即ち,接近条件では"実験は基本的に30分かかるが,あなたの成績が良いと10分で終了する"と教示し,回避条件では"実験は基本的に10分で終了するが,成績が良くないと30分かかる"と教示する.
感情処理の効率は,語彙判断課題によって測定する.また,行動方略は,Crowe & Higgins(1997)の再認課題によって測定する.この課題では,接近目標が正反応率と遂行エラーを増加させ,回避目標が正棄却率と無反応エラーを増加させることが確認されている.即ち,接近目標は行動を促進させ,回避目標は行動を抑制させる.本研究では,語彙判断課題における感情語のRT(歓喜-落胆,安心-焦燥)と行動方略(正反応率,誤反応率)について相関分析を行なう.また,感情語のRTを共変量とした場合,フレーミング効果が消失するかについても検討する.
<研究2:感情処理と行動方略の因果関係>
感情処理が行動方略を導くという因果関係を確証するには,目標フレーミングではなく,感情処理を直接的に操作し,その後に生起する行動方略について検討する必要がある.そこで,感情プライミングの手法を用いて,この仮説について検討する.
参加者は,大学生40名.実験条件は,感情プライミング(接近感情 vs. 回避感情)の1要因2水準.手続きとしては,感情プライミング後に,行動方略の測定を行なう.感情プライミングには,アナグラム課題の単語リストを用いる.単語リストは,フィラー20語と感情語10語から構成される.接近条件では感情語として"うれしい"や"らくたん"を提示し,回避条件では"あんしん"や"ふあんな"を提示する.行動方略の測定には,研究1と同様に,再認課題を採用する.
国際的な紛争や抗争が深刻化する中、集団間葛藤をもたらす行動の背後にある心理過程を解明することは重要な課題である。本研究の目的は、集団間競争時と非競争時の内集団協力を規定する心理過程の質的な差異を示すことにある。
本研究では、上記の仮説を検証するため、Prentice, Miller & Lightdale (1994) が示した2種類の愛着を用いる。彼らは、内集団への愛着にはカテゴリー自体に対するもの (common identity) と内集団成員に対するもの (common bond) があり、前者が行動や認知のより強い規定因となっている場合は集団間葛藤の解決に、common bondがより強い場合は集団内葛藤の解決に向いていることを示唆した。この議論は、本研究の仮説と一貫する。つまり、集団間競争時にカテゴリー単位の認知スタイルになっていれば、common identityがより強い内集団協力の規定因となり、集団間非競争時は個人単位の認知スタイルであれば、common bondが内集団協力のより強い規定因となることが予測できる。
本実験ではまず、実験参加者に恐怖感情を生じさせるために、プライミングとして他者の恐怖表情をモーフィング画像により提示する。恐怖が個人間で伝染するのであれば、他者の恐怖表情を知覚することで、受け手側である参加者にも、同様に恐怖感情が生起すると考えられる。
次に、認知心理学実験において用いられている"Probe Detection Task"により、実験参加者の恐怖感情を測定する。この課題では、まず感情価の異なる2種類の画像が、マスク刺激としてモニターに提示され、その後probeである「矢印」が、マスク刺激が提示されたいずれかの場所に現れる。参加者は、マスク刺激の感情価とは無関係に、この「矢印」の向きをできるだけ早く回答するよう指示される。参加者が恐怖を感じているならば、恐怖に関連するマスク刺激と同一の位置に提示された「矢印」に対してはすばやく反応し、逆に、恐怖刺激とは別の位置に現れる「矢印」に対しては、反応が遅延すると予測される。
本実験では、"Probe Detection Task"と並行して、参加者の表情筋電位、及び皮膚電気反応を測定し、生理的な側面からも恐怖感情の生起を検討する。恐怖表情提示時において、恐怖表情の表出に使用される皺眉筋が活性化し、かつ、感情の喚起水準を示す皮膚電気反応が高まるのであれば、参加者に恐怖感情が生起したことの有力な証拠となる。また、"Probe Detection Task"で提示される、恐怖に関連した刺激に対しても、これらの生理指標が、統制条件(恐怖表情ではなくニュートラル表情をプライミングとして用いる条件)と比較して、より活性化する可能性も考えられる。
本研究の目的は,小集団会話コミュニケーションにおいて,それぞれの話者が 自分の役割(話者役割)を取得するメカニズムおよび会話集団の話者役割構成が集 団パフォーマンスに及ぼす影響ついて明らかにすることである.話者役割とは具 体的には情報提供者やコメンテータ,司会といった自発的に取得される会話中で のポジションであり,それぞれ特有の会話パターンを示す.
これまでの研究により,3人会話および5人会話それぞれにおける話者役割を,行動指標を用いて同定している(藤本, 村山, 大坊, 2004a; 2004b; 2004c; Fujimoto, Murayama, & Daibo, 2004).5人会話で特定された話者役割は,リーダーシップ行動との関連を示し,会話の展開にはたらきかける発言の多い"コーディネータ(司会者的役割)"・"ファシリテータ(会話促進的役割)"と,会話の展開には直接関与しない"情報提供者"・"コメンテータ"・"聞き手"の5種類であった.
上述のような行動指標により明らかにされる話者役割の予測可能性を検討するため,個人要因である会話スタイルを測定するために会話スタイル尺度(藤本,発表準備中)を,集団要因である集団内の人間関係を測定するためにソシオプロフィール法(藤本, 2003; 藤本, 大坊, 2003a; 2003b; 藤本, 2004)を,これまでの研究においてそれぞれ開発した.会話スタイル尺度は,"会話マネージメント","発言","傾聴"の3因子と“静観”の補助因子から成る.これら3因子の高低の組み合わせにより特定される8種類の会話スタイルは,「日常話し合いをする機会の多い人を分類する」という課題で得られるカテゴリーと対応することが明らかになっている.また,ソシオプロフィール法は集団内の各メンバーとの関係性の親密さを相互評価させた非対称データから集団構造を明らかにする分析手法である.このように本研究では,話者役割の取得メカニズムについて,独自に開発した会話スタイル尺度とソシオプロフィール法により得られるデータから説明を試みる.
集団内の話者役割構成については,まず行動指標である発言パターンから各メンバーの話者役割を同定し,会話集団がどのような話者役割構成になっているのかを特定する.つぎにその集団の話者役割構成と集団パフォーマンスとの関連性を明らかにするという手順で検討を進める.