伊藤・池上(2005)では,調査者が作成した仮説的行動を調査協力者に提示して行為者の動機の推論を求めたが,本研究では知見の一般化可能性を考慮し,調査協力者が実際に目にした行動を対象にして,その行為者が持っていたであろう動機を推論してもらう(研究目的(b)の検討)。具体的には,実際に調査協力者が知覚した“(調査協力者以外の)誰かが(調査協力者以外の)誰かに対して行ったポジティブな行動,あるいはネガティブな行動”を想起させその内容を記述させる。そして,行為者がなぜその行動を行ったのか,その動機,意図,理由を推論し記述させる。伊藤・池上は各行動につき動機を2つずつしか推論させなかったが,どちらの感情価の動機が推論過程のどの段階で出現するかをより明確にするために,心に浮かんだすべての動機を思い浮かんだ順に記述してもらう。他者の行動を額面通りに受け取る一般的傾向(対応バイアス)と伊藤・池上の知見を考慮すれば,ポジティブな行動からは最初はポジティブな動機を推論するが,すぐにネガティブな動機にも言及するようになると予測できる(研究目的(a)の検討)。伊藤・池上が示したように,ネガティブな行動からはネガティブな動機を推論しやすいと予測するが,仮にポジティブな動機に言及することがあっても,それは推論のより後の段階になるだろう。
本研究の目的は、ステレオタイプの言語的特質が人物理解に与える影響を明らかにすることである。ステレオタイプが対人認知に関する情報処理を容易にすることは、多くの研究によって明らかにされている。しかし、言語表現がその効果をさらに助長するという可能性については十分な検討が行われていない。
研究1.人物の傾性を表す言語表現を「具体(一次的行為) - 抽象(安定的な傾性)」の次元で4段階に分類する言語カテゴリー・モデルをさらに拡張して、日本語に特有な傾性表現である形容動詞、「しっかりしている」などの「-ている」表現、傾性を表す名詞(ex.真面目さ、社交性)、そして「真面目さがある」のような、「傾性を表す名詞+-がある」表現を多く収集する。収集したそれぞれの言葉に対して、それがどれほど人物の傾性を表すものかを問う質問項目を設ける。調査は大学生100名程度を対象に行なう。回答から得られたデータをもとに、判別分析などによってカテゴリー分類を行ない、日本語版言語カテゴリー・モデルを開発する。
研究2.特性形容詞のような抽象的な表現は、内的で安定的な傾性を表すことができ、人物理解において最も有用である。一方、「走る」「笑う」などといった具体的な表現は、その場限りの一時的な行為しか表すことができない。この議論から導出される以下の3つの仮説を検証するため実験研究を行なう。
大学生80名程度を対象に実験を実施する。ステレオタイプ一致性(一致・不一致)と、その記述に用いる言語表現(抽象的・具体的)を操作した刺激文を作成する。回答者にはその刺激文に基づいてターゲット人物に対するステレオタイプ的印象や、ターゲット人物への理解度についての判断を求める。
懸念的被透視感とは、日常場面で他者と相互作用しているとき、自分で直接的に伝えていないのに、その状況で意識している気づかれたくないことを相手に気づかれていると感じる感覚である(太幡, 2005)。
人は懸念的被透視感を感じると、気づかれないようにするための反応をとると考えられる。しかし、この感覚は主観的な推測であるため、実際には気づいていない相手に対して不必要な反応をすることも想定できる。
太幡(未発表)では、気づかれたくないと強く感じる事柄に懸念的被透視感を感じると、関連する話題からの回避が生じやすくなり、その結果、観察者に不自然な印象を与えてしまうという結果が得られた。この知見を実証的に検討することが本研究の主な目的である。また併せて、太幡(2005)で検討された、覚醒水準の高まりを反映したノンバーバルな反応も測定する。
〈実験計画〉
気づかれたくない動機(高・低)×懸念的被透視感(操作前・操作後)の2要因混合計画で、前者が被験者間要因、後者が被験者内要因である。
〈分析プラン〉
面接者(実験参加者)が実験協力者Aにフィードバックをするときを懸念的被透視感の操作前、実験協力者Bにフィードバックをするときを懸念的被透視感の操作後とし、面接者の反応や反応が与える印象を比較する。
従来の社会的交換研究は, 主に特定2者間での「限定交換」を検討してきたが, Austin & Walster(1975)の「世界に対する衡平性(以下EwW)」仮説は, 八つ当たりのような, 人が第三者を含んだ複数の関係(以下関係間)で帳尻を合わせる傾向を強調した。EwWの視点は互恵性が間接的かつ非相互的に働く「一般交換」(Ekeh, 1974)の形で, 他者への一方的な資源提供・搾取行動が連鎖する過程を解明する手がかりになると考えられる。より現実的には, 金銭的交換のみならず, 地域通貨などの援助ネットワーク構築や犯罪・迷惑行為による負債の擦り付け合い防止などの問題への有効なアプローチとなるだろう。
<研究1>
先行研究では, 関係間の問題は「過去に他者Aから不衡平な報酬を受けた個人が, 続く場面で他者Bにどう分配するか」というパラダイムで検討されてきた。そこでは「自分が損をしたら, 別の他者からでも搾取する」という行動のみが示されたが(Austin & Walster, 1975), 第三者からの搾取を不公正と感じる個人も存在するはずである。そこで, 筆者は関係間における報酬分配行動の個人差に着目した実験を行ない, 向社会的規範を内面化している程度としての援助規範意識(箱井・高木, 1998)が低く,かつ自己正当化を行いやすい程度としての正当世界信念(Dalbert, 1999)が高い個人が, 過去の損失を第三者から取り返しやすいことを確認した。一方, 実験では確認されなかったが, 過去の利得を第三者に提供する行動については, 内集団成員性の共有や(Yamagishi et al, 1999), 他者と自己の利害関係認知(Opotow, 1994)の関与が指摘されている。そのため, 今後は関係間状況において「誰と」相互作用をするかという成員性の認知に着目し, 実験において, 他者の所属集団に関する情報を操作することで, 第三者を介したEwW回復行動及び, その公正性認知がいかに影響を受けるかを検討してゆく。
本研究は,集団の実体性が集団の印象,責任判断に及ぼす影響の解明を目的とする.近年,企業が起こした事件がメディアに取り上げられ,犯人が所属していた企業や企業の代表に対して賠償や謝罪を求めるという事例が見受けられる.これまでの研究からは犯人が所属していた集団に対して高い実体性(集団と犯人とのつながりの強さ)を知覚することによって,集団や集団の代表に対して高い責任が帰属されること,責任の知覚に先行して意図が知覚されていることの2点が示唆されている.しかし,実際に集団の実体性を操作し比較を行った研究は無く,実体性が集団の責任判断に及ぼす影響を直接に検証する必要がある.
本研究では,ある集団のメンバーが犯罪行為をおこした事態を想定し,1.集団の実体性,2.犯人に対して集団が与える私的制裁の2点を操作した質問紙実験を行う.具体的には,高い実体性を持つ集団,低い実体性を持つ集団が,犯罪者に対して私的制裁を加える条件と加えない条件との比較を行う.
従属変数:
本研究では,LickleらやO’Laughlin&Malle(2002)に基づき,実体性の知覚が意図の知覚を導き,意図が責任の知覚を導くという関係性を想定している.上記の概念間の関係性の確認のため,集団の責任判断に関して,Lickleらに指摘された“犯人の所属していた集団が事件の発生を止めなかった責任”と“所属集団が事件の発生を助長した責任”の2変数の測定を行う.さらに,責任を知覚する先行要因としての“意図”の測定のため,“事件の発生を止めなかったこと”と“事件の発生を助長したこと”をどの程度意図的に行っていたと知覚されているのかを測定する.また,企業イメージに関して,“犯人に対して加えた制裁が適当であったか否か”,“当該企業の製品を購入したいと思うか否か”の2変数の測定を行う.
上述の変数に対して,“実体性の知覚→意図の知覚→責任の知覚→(制裁の量)→集団のイメージ” (()内は媒介変数),という責任・印象判断のモデルを想定し,SEMを用いた検討を行う.
さらに上記のモデルは,犯罪の質によって変数間の関係性が変化するものと考えられる.すなわち,企業の業務として行われた犯罪(e.g.,証券マンが詐欺を行う)と企業の業務に無関係な犯罪(e.g.,証券マンがセクハラを行う)とでは,集団に対して知覚される責任や事件に対する対応が企業イメージに与える影響の大きさに違いが見られるだろう.そこで本研究では,以下のように研究1・2として犯罪の質を変化させ,犯罪の質による変数間の関係性の変化の検討を行う.
研究1:詐欺事件のシナリオ
実体性(高/低実体性集団)×制裁(あり/なし)の2要因参加者間計画
研究2:セクハラ事件のシナリオ
実体性(高/低実体性集団)×制裁(あり/なし)の2要因参加者間計画