自己制御(Self-control)は,目標や価値に沿ったふるまいをとるべく自身の行動を調整する高次な心的処理の総称である。自己制御は仕事の遂行や問題行動の抑止などに関わるため,処理の解明は人々がより充実した生活を送るために重要である。
自己制御には認知制御や感情・動機づけ等の処理が関わっている。認知制御は状況支配的な反応を抑制して目標に合致した反応を出力する処理である(Miller & Cohen, 2001)。他方の感情・動機づけは,状況適応的な行動を促す素早く自動的な処理である(e.g., Reimann & Bechara, 2010)。従来の実験研究では,各処理が個別に課題解決を導くと想定されたものが多い。しかしより高次な処理を対象とする自己制御研究では,並列して課題解決を導く状況での相互関連性の解明が求められている(e.g., Fujita, 2011)。
本研究の目的は,自己制御の遂行における認知制御と感情・動機づけの相互関連性を明らかにすることである。具体的には,社会・認知心理学の実験手法と生理反応や脳画像の解析を組み合わせた検討を行う。
本研究の目的は,集団内,間の地位格差が存在する状況での外集団卑下・攻撃の生起メカニズムを検討することである。
これまで外集団卑下 (内集団バイアスの一種)は,社会的アイデンティティ理論に基づき集団間比較によって生起するものであると説明されてきた。それに対して申請者の研究(Sugiura et al, 2009,2010)では,集団の地位と集団内の個人の地位の交互作用効果に着目し,高地位集団の低地位者と,低地位集団の高地位者において外集団卑下が認められることが示された。しかし,このような地位環境がなぜ外集団卑下を導くのかはいまだ明らかにはなっていない。
そこで,この疑問を解決するために,本研究では,特定の地位環境におかれた個人は階層関係の志向性(社会的支配志向性,Sidanius et al., 1994)が変化し,外集団卑下・攻撃に至ると予測するモデル(図1)を提案し、これを検討する。
人は日々多様な感情を体験し、他者にその体験を語る。これは情動の社会的共有と呼ばれ、話し手の感情を鎮め、話し手と聞き手の親密な関係を発展させると言われている(Rime, et al.,1998)。しかし近年、情動の社会的共有はこうした機能を必ずしも果たさないことが示されている(Zech & Rime, 2005; Wetzer, et al., 2007)。では、なぜ人は自らの不快な情動体験を他者に語るのか。
本研究では、情動の社会的共有の真の機能は集団における評判の流布である、という仮説を検討する。情動の社会的共有で感情を体験した聞き手は、自らの感情体験としてその出来事を第3者に伝える(Christophe & Rime, 1995)。この時他者Xに関するネガティブな経験が話されれば、個人の感情体験として悪意のない形でXに関する悪い評判が集団内に広まり、集団は効率的に集団内成員の評判を共有して協力関係を築けると考えられるからである。なお本研究では、この問題に先立ち、情動の社会的共有が感情の鎮静化効果を持たない可能性が高いことも示す。
本研究では、東アジア文化としてまとめられてきた日本と中国の間に存在する“心の文化差”に着目し、日中における信頼形成プロセスの違いと、両社会における人間関係の拡張性の違いおよびシグナリング行動の違いの間に存在する関連性を検討することを主たる目的とする。そのため、申請者は2つの研究を実施する予定である。研究1では人間関係のネットワークにおいて利用可能な人数を、直接の知人と知人の知人に焦点を当てて日中間で比較することによって、人間関係の拡張性に関する日中間の違いを検証する。日本よりも中国の社会関係が強い拡張性を持つことが予測される。研究2では信頼行動と信頼行動において関係拡張とシグナリングが果たす役割を明らかにするための信頼ゲーム実験を日中で実施する。これまでの研究における信頼行動の日中差が信頼形成において関係の拡張性が果たす役割の違いによる影響であることが予測される。