第17巻 第1号 平成13年(2001年)8月 和文要約
- 表題
- 「あがり」のしろうと理論:「あがり」喚起状況と原因帰属の関係
- 著者
- 有光 興記(関西学院大学大学院文学研究科)
- 要約
- 本研究は、「あがり」に関するしろうと理論を明らかにするために行われた。まず、予備調査において、429名の「あがり」経験に関する原因の記述から、68項目からなる「あがり」の原因に関する質問紙(CAEQ)を作成した。本調査は、371名の大学生を対象に行われ、因子分析の結果、失敗不安、責任感、性格・感情、不足感、他者への意識、新奇性、劣等感という7因子が抽出された。さらにCAEQに対する評定値を類似性の指標として、12の「あがり」喚起状況を階層的クラスター分析によって「個人の当落」、「異性」、「個人・非当落」、「社会的評価」の4つに分類した。状況クラスターの特徴として、「社会的評価」、「個人・非当落」状況において他者への意識の評定が高いことや、「個人・非当落」状況において責任感の評定値が低いことが示され、「あがり」喚起状況間のしろうと理論の相違点が明確にされた。
- キーワード
- 「あがり」、対人不安、しろうと理論、状況、因子分析
- 表題
- 親の養育態度、子どもの社会的スキル、および、友人関係における子どものサポート授受の関連
- 著者
- Hirokazu TANIGUCHI(Graduate School of Biosphere Sciences, Hiroshima University)
Mitsuhiro URA(Department of Integrated Arts and Science, Hiroshima University)
- 要約
- 本研究は、親の養育態度、子どもの社会的スキル、および、友人関係における子どものサポート授受の関連を検討した。本研究では、特に、社会的スキルの仲介効果に焦点が向けられた。289名の小学生と339名の高校生がそれぞれ調査に参加し、親の養育態度に関する回想的尺度、社会的スキルおよび過去数ヶ月間の友人とのサポート授受に関する自己評定尺度に回答した。親の養育態度が暖かく過保護でない子どもほど、援助・共感的スキルや主張・積極的スキルが高かった。また、これら2つの社会的スキルが高い子どもほど、友人に対してより多くのサポートを与えたり、友人からより多くのサポートを受け取ったりしていた。さらに、親の養育態度と友人とのサポート授受との関係は、社会的スキルによって仲介されていた。
- キーワード
- 親の養育態度、子どもの社会的スキル、ソーシャルサポート
- 表題
- 高齢者介護サービス利用を妨げる家族介護者の態度要因について
- 著者
- 唐沢 かおり(名古屋大学大学院環境学研究科)
- 要約
- 本研究は、家族介護意識、福祉サービス利用への態度、評価懸念、および、社会福祉サービス利用に伴うネガティブな感情と、高齢者介護サービスの利用意図との関連について検討した。392人の成人を対象に行なった調査研究からは、家族介護意識、福祉へのネガティブな態度、評価懸念が、サービス利用意図を低下させることが示された。60人のホームヘルプサービス利用経験者を対象に行なったインタビュー調査では、家族介護意識が、サービス利用に伴うネガティブな感情を増加させ、また、感情がサービス利用へのためらいにつながることが示された。考察では、介護サービス提供に携わる側が、家族介護や福祉に対する態度とサービス利用意図との関連を認識する必要を議論している。
- キーワード
- 高齢者介護、家族介護、介護サービス
- 表題
- パーソナリティ認知と社会的相互作用:成員組み替え法による検討
- 著者
- 岩熊 史朗(駿河台大学文化情報学部)
- 要約
- 認知主体、認知対象者、そして両者の交互作用がパーソナリティ認知に及ぼす効果と、集団内の社会的相互作用の違いとの関連について検討した。5因子モデルに基づいたACL(Adjective Check List)が用い、大学生21名に3ヶ月の間隔をおいて相互評定を2回実施し、このデータに成員組み替え法を適用した。成員組み替え法では、抽出母胎となる1つの集団から、成員構成の異なる多数の部分集団を抽出する。これらの集団を組み合わせることで、被験者構成が同一で被験者間の関係性が相互に異なる群を編成できる。各因子に対する評定者、対象者、評定者と対象者の交互作用、誤差の分散成分を算出し、集団サイズ、集団の抽出母胎、集団内の親密度との関連を分析した。親密度に関する分析では、被験者構成が同一で集団内の親密度が異なる3群を比較した。その結果、最も親密度の高い群では、対象者分散が協調性と神経症傾向で大きく、外向性で小さいことが示された。
- キーワード
- パーソナリティ、社会的認知、社会的相互作用、性格の5因子モデル、社会的関係モデル
- 表題
- アジア系留学生と日本人学生の相互知覚ギャップ:女子の大学生に対する実験
- 著者
- 勝谷 紀子(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
山本 直美(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
坂元 章(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
- 要約
- 本研究は、留学生と日本人学生の相互交流を妨げうる相互知覚ギャップの有無を検討したものである。われわれは、留学生と日本人学生の間には、互いの対人行動の意図やその結果の知覚に関してギャップがあり、その結果、相手との接触欲求が低下して実際の接触量が減少しているのではないかと予測した。この予測を検討するため、73名のアジア系女子留学生と337名の日本人女子学生を被験者として実験を行い、留学生と日本人学生の登場人物が相互作用する架空の物語を読ませ、それぞれの登場人物の行動についてその意図と結果(親しさ、嬉しさ、親しさの期待)を評定させた。その結果、留学生も日本人学生も、互いの対人行動の意図と結果を相手の自己知覚よりもネガティブに知覚しているという結果がたびたび得られた。また、構造方程式モデルによる分析を行ったところ、日本人学生については、そうした知覚が実際に接触欲求を通じて留学生との接触量に影響していることが示唆された。
- キーワード
- キーワード: アジア系留学生、知覚ギャップ、コミュニケーション・ギャップ、異文化交流、構造方程式モデル