2010年度日本社会心理学会若手研究者奨励賞受賞者一覧

受賞者
会津祥平(北海道大学大学院文学研究科) 修士課程1年
申請課題
他者からの排斥による痛みと排斥未然回避行動における社会差―社会生態学的アプローチによる検討―
研究目的
 近年、社会心理学の分野において、人間の心理・行動傾向を、人々を取り巻く社会生態学的環境に適応する戦略と捉える社会生態学的アプローチ(Nisbett & Cohen, 1996;Oishi & Graham, 2010;亀田・村田、2010)が注目を集めている。このアプローチを用いる利点は、社会の環境特性を特定することによって、その社会に住む人々の心理・行動傾向を演繹的に予測できる点にある。この立場から本研究は、従来の社会的排斥に関する研究で扱われてこなかった、「他者からの排斥時における、人々の心理・行動傾向の社会差」を新たに予測する。具体的には、人々が排斥された際の心理的痛み、および排斥を未然に防ぐ回避行動の社会差を予測し、その社会差が人々を取り巻く社会の関係流動性―ある社会(状況)における、新たな対人関係形成の機会の多さ(Yuki et al., 2007)―の差異によって説明されるか検証する。
受賞者
浅野良輔(名古屋大学大学院 教育発達科学研究科)博士後期課程2年
申請課題
親密な関係におけるサポートの階層的メカニズムの解明: 共同規範と交換規範は補完し合うのか
研究目的

 恋人や友人といった親密な関係において、人々はどのようにサポートをし合えばよいのであろうか。本研究は、共同規範に基づくサポートと交換規範に基づくサポートが、親密な関係において相互補完的に成立するメカニズムの解明を目的としている。

 Clark & Mills (1979) によれば、親密な関係では共同規範が採用され、単なる顔見知りなど親密性の低い関係では交換規範が採用される。共同規範とは、相手のことを無条件に思いやり、利他的にサポートし合うべきというものである。交換規範とは、衡平理論から予測されるように、相手からの見返りを期待して、互恵的にサポートし合うべきというものである。しかし近年、親密な関係においても、交換規範に基づくサポートがより有益であるとの報告がなされている (Gleason et al., 2003)。従来の研究には、これらの相反した知見を統合しうる理論はみられない。申請者は、ダイアド―個人という階層的な枠組みを導入することで、この問題の解決を目指す。
受賞者
板山 昂(神戸学院大学大学院人間文化学研究科)博士後期課程1年
申請課題
裁判員裁判における市民の公正感:決定者と評価者の視点からの検討
研究目的

 裁判員裁判を社会の流れで考えると、裁判の実施→裁判結果の報道→結果を市民が知る。市民は結果を知った段階で、判決の妥当性を評価し、その上で主観的な量刑判断を行っている可能性が考えられる。そこで本研究では、決定者である裁判員だけでなく、観察者である市民の視点にも注目し、両者の裁判における公正感や満足感について検討する。

 市民の量刑判断は応報的であることから(Carlsmith,2007等)、応報的な評議がなされ、被告の情状面等についての議論が展開されない可能性が指摘される。この事が顕在化すれば、手続き的公正が阻害され、裁判の公平さが損なわれる(Lind&Tyler,1988等)。だが、応報的な評議により厳罰化が起こったとしても決定者・被害者・観察者側の公正感である「報復的公正感(Echoff,1974)」が満たされるため、裁判員と市民は判決に主観的な公正感と満足感を得る事が予想される。では、その評議に手続き的公正が加わったなら、公正感と満足感はどの様に変化するのだろうか。
受賞者
白岩祐子(東京大学大学院人文社会系研究科)博士課程2年
申請課題

裁判員裁判における第三者効果の生起プロセスの検討:素朴な感情観と被害者ステレオタイプの観点
研究目的
 第三者効果とは、「他者は自分よりも説得的メッセージに影響されやすい」と考える判断バイアスである(Davison,1983)。白岩・唐沢(投稿中)は、この判断バイアスが、集団での判断場面で特に重要であると考え、この現象を裁判員の量刑判断場面で検討した。その結果、刑事裁判における被害者の意見陳述に対して、参加者の70%以上に第三者効果がみられ、このバイアスを示した個人は寛容な量刑判断を下すことが明らかになった。この知見に基づき、被害者等の発言に対して裁判員が示す第三者効果の規定因を特定することが本研究の目的である。具体的には、被害者の意見陳述の影響に関する議論でしばしば明示的、または暗示的に示される、被害者の発言に対する「望ましくない」という認知、「被害者は感情的だ」というステレオタイプ、および「感情は理性より劣った心的機能である」という素朴な信念が第三者効果に与える影響を検討する。
受賞者
山田和樹(横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科)修士課程2年
申請課題
自己-他者間の心理的距離と他者の態度推測に関する比較文化的検討
研究目的

 人は、他者に自己との共通点を見つけると、親近感を感じて打ち解ける事ができる。一方で、隔たりを感じる他者については単純に考え、誤解してしまう事もある。自他間の心理的距離は他者理解にいかに影響し、そこに文化差はあるのだろうか?

 「解釈レベル理論」(Tropeら, 2010)によれば、心理的距離が遠い他者の態度を推測する場合、人は抽象的・非文脈的に思考するようになり、対応性バイアス(状況を軽視した過度な属性帰属)を生じやすくなるという。この理論は、時間・空間・社会的距離など心理的距離の次元を区別しているが、欧米人を対象とした研究では、どの次元も一貫した影響が対応性バイアスに見られる。しかし、他者と自己の関係性に敏感な相互協調的自己観のもとでは、心理的距離の各次元は異なる意味をもつ可能性がある。

 本研究では、自己から他者の様々な心理的距離が、「相手の身になって考えること」にいかなる作用を及ぼすのかを比較文化的に検討する。