第17巻 第3号 平成14年(2002年)3月 和文要約

表題
共有財としての河川に対する環境団体員と一般住民の集合行為: 個人行動と集団行動の規定因
著者
野波 寛(関西学院大学社会学部)
加藤 潤三(関西学院大学社会学研究科)
池内 裕美(日本学術振興会)
小杉 考司(関西学院大学社会学研究科)
要約
本研究では集合行為のひとつとして、共有財(commons)としての河川環境の保全を目的とした環境配慮行動をとりあげ、これを個人行動と集団行動に分類した上で、それぞれの規定要因を調べた。環境ボランティアの団体員(80名)と一般住民(450名)との間で比較を行ったところ、リスク認知など環境問題への態度は団体員が有意に高いものの、河川への愛着に関しては、団体員・一般住民との間に差異はなかった。パス解析の結果、個人行動には環境問題への態度が影響を及ぼす一方、集団行動には河川への愛着による影響が強かった。さらに、主観的規範からは個人行動、集団行動いずれにも有意なパスが認められた。危機認知や行動のコスト評価など、合理的意思決定にかかわる要因は個人行動に影響を及ぼす一方、愛着など情動的な要因は集団行動に影響を及ぼすと言える。また、この意思決定過程は団体員と一般住民で共通している。この結果をもとに、環境配慮行動の意思決定における団体員と一般住民との共通性について考察した。
キーワード
環境配慮行動、集団行動、個人行動、共有財への愛着、主観的規範
表題
手続き的公正評価が都市開発評価に及ぼす影響
著者
高尾 堅司(独立行政法人 防災科学技術研究所)
要約
本研究は、神戸市の市政手続き一般と公共事業の開発手続きの公正評価が、都市開発評価に及ぼす影響を検討した。兵庫県神戸市の住民(643名)を対象に、神戸市の市政手続き一般と都市開発手続きにおける市の傾聴度と説明度について、質問紙を用いて評定を求めた。さらに、関係性評価(住民の神戸市に対する信頼度と、住民が知覚した神戸市職員の住民に対する尊重度)、都市開発への満足度、開発に伴う環境破壊評価に関する評定を求めた。分析の結果、関係性評価が手続き一般の公正評価を規定し、手続き一般の公正評価がニュータウン開発と開発手続きの公正評価に影響を及ぼしていた。以上の結果は、政策決定機関の住民に対する態度と信頼性を肯定的に判断する住民ほど市政手続き一般を公正に評価し、特定の政策に対して肯定的に評価することを示している。また、住民は便益認知のみに基づいて公共政策を判断するとは限らないことを示唆している。
キーワード
手続き一般の公正さ、関係性モデル、政策評価、公共政策、都市開発
表題
ソーシャルスキルが2者間会話場面のストレス反応に与える効果に関する実験的検討:2者間のソーシャルスキルにおける相対的差異の影響
著者
田中 健吾(早稲田大学大学院文学研究科)
相川 充(東京学芸大学教育学部)
小杉 正太郎(早稲田大学文学部)
要約
本研究は、初対面の2名の被験者によって構成される会話場面において、両被験者のソーシャルスキル得点の相対的差異が両被験者の表出するストレス反応に与える効果を実験的に検討したものである。10分間の会話場面において、被験者と、会話相手のソーシャルスキルを測定し、その相対的差異が2者双方のストレス反応に与える効果を検討した。ストレス反応の指標には、主観的指標(心理的ストレス反応)、客観的指標(瞬目)を用いた。分析対象者は大学生57名(男性22名、女性35名)であった。分析の結果、対人場面を構成する相互作用対象者との相対的関係において、被験者のソーシャルスキル得点が相互作用対象者を下回る程度である場合には「不機嫌、怒り」、「抑うつ・不安」、および「瞬目率変化量」も高かった。これらの結果より、対人場面においてソーシャルスキルがストレスに与える影響を検討する場合には、相互作用を行う2者のソーシャルスキル得点の相対的程度を考慮する必要性が示唆された。
キーワード
ソーシャルスキル、対人場面、心理的ストレス反応、瞬目
表題
在日中国系留学生に対するソーシャル・サポートに関する研究
著者
周 玉慧(中央研究院中山人文社会科学研究所)
深田 博己(広島大学大学院教育学研究科)
要約
最初に、従来のソーシャル・サポート(SS)研究を展望し、SSの定義、SSの概念的構造、心身の健康に及ぼすSS効果の説明モデルについて述べた。次に、本研究の第1目的である在日中国系留学生に対するSSの特徴の解明をねらって、(1)在日中国系留学生用のSS尺度を作成し、(2)在日中国系留学生におけるSSに関して、3つの測定次元(必要とするサポート、知覚されたサポート、および実行されたサポート)間の関係や差異、(3)留学生の人口学的特性によるSSの差異、(4)送り手によるSSの差異、(5)日本人大学院生に対するSSとの差異、(6)SSの時間的推移、を検討する6つの研究を行った。さらに、本研究の第2目的である在日中国系留学生に対するSSの効果の解明を目指して、(1)留学生に対するSSと適応の関係、(2)SSと適応の関係に関する送り手による差異、(3)日本人大学院生の場合のSSと適応の関係との比較、(4)留学生に対するSSと適応の関係の時系列的な変化、(5)パーソナリティおよびサポートが適応に及ぼす効果の時間的経過による変化、(6)留学生が認知しているSSの効果性、(7)新たな拡張マッチング・モデルの提案、を検討する7つの研究を行った。最後に、これらの研究で得られた知見及び本研究における方法論上の問題点を述べ、新たな観点から在日中国系留学生に対するサポートに関する今後の研究課題をいくつか指摘し、在日外国人留学生に対するサポートの在り方に関する提言を行った。
キーワード
ソーシャル・サポート、在日中国系留学生、適応、心身の健康状態