第19巻 第1号 平成15年(2003年)8月 和文要約

表題
環境政策における合意形成過程での市民参加の位置づけ:千歳川放水路計画の事例調査
著者
大沼進(富士常葉大学流通経済学部)
中谷内一也(帝塚山大学人文科学部)
要約
環境政策における一般市民の役割について検討するため、千歳川放水路計画の事例を題材として札幌市民を対象とした調査を行った。とくに、利害の当事者性が相対的に高くない一般市民が、なぜ政策決定に参加すべきだと思われるのかについて明らかにすることを目的とした。その結果、一般市民は、公正に判断できる立場として決定に参加すべきだと思われていることが明らかになった。一方、実際には仲介役を務めていた北海道庁は、中立的に判断できると思われていなかった。これらの結果から、決定が公正になされているかどうかをチェックする第三者的な役割が一般市民に求められていると結論づけられた。また、専門家の役割についても検討したところ、専門家は専門的かつ公正に評価できると思われていた。
キーワード
市民参加、公正性、千歳川放水路計画、環境政策
表題
希釈効果の規定因としての無関連性、中立性、および両価性
著者
奥田秀宇(成城大学文芸学部)
要約
評価判断における希釈効果とは、診断性の低い情報が加えられることによって診断性の高い情報の効果が減少することである。本研究では、正負いずれかの情報に別の情報を追加した場合に起こる希釈効果は、追加される情報の両価性が高いほど大きくなるという仮説を検討した。研究1では、34名の大学生がアルバイトとボーナスまたは残業の組み合わせの望ましさを評価した。両価性の大きさは、アルバイトに含まれる労働と報酬の量により操作された。その結果、労働と報酬の比が一定でも、それらが共に増大するほど希釈効果も大きくなることが示唆された。また、研究2でも69名の大学生にアルバイトとボーナスまたは残業の組み合わせに対する評価を求めた結果、追加されたボーナスや残業時間が同じでも、両価性の程度に差のあるアルバイトの評価順位は逆転することが示された。これらの結果は、希釈効果が評価判断の両価性モデルにより説明可能なことを示唆する。
キーワード
両価性、希釈効果、評価判断、中立性、規模効果
表題
自動車事故における同乗者の影響
著者
松浦常夫(自動車安全運転センター)
要約
自動車事故における同乗者効果を明らかにするために、乗用車の乗員に関する路上観察調査と事故分析をおこなった。両調査で調べた項目は、運転者と同乗者の年齢と性別、および同乗者の人数であった。事故データは筑波地域で発生した事故(N=957)であり、その地域内で観察調査を実施した(N=2682)。我々はまた、同乗者効果の種類を調べるために事故事例分析を行なった(N=206)。対数線型分析により、事故危険性は同乗者が2人以上や同乗者がいない場合の方が1人の場合より高いこと、また同乗者が男性やこどもの場合の方が女性の場合より高いことがわかった。同乗者効果の説明として、コミュニケーション、注意の転導、および同乗者の持つ規範への同調を考察した。
キーワード
同乗者効果、自動車事故、コミュニケーション、注意の転導、規範への同調
表題
コミュニケーションにおける否定的フイードバックの抑制の対人的効果: "その人とぶつかるくらいなら言いたいことを言わない"ことは何をもたらすか
著者
繁桝江里(東京大学大学院人文社会系研究科)
池田謙一(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究では、対人関係において否定的な意味を持ちうる言動を抑制するという「否定的フイードバックの抑制(Restraint on Negative Feedback :以後RNF)」の対人的効果を検討した。 1)被行為者による行為者のRNFの認知・推測が誤解か正解か(被RNF推測)、2)被行為者のRNFに対する評価が高いか低いか(被RNF評価)という2つの要因の介入によって、RNFが最終的に被行為者の対人関係不満にもたらす効果は異なるという仮説を検討した。スノーボールサンプリングを用いた郵送調査により取得したダイアドデータの分析結果から、被RNFの推測はその41%が誤解であり、このような誤解も対人関係不満に対する効果を持つことが示された。特に被RNF評価が低い場合に、誤解によるポジティブもしくはネガティブイリュージョンが生じることが示唆された。これらの知見により、RNFの対人的効果の検討における、上記2要因を考慮に入れたダイアド的視点の重要性が示唆された。
キーワード
言動抑制、対人関係不満、スノーボールサンプリング
表題
親しい友人間にみられる小学生の「いじめ」に関する研究
著者
三島浩路(兵庫教育大学大学院 学校教育研究科)
要約
本研究では、親しい友人間にみられる小学生の「いじめ」に性差がみられるのかどうかを検討すると同時に、社会的スキルや排他性がこうした「いじめ」に関連しているのかを検討することを目的に、小学5・6年生約450名を対象に調査を行い、その結果を分析した。分析の結果、親しい友人からいじめられた体験は女子に多いことや、男子に比べ女子の友人に対する満足感に、こうした体験がより大きな影響を与えることが示唆された。さらに、親しい友人からの「いじめ」の被害体験因子得点・加害体験因子得点を目的変数、社会的スキル因子得点・排他性因子得点を説明変数にしてパス解析を行った結果、男子の場合には、被害・加害体験に社会的スキルと排他性の両方が影響する可能性が示唆されたが、女子の場合には、社会的スキルと被害・加害体験との間に関連はみられず、排他性と加害体験との間にのみ有意な関連がみられた。
キーワード
いじめ、小学生、排他性、社会的スキル、インフオ-マル集団
表題
対人距離に及ぼす性と地位の影響:従属仮説の観点から
著者
青野篤子(松山東雲女子大学人文学部)
要約
非言語的行動の性差を説明するためHenleyによって提唱された従属仮説は、支配者は空間をコントロールし、より大きな空間を所有するのに対して、従属者は空間をコントロールされ、小さな空間しか与えられないと予測する。そこで、この研究は、従属仮説を検証するために、一般企業の従業員を対象に、コンピュータによる投影的測定法を用いて、性と地位の要因が、接近距離と被接近距離に対してどのような影響をおよぼしているのかを検討した。その結果、いずれの距離においても、被験者自身の性・地位の要因は効果をもたず、従属仮説は支持されなかった。むしろ、被験者と相手との関係が重要で、同性同僚同士の距離がもっとも小さく、異性の上司に対する距離がもっとも大きかった。そして、とくに女性が男性上司を接近させまいとする傾向が強かった。今後は、地位の統制を厳密に行い、比較文化的な視点を加えた研究が必要である。
キーワード
対人距離、個人空間、性差、従属仮説
表題
青年期の愛着スタイルが親密な異性関係に及ぼす影響
著者
金政祐司(大阪大学大学院人間科学研究科)
大坊郁夫(大阪大学大学院人間科学研究科)
要約
本研究は、青年期における愛着スタイルが親密な異性関係に及ぼす影響について検討を行った。本研究では、主に愛着の概念的な二層性に注目し、恋愛へのイメージと特定の関係での経験とを区別して捉えることで、愛着スタイルの一般的特質ならびに関係的特質双方の妥当性と適用性を検討することを目的とした。調査対象者は大学生、449名であった。結果は、安定型の愛着スタイルの人は、比較的ポジティブな恋愛イメージを持ちやすく、また、親密な異性への愛情も強く、その関係を重要視する候向があった。反対に、回避型の愛着スタイルの人は、恋愛を比較的ネガティブに捉えやすく、親密な異性への愛情やその関係を重要視する程度も弱かった。また、アンビバレント型の愛着スタイルの人は、恋愛に対して、相手を独占、束縛してしまうといったイメージを持ちやすい特徴があった。さらに、各愛着スタイル群において、各変数の影響過程の因果モデルを構成し、分析を行った結果、3つの愛着スタイルで異なった影響過程が見られ、それらは愛着の自己成就傾向を示唆するものであった。これらの結果について、愛着スタイルの概念的妥当性ならびにその継続性という観点から議論を行う。
キーワード
青年期の愛着スタイル、親密な異性関係、恋愛イメージ、愛情の三角理論、関係-の評価