2006年度日本社会心理学会若手研究者奨励賞受賞者一覧

受賞者
石橋 伸恵(北海道大学文学部文学研究科修士課程2年)
申請課題
組織・集団におけるモチベーションの生起メカニズム
-二八の法則の心理学的基盤-
研究目的

 集団で共同作業を行う場合、人は課題にどのように動機づけられるのだろうか。この問題に関してよく知られている概念化には、Lataneらの社会的手抜きの理論がある。この考え方によれば、人は、集団場面では課題遂行の手を抜き、“動機づけの損失”(Steiner, 1972)が生じるとされる。しかし、近年、社会的補償効果(Williams & Karau, 1991)、ケーラー効果(Hertel, Kerr, & Messe, 2000)などの名前のもと、集団場面でむしろ人は課題遂行に動機づけられるという全く反対の現象も報告されている。


 申請者はこれらの相反する動機づけの現象を説明すべく、「頻度依存的動機づけモデル」(Kameda & Tindale, 2006)を援用した行動実験、コンピュータシミュレーションによって実証研究を行う。
研究方法

1 集団で共同作業(単純な作業でも、問題解決のような複雑な作業でもよい)を行なう場面を考える。このとき、集団全体のパフォーマンスは、作業協力者数が多いほど単調に増加するが、増加率は逓減する(図1参照)。このことは、作業協力者数が増えるに従い、個人のユニークな貢献可能性(問題解決作業であれば、他の人と重ならない解決策を生み出す可能性)が逓減することから生じる、集団遂行場面に広く当てはまる一般的事実である。その一方で、個人の努力コスト自体は、他の協力者の数に関わらず常に一定である(1つの解決策を生み出すのに伴う認知的コストは常に一定)。とすれば、個人の努力は他に協力者が少なければそれに見合う結果を生み出すものの(リターンが投入コストを上回る)、協力者数が多ければ個人の努力は無駄になりやすい(リターンがコストを下回る:図1参照)。


2 この考え方が正しければ、個人は、周りに作業協力者が少なければ集団作業に協力し(社会的補償効果、ケーラー効果)、一方、多ければ手を抜く(社会的手抜き)ものと予測される。つまり、個人の集団課題解決への動機づけは、図2に示すように周りの作業協力者の頻度に依存し、リターンとコストが等しくなる臨界点をはさんで、協力から非協力に大きく変化するはずである。これが「頻度依存的動機づけモデル」であり、先の“二八の法則”が理論的に予測できることを含んで、集団におけるモチベーションの生起メカニズムに対して1つの統合的な視点を与える。本計画では、こうしたモデルの妥当性、および、それを支える認知的・感情的メカニズムについて、さまざまな課題場面を用いた行動実験により検証する。さらに、得られた結果を、進化ゲームモデルとコンピュータ・シミュレーションによる分析と比較することで、こうした動機づけパタンの適応的な基盤を明らかにしたい。


 行動実験としては、まず、集団問題解決・意思決定などの協働課題をコンピュータ・ネットワーク上に構築し、インタラクティヴな集団実験状況を作る。このような状況で、頻度依存的動機づけモデルから予測される混合均衡(“二八の法則”)が集団内に安定して成立するかどうか検討する。ここでの目的は、先行研究で得られた知見を、問題解決・意思決定などの異なる集団場面を用いて追試し、知見の一般化を図ることにある。こうした集団実験に加えて、集団を構成する個々人の動機づけパタンについて、個人実験により、さらに厳密に検討する。
受賞者
犬飼 佳吾(北海道大学大学院文学研究科修士課程2年)
申請課題
感情の諸相と社会生態学的環境:フィールド調査と実験室実験を用いた検討
研究目的
 人間社会にはさまざまな社会規範が存在する。ここで対象とする社会規範とは、法などの明文化された秩序体系だけではなく、慣習や暗黙の合意事項などの明文化されていない広義の社会的ルールをも含む。近年人々の感情が、規範を守り、また維持する上で重要な役割を果たすことが、心理学実験を主体とする各種の先行研究から示唆されている(Kameda, Takezawa & Hastie, 2003, 2005)。しかし、社会生態学的妥当性をもつ日常場面において、感情がどのような秩序形成・維持機能を果たしているのかという問題については、実験研究からだけでは捉えることは極めて困難である。本研究は、日常生活における感情経験を、それを引き起こした生活イヴェントと併せ報告してもらうことで、感情と経験、社会規範というそれぞれの要素がどのような関係にあるのかを調べることを目的とする。
研究方法

 社会生態学的環境における人の感情と経験、社会規範の関わりを調べるために、近年心理学や社会学の分野で注目されつつある経験抽出法(Csikszentmihalyi & Larson, 1987)を用いたフィールド調査(研究1)と実験室実験を組み合わせた研究(研究2)を計画している、研究1では人々の感情経験とイヴェントとの関係を明らかにする。研究2では、研究1と同一の参加者を対象に社会規範と感情に関する実験を行い、規範を維持し制御するシステムとしての感情の役割を検討する。研究1と研究2を統合的な視座から考察することにより人々の社会生態学的環境とその環境とのかかわりの中で生成・維持されている社会規範とそれを支える心の実装がいかなるものであるのかを調べる。


【研究1】
 大学生を対象に携帯電話端末を用いて、参加者に日常生活における感情経験とそれを引き起こしたイヴェントを併せて報告してもらう。参加者は自身の携帯電話端末を用いて、実験サーバからのビープメールを受け取り、当該のメールに記載された質問項目のWEBサイトにアクセスし、その時の感情とそれを引き起こしたイヴェントを報告する。参加者はこのフィールド調査を一週間にわたって行う。このフィールド調査のデータから人々の社会生態学的環境における生活イヴェントとそれを引き起こす感情経験との関連を調べる。さらにこれらのデータから人々の生態学的環境における感情生起パターンがどのようなものであるかを探る。


【研究2】
 研究1の参加者を対象に社会規範と感情に関する実験室実験を実施する。具体的な実験手続きは以下の通りである。

 実験では参加者に2種類の映像が呈示される。ひとつは社会規範が破られる出来事に関する映像、もうひとつは参加者が侮辱されるような映像である。これらの映像鑑賞時における参加者の皮膚電気反応(SCR)、血液容積脈(BVP)、および交感神経系の指標である唾液腺におけるαアミラーゼを測定する。

 この実験によって得られた各種生理指標の反応パターンを類別し、研究1で収集されたフィールド調査におけるイヴェントの生起頻度や感情パターンから研究2の実験室実験における社会規範に対する生理反応との関わりを多角的な角度から調べる。

受賞者
小宮 あすか(京都大学大学院教育学研究科修士課程1年)
申請課題
後悔の社会的適応メカニズムの検討 ―日米比較研究を通じて―
研究目的

 これまでの心理学や経済学では、後悔に人の行動を調節する機能のあることが議論されてきた(Bell, 1982)。Zeelenberg & Pieters (2006)は、人々が状況に応じて適切に後悔することで、社会環境において適応的な行動をとれることを指摘している。しかし、これらの研究は、ある特定の社会環境における個人意思決定の文脈のみを扱っており、社会環境そのものとの相互作用を実証的に確かめた研究は数少ない。


 この点を検討するためには、異なる社会環境における後悔の表出と機能を調べ、社会環境と後悔感情の相互作用に関する作業仮説を提出することが必要であろう。本研究の目的は、認知心理学における後悔研究に文化心理学的手法を新たに導入し、後悔の文化的側面を検討することによって、新たに社会的適応の概念を導入した作業仮説を提出することにある。
研究方法

 日米での比較文化実験を行う予定である。日本では京都大学、アメリカではウィスコンシン大学で実験を実施する。本研究のための調査項目の選定、海外協力者との連携等の準備はすでに完了しており、速やかな研究実施が可能となっている。具体的な方法は以下の通りである。


 まず、日米の日常的な後悔の特徴を捉えるために、状況ごとの後悔とその構造を分析する。具体的には、実験参加者に、人々を巻き込んだ状況(対人的状況)での後悔と、自分しか関与していない状況(個人的状況)での後悔を挙げてもらい、その強さを評定してもらう。また、主観的な状況での違いを検討するため、その後悔状況がどう認識されているのか、提示した項目について参加者に評定してもらう。


 次に、前の実験で挙げられた後悔が、一般的に共有された価値観に基づいたものなのか、それとも表面的な社会的望ましさを反映したものなのかを検討する。具体的には、得られた後悔状況を別の参加者に見せ、「一般的な大学生だったらどの程度後悔すると思うか」を評定してもらう。これらの実験の仮説として、関係性と関連する対人的な状況での失敗は、日本でより強く後悔が感じられるのに対し、自己実現と関連する個人状況での失敗は、アメリカでより強く後悔が感じられると考えられる。


 さらに、こうした後悔に触れた人々が、それぞれの文化に特徴的な後悔によって、失敗に伴って脅かされるそれぞれの自己観の修復に動機付けられるかを検討する。すなわち、国に関わらず、対人的な状況での後悔を読まされた参加者が関係性修復に動機付けられるか、また個人的な状況での後悔を読まされた参加者が自己効用感修復に動機付けられるかを実験的に検討する。具体的には、それぞれの後悔状況について「自分がこの状況におかれたらどの程度後悔すると思うか」を評定させ、状況をイメージさせる。その後、認知指標と行動指標を用いて、関係性志向行動と自己効用志向行動の強化に対する後悔状況の効果を検討する。後悔理論が正しいならば、それぞれの状況に応じた後悔が、それぞれの自己観の修復行動を引き起こすと予測できる。


 これらの文化比較研究を通じて、後悔という視点から、自己と社会的適応の関係を直接論じることが可能であり、個人と社会の関わりについてより具体的な知見を提供することが可能である。また、理論的にも、文化・自己の再生産に関わる知見を得ることができると考える。
受賞者
佐藤 剛介(北海道大学大学院文学研究科修士課程1年)
申請課題
社会の関係流動性が自尊心の効果に与える影響の検討
研究目的

 自尊心についての研究が積み重ねられ、特に幸福感や精神的健康などのポジティブな要因との相関が多数報告される中、自尊心を適応論的な視点から捉え直すことは重要な課題である。本研究の目的は、自尊心の機能を適応論的なアプローチから捉え直すことにある。


 佐藤・結城 (2006) は、自尊心の日米差が社会の機会費用の差によって生み出される関係流動性の差によって説明が可能であることを指摘した。これまで見られてきた北米と東アジア間の自尊心の高さの「文化差」が、それぞれの「文化」に暮らす個々の人々を取り囲むローカルな対人関係ネットワークの開放性の違い、関係流動性によって説明されるかどうかを検討したものである。そこで、本研究の仮説は関係が流動的な社会でこそ、そうでない社会に比して自尊心が重要になるというものである。なぜなら、自己の肯定的評価である自尊心が高い方が、より新しい対人関係形成を促してくれ適応的であると考えられる。
研究方法

 本研究では、上記の仮説をKwan et al. (1997)や Uchida et al. (Manuscript)の主観的幸福感に対する自尊心と関係調和性や情緒的サポートの影響を検証した研究を踏襲しつつ、関係流動性が干渉効果を持つか検証する。Kwan et al. (1997)や Uchida et al. (Manuscript)の研究では、主観的幸福感に対する自尊心の影響は、北米人の方が東アジア人よりも強いことが見出された。北米のような機会費用が高く、より望ましい他者と新たな関係を形成していくことで得られる利益が大きい、開放的な社会では、社会それ自体の関係流動性が高いと考えられる。そのような社会では新たな関係形成場面が多く、そこでは望ましい相手を選択することと同時に、他者から望ましい相手として選択されること、つまり肯定的自己評価としての自尊心が重要になると予測される。


 以上の予測を検証するため、日米比較や回答者による社会の開放性知覚を測定する関係流動性尺度(Relationship Mobility Scale)を作成し(Schug・結城, 2006)、その得点が、関係流動性の高い社会とそうでない社会の自尊心の主観的幸福感への規定率に差が見られるかを検証する。


 そこで、申請者は3つの研究を計画している。研究1では、関係流動性の高い社会と考えられる米国と低いと考えられる日本で主観的幸福感への自尊心の期定率に差が見られるか検証を行う。研究2では、大学生を対象にした社会(地域)比較の質問紙調査を行う。日本国内でも比較的開放的な社会とそうでない社会の違い、もしくは関係流動性尺度の得点で高得点群と低得点群で主観的幸福感への自尊心の規定率に差が見られるかどうか検証する。また、関係が比較的流動的と考えられる時期とそうでない時期で同様の比較調査も行う。また、研究3では実験的手法を用い、プライミング法により社会の関係流動性認知を操作した後、高・低関係流動性プライミングによっても主観的幸福感への自尊心の期定率に差が見られるかを検証する。


 これらの手法によって、「文化差」で説明されてきた自尊心の差を、社会状況に対する適応戦略の違いとしての自尊心の機能を検証することは、従来研究の焦点となってきた「北米」「東アジア」の両地域以外の、さまざまな社会にも理論的に一般化しうるという点で非常に有用であると考えられる。
受賞者
杉谷 陽子(一橋大学大学院社会学研究科博士課程3年)
申請課題x
信頼を築くコミュニケーション
―不祥事報道において有効な情報提示方法の検討―
研究目的

 「信頼」の重要性は、古くから様々な研究分野で繰り返し主張されてきているが、具体的にどのようにすれば信頼を獲得できるのかを検討した研究は、現在においても非常に乏しい(Schweizter, Hershey, &Bradlow,2003)。そこで本研究は、近年注目を集めている企業の不祥事報道をめぐる対応の問題を取りあげ、不祥事を報道された企業が、どのようなコミュニケーションを行えば、消費者の信頼を維持・回復できるのかを、具体的かつ実証的に検討することを目的とする。


 このような問題に対しては、社会心理学的には説得研究の文脈からアプローチすることが有効であると思われる。従来、強い論拠に基づいたメッセージが中心ルートで処理された場合に、説得効果が高いと言われてきた(Petty&Cacioppo, 1986)。しかし近年、態度には感情をベースに構造化されたものと認知をベースに構造化されたものがあり、前者では感情的にアピールするメッセージの説得効果が高いことが示されている(Fabrigar&Petty, 1999)。この議論に基づき、「信頼性」を高めるコミュニケーション方法を検討する。
研究方法

 「信頼性」は、相手の「専門性(能力)」と「誠実さ」の認知の2つの次元から成るとされる(Hovland &Weiss, 1951)。このうち、不祥事報道において主に回復を目指さねばならないのは、「誠実さ」に基づく信頼である(中谷内, 2006)。本研究では、「誠実さ」に基づく信頼は、論拠よりはむしろ感情をベースに構造化される態度と捉え、上述のFabrigar&Petty(1999)の研究知見に従って、論拠をアピールする説得メッセージよりも、感情的にアピールする説得メッセージの方が、信頼性を回復するのに有効だろうと仮説を立てた。一方、「能力」に基づく信頼性は、感情よりもむしろ論拠に基づいて形成される態度と考えられるため、精緻化見込みモデル(Petty&Cacioppo, 1986)が予測するように、強い論拠に基づいた説得が有効であると予測する。


 この仮説の検討のために、実験室実験を行う。


 実験デザイン:メッセージの感情性の高低×論理性の高低(2要因被験者間計画)


 実験手続き:架空の企業の不祥事報道の新聞記事を提示した後、その不祥事に対する企業からの説明の記事を提示し、最後に、企業の信頼性について評価をしてもらう。この「企業からの説明」として提示されるメッセージが、感情性(メッセージが感情的にアピールする程度)と論理性(メッセージが論理的にアピールする程度)の2つの要因から操作され、合計4種類のメッセージが提示される(被験者間計画)。視覚的な手がかりは感情を伝達するのに優れている(Mehrabian, 1981; 深田, 1998)ため、メッセージの感情性は、企業からの説明として提示された記事に、説明を行っている人物の表情を写した写真が含まれているかいないか、によって操作する。メッセージの論理性は、説得研究の手法に倣い、不祥事に対する説明の合理性・論拠の強弱によって操作する。


 従属変数:Nakayachi&Watabe(2005)の信頼性尺度を用い、「能力」と「誠実さ」の2つの次元から信頼性を測定する。 結果の予測は、以下の通りである。「誠実さ」に基づく信頼性の評価は、写真のあるメッセージが提示された条件で高まる一方、「能力」に基づく信頼性の評価は、論拠の強いメッセージを提示された条件で高まるだろう。


 なお、探索的にではあるが、近年、信頼性の規定因として新しく注目されている主要価値類似性(価値観を共有している程度の認知; Earle&Cvetkovich, 1995)も測定して、信頼性評価との関連を検討する。さらには、実験参加者の情報処理への関与度を測定し、メッセージの感情性と論理性が、それぞれ、関与が高い状況と低い状況のどちらでより態度変容を導くのかについても検討する。
受賞者
高岸 治人(北海道大学大学院文学研究科修士課程2年)
申請課題
負の互酬性と不衡平回避 -2つの不公正是正行動-
研究目的

 多くの人々は、資源の不衡平な分配などの不公正な状況に直面すると、自身が不公正の被害者であるかどうかに関わらず、その不公正を是正しようと行動する傾向を持つ。本研究の目的は、不公正の直接の被害者の立場で行う不公正是正行動と、直接の被害者ではない第三者の立場で行う不公正是正行動が、異なる原理によって生じていることを示すことにある。


 これまでの行動経済学での研究によって、被害者が行う不公正是正行動では、行為者の不公正な意図に対する負の互酬性が重要な役割を果たしていることが示されている(Falk et al., 2003)。一方、第三者が行う不公正是正行動では、不衡平な結果の回避が重要な役割を果たしている可能性が示唆されている(高岸・高橋, 2006)。本研究では、これら2つの不公正是正状況での行動原理が異なることを2つの実験によって示すことで、行動経済学に対し、社会心理学の視点からの新たな解釈可能性を示す。
研究方法

【研究1】
 直接の被害者の立場と、自分自身は不公正な扱いを受けない第三者の立場からでは、不公正是正行動における分配者の不公正な意図への反応が異なることを明らかにする。


 デザイン:独裁者ゲームにおける分配者の不公正な意図の有無(被験者内1要因配置)×立場(被験者間1要因配置)


 課題:まず分配者が自身と受け手との間で一方的に資源の分配を行う独裁者ゲームを行う。その後、受け手、もしくは第三者に、報酬の不公正な分配を行った分配者の報酬を減らす(罰を与える)オプションを与える。


 意図の操作:分配者が資源を分配する際に、Falkらが用いた方法により、すなわち、分配者に決定権がない状態で分配者に“強制的に”不公正分配を行わせる方法を用いて、不公正な分配を行う分配者の意図を操作する。


 予測される結果:分配者が意図的に不公正な分配を行った場合には、不公正な分配が分配者の意図によらない場合に比べ、不公正な分配の被害者は分配者をより強く罰する。これに対して、分配者による受け手との間の分配行動を観察する第三者は、分配者の意図に反応する程度が低く、意図性の有無にかかわらず結果の不公正さを回復するための方法を採用する。そしてそのために唯一可能な方法が分配者に罰を与える(分配者の報酬を減らす)ことである場合には、分配者の意図にかかわらず分配者を罰する。


【研究2】
 第三者が分配者の不公正な意図に反応しているのか、不公正な結果に反応しているのかを、不衡平回復の二つの方法のいずれが採用されるかを通して明らかにする。

 デザイン:分配者の不公正な意図の有無(被験者内1要因配置)


 課題:まず分配者が自身と受け手との間で一方的な資源の分配を行う独裁者ゲームを行う。その後、報酬の不公正な分配を行った分配者のお金を減らすことのできるオプションと、分配者から不公正な分配をされた受け手に対してお金を渡すことのできるオプションを、第三者に対して与える。


 意図の操作:分配者が資源を分配する際に、第1実験と同じ方法を用いて、分配者の不公正な意図を操作する。


 予測される結果:第三者による不公正是正行動では“意図に対する負の互酬性”ではなく、“不衡平な結果の回避”が重要であるという仮説が正しければ、分配者による不公正な意図のあるなしに関わらず、第三者は分配者のお金を減らすのではなく、受け手にお金を渡すという方法で不衡平な結果を回復する選択をとるだろう。