第18巻 第3号 平成15年(2003年)3月 和文要約

表題
意思決定における文脈効果-魅力効果、幻効果、および多数効果-
著者
奥田 秀宇(成城大学文芸学部)
要約
二つの選択肢に対する選好は、第三の選択肢が他の二つより優れていても劣っていても、第三選択肢の存在により影響を受ける。範囲頻度理論によれば、これらの現象は選択肢の属性カテゴリーが変化するために生じると考えられる。支配価値仮説では、支配的な選択肢には選択を正当化しやすいという付加価値が生じると主張する。トレードオフ対比仮説と極端嫌悪仮説は、第三選択肢を他の二つと比較したときに選択肢の相対的なメリットが変化するためだと仮定する。本研究では、これらの現象は両価的評価における中立点の移動と負効果により生じることを提案した。研究1と2では、それぞれ百四十八名と百三十七名の大学生が仮想的意思決定課題に回答した。その結果、劣位選択肢(魅力効果)や優位選択肢(幻効果)と同様に、同一選択肢(多数効果)によっても、それらが入手困難なときには標的の選好が上昇することが明らかにされた。これらの結果は、評価の両価性モデルを支持すると考えられる。
キーワード
両価性、魅力、決定、多数、幻
表題
多次元概念としての組織コミットメント-先行要因、結果の検討-
著者
高木 浩人(愛知学院大学文学部)
要約
組織コミットメントの4要素(内在化要素、愛着要素、規範的要素、存続的要素)についてその先行要因、結果との関係を検討した。データは7社、260名の日本の非専門職の正社員から収集した。先行要因としては、職場の良好な人間関係が内在化要素、愛着要素を高めること、同僚との良好な人間関係が存続的要素と負の関連を示すことなどが明らかとなった。要素ごとに見ると、内在化要素が組織にとって好ましい行動を規定すること、愛着要素は行動に影響を及ぼさないこと、存続的要素が行事参加を低減することなどが明らかとなった。最後に、今後の研究への含意について議論された。
キーワード
組織コミットメント、内在化要素、愛着要素、規範的要素、存続的要素
表題
信頼と継続的関係における安心:リアルタイム依存度選択型囚人のジレンマゲームを用いた実験研究
著者
寺井 滋(北海道大学大学院文学研究科)
森田 康裕(北海道大学大学院文学研究科)
山岸 俊男(北海道大学大学院文学研究科)
要約
本研究では、「依存度選択型囚人のジレンマゲーム」を用いた2つの実験(第1実験の参加者数:40人、第2実験の参加者数:30人)が報告されている。ゲームが繰り返されている間は、参加者の示した協力率は非常に高かった(95.1%)が、繰り返しの打ち切られる最後の1回のゲームでは、参加者の半分しか協力行動を選択しなかった。このことは、継続的関係における協力行動を支えるものが“将来の影”(Axelrod, 1984)であることを示唆している。しかし、多くの参加者は、ゲームが繰り返されている間(つまり、裏切りの誘因の存在しない間)協力的に行動していた相手を、裏切りの誘因の存在する状況でも協力的に振る舞うだろうと信頼していた。この結果は、参加者が、他者の善良な行動に対する期待を支える2つの基盤-相手の人間性の判断に基づく信頼と利得構造の性質に基づく安心-を区別していないことを示していると思われる。
キーワード
信頼、安心、協力、囚人のジレンマ
表題
内集団びいきにおける認知的・動機的方略としての黒い羊効果
著者
松﨑 友世(日本女子大学人間社会研究科)
本間 道子(日本女子大学人間社会学部)
要約
本研究は内集団びいきと黒い羊効果の関係を探ることを目的とした。本研究では、集団内の優れた成員、劣った成員の割合推定での集団間比較により内集団びいきを求め、さらに内集団びいきを3つのタイプに分類した。実験1では内集団びいきタイプを独立変数とし、優等生・劣等生の事例の評価を従属変数として検討を行った。その結果、内集団びいきを示すものの中で、下位注目内集団びいきタイプ(劣等生割合で内集団びいきを示すタイプ)のみで黒い羊効果が認められた。実験2では実験1の結果を踏まえ、下位注目内集団びいき群において劣等生割合を2条件(大・小)設定し、少なく提示する条件で黒い羊効果がさらに顕著に見られるのか検討を行った。実験デザインは劣等生割合を独立変数、事例の評価を従属変数とした。その結果、劣等生割合を少なく提示した条件で黒い羊効果はより顕著にみられ、仮説は支持された。これらの知見をもとに黒い羊効果生起に関する認知的アプローチさらに、動機的観点について検討を行った。
キーワード
内集団びいき、黒い羊効果、認知的・動機的方略、内集団びいきタイプ、劣等生割合
表題
破壊的カルト脱会後の心理的問題についての検討:脱会後の経過期間およびカウンセリングの効果
著者
西田 公昭(静岡県立大学看護学部)
黒田 文月(関西大学大学院社会学研究科)
要約
この研究の目的は破壊的カルト脱会後の心理的問題を明らかにし、脱会後の経過期間の及びカウンセリングの効果について検討することである。この研究は2つの異なったグループの元メンバー157人に対して質問紙を用いて調査し、心理的問題について分析した。そして因子分析の結果、以下の11因子が明らかになった。その因子は(1)抑うつ・不安傾向、(2)自信喪失、(3)自責・後悔、(4)社会化・親密化困難、(5)家族関係不和、(6)フローティング、(7)異性との接触恐怖、(8)情緒的不安定、(9)心身症的傾向、(10)隠匿傾向、(11)教団に対する怒りである。分散分析の結果、抑うつ・不安傾向、心身症的傾向、そして隠匿傾向は経過期間およびカウンセリングによって減少した。そして自信喪失、教団に対する怒りは、カウンセリングによって増加した。
キーワード
キーワード: 破壊的カルト、心理的問題、非専門家によるカウンセリング、経過期間、マインド・コントロール
表題
社会的公正と国に対する態度の絆仮説:多水準公正評価、分配的および手続的公正
著者
大渕 憲一(東北大学大学院文学研究科)
福野 光輝(東北大学大学院文学研究科)
要約
公正の絆理論は、人々が集団に対する帰属感を強める仕組みについて公正感の役割を強調するものである。我々はこれを国に対する態度に適用し、功利的理論と集団価値理論の立場から統合的モデルを作成して仮説を構成した。即ち、分配的公正知覚が生活満足感を強め、これが国に対する親和的態度を強めると予測し、一方、手続的公正知覚が直接に国に対する親和的態度を強めると予測した。我々は、マクロ(国民全体)、職業集団、地域集団の3水準で公正感を測定し、これらの仮説の検証を試みた。調査票に対する一般市民826名からの回答に基づいて共分散構造分析を行ったが、その結果、地域水準の公正感には効果が見られなかったが、マクロおよび職業水準の公正感については予測が支持された。本研究では、分配的公正感と手続的公正感の知覚が国に対する態度に対して異なるはたらきを持つこと、また、多水準の公正判断がそれぞれ独自の意味を持つことを示唆している。
キーワード
キーワード: 公正の絆仮説、社会的公正、手続き的公正、社会的態度、社会調査