第18巻 第1号 平成15年(2003年)1月 和文要約
- 表題
- 社会考慮が西暦2000年問題の認知・対策行動に及ぼした影響
- 著者
- 元吉 忠寛(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
- 要約
- 本研究では、社会考慮(吉田ほか, 1999)が西暦2000年問題に対する認知と対策行動に及ぼした影響について検討した。大学生および短期大学生254名を対象に2000年1月1日前後に実施した2回の質問紙調査の結果から、以下のことが明らかになった。(1)人々はY2Kに関連するリスクを認知しているにもかかわらず、それが十分な準備行動には直接結びつかないこと。(2)災害を楽観視しないことが、情報収集や情報公開欲求というリスク・コミュニケーションの二つの側面と関連すること。(3)社会考慮の高い人々は、低い人に比べて、情報公開に関する高い欲求や関心を持っており、実際に災害に対する準備行動を行っていたことであった。災害のリスク・コミュニケーションの目標を達成するためには、高い社会考慮を持つことが重要であることが示唆された。
- キーワード
- 社会考慮、西暦2000年問題、災害、リスク・コミュニケーション
- 表題
- 「運の強さ」とその認知的背景
- 著者
- 村上 幸史(大阪大学大学院人間科学研究科)
- 要約
- 一般的に「運の強さ」は個人の特性を示すような形で用いられている。この「運の強さ」が具体的に何を指しているのかを調べるために、「運の強さには個人差がある」という信念を持つ者を対象にした質問紙調査を行った。その結果、自分が「運が強い」と認知している者は「運が弱い」と認知している者に比べて、1.「幸運」と括られる経験が多く、逆に「不運」と括られる経験が少ない、2.「幸運」経験の中でも「重要な状況」での成功経験が多いが、「生起確率の低い」成功経験は多くない、3.「運」と努力の結び付きを肯定的に捉えており、4.社会的比較を行うことが少ない、という特徴が示された。逆に、「運が弱い」と認知している者は一般的な事象に対して無力感を感じていたり、日常生活での成功経験が少ない訳ではなく、「運の強さ」は「幸運」あるいは「不運」と括られる経験の多少から生じていることが明らかにされた。
- キーワード
- 「運」に関する信念、「運の強さ」、状況の重要性、社会的比較、努力
- 表題
- 日本における成人期の母娘関係の概念枠組みと測定尺度-都市在住の女性を対象にした分析-
- 著者
- 水野-島谷 いずみ(東京大学大学院人文社会系研究科)
- 要約
- 本論文では、日本における成人期母娘関係の概念的枠組みと測定尺度の構成を検討する。世代間むすびつき理論(Intergenerational Solidarity Theory; McChesney & Bengtson, 1988)を概念的基盤とし、日本の文化や社会状況をふまえて成人期の母娘関係の測定尺度を構成し、ランダムサンプリングによる郵送調査(30歳以上の女性800名を対象)により検討した。その結果、「親子の分離など葛藤を通じて対等な関係を獲得していく米国の親子関係とは異なり、愛情の因子は親密・対等・葛藤の3次元に分かれた」「類似した資源の交換が行われるという先行研究とは異なり、資源の種類によって同種交換・異種交換のどちらが行われるかという交換パターンが定まる」「イエ意識は娘から母親への一方向の援助を促す規範である」ことが示された。以上をふまえ、日本の成人期母娘関係測定尺度についての考察を行い、今後の検討課題を挙げた。
- キーワード
- 日本における成人期母娘関係、世代間むすびつき理論、愛情、交換、イエ意識
- 表題
- 在宅介護者のソーシャルサポートネットワークの機能-家族・友人・近所・専門職に関する検討-
- 著者
- 田中 共子(岡山大学文学部)
兵藤 好美(岡山大学医学部)
田中 宏二(岡山大学教育学部)
- 要約
- 高齢者を介護する在宅介護者のソーシャルサポートネットワークの構造とそのサポート提供機能について、質問紙調査を行い251人の有効回答を分析した。配偶者、同居家族、別居家族、友人、近所、介護専門職の順に下位に至る階層性を想定し、サブグループ比較法を適用して、上位階層者を欠く時の下位者による補完性を調べたところ、情緒的、道具的サポートで階層に即した補完傾向が認められ、階層的補完モデルが支持された。情緒的、周辺的・直接的道具サポートは家族、交友サポートは近所・友人、情報サポートは介護専門職の提供者割合が高く、供給源の機能分化は課題特定モデルに合致した。交友、情報サポートでは課題特性に基づく特定階層の補完性が認められ、階層的補完モデルの概念的修正が示唆された。生活満足感は、ネットワーク構成員が別居家族型よりも同居家族型の場合に高かった。家族サポートの重要性と非家族員による補完の可能性、続柄によるソーシャルサポートネットワークの差について検討した。
- キーワード
- 介護者、ソーシャルサポートネットワーク、階層的補完モデル、精神的健康、課題特定性
- 表題
- 大学生の親密な関係性におけるポジティブ・イリュージョン
- 著者
- 外山 美樹(筑波大学心理学系)
- 要約
- 本研究の目的は、大学生を対象にして、恋愛関係ならびに友人関係におけるポジティブ・イリュージョンを調査することであった。被調査者は81組の恋愛カップル(研究1)と友人カップル(研究2)であった。本研究の結果より、強い恋愛関係ならびに友人関係におけるポジティブ・イリュージョンが見られた。また、自分たちの関係内においては、カップルお互いが自分よりも恋人ならびに友人を高く認知していた。恋愛関係においては、こうした傾向が強い人ほど、自分たちの関係はすばらしいと捉えていたが、友人関係においては、自分を高く認知をする人ほど自分たちの関係を肯定的に捉えていた。
- キーワード
- キーワード: ポジティブ・イリュージョン、恋愛関係、友人関係、大学生