第18巻 第2号 平成15年(2003年)1月 和文要約

表題
自己知識の多面性と対人関係
著者
福島 治(岩手県立大学)
要約
3つの研究によって、人々は対人関係に対応した自己知識のサブセットを持つという仮説を検討した。研究1は、「他者といる自己」に関する特性判断の好ましさは、その他者が誰であるかによって変わることを示し、被験者が様々な「他者といる自己」の特性判断において異なる自己知識サブセットを利用したことを示唆した。また研究1は他者といる自己の知識が肯定的であることを示唆したので、研究2では、父親を視覚化することが活性化拡散によって父親といる自己の特性判断の好ましさを増加させると予想した。結果は予想したパターンを示したが、知識の活性化に関する証拠は得られなかった。研究3では、人物視覚化の効果が視覚化された人物と対応するサブセット情報の処理においてのみ観察されるかを検討した。父親の視覚化は、親友といるときの自己に関する特性判断の好ましさを高めなかったが、親友の視覚化は予想と一致せず、父親といるときの自己に関する特性判断の好ましさを有意に高めた。対人関係と対応する評価的自己知識の活性化について議論された。
キーワード
自己知識、親密関係、自己評価、関係性スキーマ、特性判断
表題
大学生の対人葛藤方略スタイルとパーソナリティ、精神的健康との関連性について
著者
加藤 司(関西学院大学)
要約
本研究の目的は、対人葛藤方略と、パーソナリティおよび精神的健康との関連性について検討することである。そのため、以下の2つの研究を行った。研究1では、自由記述によって得られた項目および葛藤方略に関する2次元5スタイルモデルに基づき、対人葛藤方略スタイル尺度を作成した。大学生520名を対象にした因子分析の結果、統合スタイル、回避スタイル、強制スタイル、自己譲歩スタイル、相互妥協スタイルの5因子が抽出された(各因子4項目)。研究2では、378名の大学生を対象に、対人スタイル尺度、Big Five尺度、ストレス反応尺度、孤独感尺度、友人満足感尺度を測定した。その結果、パーソナリティが各対人葛藤方略スタイルを予測すること。各対人葛藤方略スタイルが心理的ストレス、孤独感、友人関係と関連していることが実証された。
キーワード
対人葛藤、葛藤方略スタイル、Big Five、精神的健康、大学生
表題
神戸小学生殺害事件の新聞報道における目撃証言の分析
著者
小城 英子(関西大学大学院社会学研究科)
要約
1997年5月27日、神戸市須磨区で猟奇殺人事件が発生した。本研究では、この事件の新聞報道における目撃証言を分析し、マス・メディアの報道と犯人像形成との関連を解明することを目的とする。朝日・毎日・読売・神戸の四紙を対象に、容疑者逮捕までに報道された目撃証言を量的・質的に分析した。その結果、目撃証言によって形成された主要な犯人像は「黒い車」か「白い車」に乗った「黒いゴミ袋を持った男」であった。犯人像形成要因は、「スキーマ・ステレオタイプとの一致」「報道量の多さ」「情報の不確実性」と考えられる。マス・メディア自身が「劇場型犯罪」の一端を担っていたことも明らかになった。
キーワード
事件報道、目撃証言、内容分析、ニュースソース、犯人像
表題
援助行動経験が援助者自身に与える効果:地域で活動するボランティアに見られる援助成果
著者
妹尾 香織(関西大学大学院社会学研究科)
高木 修(関西大学社会学部)
要約
本研究は、援助行動経験が援助者に与える効果(援助成果)を、ボランティアがボランティア活動経験から得る心理的効果(喜びや満足感など)の検討を通じて明らかにすることを目的とした。第1調査では、仮説生成的な意図で、老人保健施設内で活動するボランティアと施設利用者を対象に、10ヶ月にわたるフィールドワークとして参与観察と面接調査を実施し、援助成果を規定する要因および援助成果が及ぼす影響に関する4つの仮説を導き出した。第2調査は、ボランティア活動を行っている257名の中高年者に対して質問紙調査を実施し、仮説の検証を試みた。その結果、(1)ボランティアはボランティア活動経験から、「愛他的精神の高揚」「人間関係の広がり」「人生への意欲喚起」の3成果から成る基本構造を持つ援助成果を得ていること、(2)援助の効果認識が援助成果に影響を及ぼすこと、さらに、(3)援助成果がボランティア活動継続を動機づけること、が検証され、仮説は支持された。
キーワード
援助成果、ボランティア、ボランティア活動、援助行動
表題
有利な立場の人が不利な立場の人に努力を求めるとき・援助するとき:不公平さ認知と原因帰属の役割について
著者
唐沢 かおり(名古屋大学大学院環境学研究科)
要約
本研究は、不利な立場にある人の苦境に対して、有利な立場にある人が要求する自助努力や自らの援助責任帰属の規定要因について検討した。データは仮想世界ゲーム(広瀬、1997)を実施することで収集した。ゲームでは273人の参加者が「豊かな地域」(有利な立場)と「貧しい地域」(不利な立場)のいずれかにランダムに配属され、そこで様々な活動を行った後、質問紙に回答した。分析の結果、有利な立場の人がゲーム世界を不公平であると認知しているほど不利な立場の苦境を解決する責任を自らに帰属することが示された。その一方、自分の達成を努力に帰属しているほど、不利な立場の人にも苦境を解決するための努力を要求した。考察では、有利な立場にある人が、不利な立場の人に対して支援的な態度を持つことを促進する要因について議論している。
キーワード
キーワード: 責任帰属、努力帰属、相対的特権理論、支援供与、不公平さ
表題
暴力映像の特性分析:表現特性および文脈特性が感情反応に及ぼす効果
著者
湯川 進太郎(東京成徳大学人文学部)
吉田 富二雄(筑波大学心理学系)
要約
本研究の目的は、暴力映像の表現特性および文脈特性が感情反応に及ぼす効果を検討することである。表現特性とは暴力を映像上どのように描くかといった表現に関わる特性であり、文脈特性とは暴力をどのような文脈に位置づけるかといったストーリーに関わる特性である。20種類の暴力映像を対象に、大学生50名(男子24名,女子26名)が、各映像を視聴するごとに、表現特性としての印象および視聴して生じる感情を評定した。また、文脈特性については、2名の判定者が特性の有無について判定した。その結果、表現特性は感情反応と結びついたが、文脈特性は感情反応にはつながらなかった。ここから考察では、攻撃行動に及ぼす効果として、表現特性が敵意的攻撃に及ぼす感情効果と文脈特性が模倣的攻撃に及ぼす学習効果に分けて論議した。
キーワード
キーワード: 暴力映像、表現特性、文脈特性、感情反応