本研究の目的は、社会的ジレンマ状況において監視可能性が低いにも関わらず、行動履歴の情報公開が協力行動を促進することを示すことである。一般に、行動履歴の情報公開は、非協力行動を検知するために協力率を高めると考えられている。だが、情報公開が監視としての機能を持つがゆえに協力率を高めているのであれば、追跡可能性が低い状況や虚偽の申告が可能な状況では情報公開をしても協力率は高まらないはずである。一方、情報公開には監視と別の側面があるならば、協力率が高まることもあるかもしれない。本研究では、情報公開は他者の利益に目を向けさせる機能があり、その結果、追跡可能性が低く虚偽の申告が可能な状況でも、情報共有が共有され協力率が高まると予測する。本研究では、監視機能としては不完全であるような情報公開でもなお、協力率が高まることを示し、社会的ジレンマ問題の解決に必要な情報共有や共通目標の共有、そして相互協力の期待を醸成するための過程を明らかにする。
本研究の目的は、自発的協力者への社会的評価が協力行動に及ぼす影響を検討するため、社会生態学的アプローチに基づく比較社会研究を行うことにある。
従来の研究は、協力行動を示す者は、それが示す資源保有量や利他性によって他者から好意的に評価され、交換相手として選択されることを繰り返し示してきた (e.g., Roberts, 1998)。一方、いくつかの社会では逆に協力者が他者から否定的評価や罰を受けるという現象も見出されている(Herrmann et al., 2008)。だが、なぜこうした社会差が生じうるのかに関して理論的な説明はなされてこなかった。そこで本研究では、社会生態学的アプローチ(socio-ecological approach)の観点から、協力行動の適応度を左右する社会環境の特性を明らかにする。具体的には、一連の実証研究を通じて、所属集団の対人関係の選択の自由度が低い低関係流動性社会では、高関係流動性社会と比べ、1) 突出協力行動(集団の多数派から突出して高い協力行動)を示す者に対する否定的評価、および2) 自らの突出協力行動の隠蔽が生じるとの予測を検討する。
社会的学習の代表的な戦略として多数派同調戦略とベストメンバー戦略がある。亀田らは一連の理論研究を通じて2つを比較し、多くの場合多数派がベストメンバーよりも高い成績をあげることを見出した(Hastie & Kameda 2005; Kameda, Tsukasaki, Hastie & Berg, 2012)。実際、他の霊長類とくらべても、人間は多数派に同調する傾向が非常に強いことが知られている(Huan, Recker, Tomasello, 2012)。これに対し、申請者はより広範な条件や(竹澤・中分, 2011)現実世界から抽出された生態学的妥当性の高い課題の分析(Nakawake & Takezawa, 2011) を通じ、多数派がベストメンバーより有利になる状況はごく稀であることを見出してきた。
しかし、多数派よりもベストメンバーが有利であるのならば、なぜ人間にはこれほどまでに強く多数派に同調し模倣するメカニズムが備わっているのだろうか?本研究の目的は、ベストメンバーは多数派よりも遥かに優れているにも関わらず、誰がベストメンバーであるのか見出すのが困難であるためにやむなく多数派同調戦略が用いられている可能性を示すことにある。現実世界では、2番目に有能な人物や最も能力が低い人物をベストメンバーであると誤って選択してしまう可能性がある。こうしたエラーに対してベストメンバー戦略はどの程度脆弱であるのか?本研究では、エージェントベースド・コンピュータ・ミュレーションと行動実験を通じてこの問題を探求する。