第19巻 第2号 平成15年(2003年)12月 和文要約
- 表題
- 参政権と帰化をめぐる在日韓国人の意向、その類型化と構造の分析
- 著者
- 中原洪二郎*(ミシガン大学社会調査研究所)
(*現所属:信州大学人文学部)
- 要約
- 本研究では参政権と帰化をめぐる在日韓国人の意向について理論的・実証的な検討を行った。まず意向を合目的的と手段的、さらにそれぞれを異化的と同化的に類型化した。基本的な分析によって、この類型化が有効なものであることが確認された。さらに意向を規定している要因について階層型ロジスティック回帰分析を行った。地方参政権獲得の意向を引き上げる効果を持っている変数群は、地方参政権獲得が異化的であること、引き下げる効果を持っているものは同化への危機感を示唆していることが明らかとなった。国政参政権については個人的要因よりも一般的態度と属性によって規定されていることが示され、意向を引き上げる変数についての同化的傾向は見られなかった。帰化については日本への愛着が意向を引き上げ、民族的自尊心が引き下げる効果を持っていた。これは帰化の意向が同化的であることを意味している。分析結果は合目的的異化的帰化が可能となる状況の必要性を示している。
- キーワード
- 参政権、帰化、在日韓国人、同化、異化
- 表題
- 2次的ジレンマ問題に対する集団応報戦略の効果:コンピュータ・シミュレーション研究
- 著者
- 寺井 滋(北海道大学大学院文学研究科)
山岸俊男(北海道大学大学院文学研究科)
渡部 幹(京都大学大学院人間・環境学研究科)
- 要約
- 本研究では、政府などの中央権力不在の下での、社会的ジレンマ状況における相互協力の可能性が検討された。中央権力を仮定しない場合、社会的ジレンマ状況にお かれている集団成員は、社会的ジレンマ解決策としてしばしば言及される「選択的誘因制度」の確立・維持を巡って、2次的ジレンマに直面することになる。本研究の目 的は、応報戦略のn人集団への拡張版である集団応報戦略が、この2次的ジレンマ問題の解決に役立っている可s能性を示すことにある。コンピュータ・シミュレーション の結果により、集団成員が集団応報戦略を用いるとき、2次的ジレンマが解決されえることが明らかにされた。また、確率的協力戦略で占められた集団において集団応報 戦略を採用することは、少なくとも不利な選択ではないことが示された。
- キーワード
- 選択的誘因、応報戦略、頻度依存的行動
- 表題
- 農村居住高齢者のコミュニケーション・ネットワークの分析
- 著者
- 広田すみれ(東京女学館大学国際教養学部)
- 要約
- 日本の農村地域に居住する130人の高齢者の日常のコミュニケーション行動に関する回答を数量化3類により分析した。結果から、近親との関係がこのコミュニケーションを最も特徴付ける主要次元として明らかになった。また、Wenger(1994)の研究で指摘されたネットワーク類型に合致する4つの型が明らかになった。4つの類型は平均世帯人数に差があったものの、孤立型で世帯人数が少ないわけではなく、行動上の孤立と客観的世帯類型が必ずしも一致しないことが明らかになった。また、これらの類型と自殺者に対する同調傾向や介護への不安との関係では、家族依存型で同調傾向や不安が低い一方、近隣自己充足型で介護への不安が見られた。これらの類型は高齢者に対する支援を考える上で有効であると考えられる。
- キーワード
- コミュニケーション・ネットワーク類型、高齢者、数量化3類、自殺傾向
- 表題
- 郵送調査における項目欠損の発生要因の検討:高齢者調査を用いて
- 著者
- 菅原育子(東京大学大学院人文社会系研究科)
- 要約
- 本研究の目的は、60歳以上の男女を対象とした郵送調査データを用いて、郵送調査における項目欠損の発生要因を質問項目の特性および回答者の特性という2点から検討することである。質問項目の特性として、質問の掲載ページ箇所、枝分かれ構造かどうか、事実に関する問いか意見を尋ねる問いか、回答の選択肢数、質問全体の文字数、の5点について検討した。分析を通じて一貫して、枝分かれ構造の欠損率への効果が見られた。一方、回答者の特性としては、年齢、性別、修学年数、健康状態、経済状態、世帯構成、意見欄への書き込みの有無、の7点に関して検討した。その結果、年齢、修学年数、健康状態および世帯構成について、欠損率との関連がみられた。これらの結果は、高齢者への郵送調査の可能性を示すと共に、郵送調査における調査票の構成の際に留意すべき点を示すものである。
- キーワード
- 郵送調査、項目欠損、高齢者、質問項目の特性、回答者の特性
- 表題
- 対人不安、インターネット利用、およびインターネットにおける人間関係
- 著者
- 西村洋一(青山学院大学文学研究科)
- 要約
- 本研究では、対人不安傾向の高い人の持っているインターネット利用の動機、インターネット上のコミュニケーションの評価、そしてインターネット上における人間関係の適応感と満足感について調査を行った。結果は以下のとおりである:(1)対人不安傾向の高い人の中で、特に20代以下の人たちは、対人不安傾向の低い人と同じくらい人間関係形成のためというインターネット利用動機を持っていた。(2)インターネット上のコミュニケーションの全体的な評価は、対面のコミュニケーションより低いが、対人不安傾向の高い人は、コミュニケーションの感情的評価に関して、対面のコミュニケーションよりもインターネットを高く評価していた。(3)対人不安傾向が高くても、人間関係形成のインターネット利用動機、およびインターネット上のコミュニケーションの評価も高い人たちは、そうでない人たちよりもインターネット上の人間関係により高い適応と満足感を感じていた。
- キーワード
- 対人不安傾向、コンピュータに媒介されたコミュニケーション、インターネット利用動機、インターネット上の人間関係
- 表題
- 中国人の帰属における自己奉仕的傾向と集団奉仕的傾向
- 著者
- 馬 偉軍(神戸大学大学院文化学研究科博士課程)
- 要約
- 本研究は、中国人における成功と失敗に関する原因帰属が、個人の遂行場面と集団の遂行場面とで異なるかについて検討した。中華人民共和国広東省広州市の実験参加者300人は、ある種の架空の社会技能テストの測定に参加し、その結果としての成功あるいは失敗について原因帰属を行った。その結果、個人の遂行場面では自己奉仕的傾向が現れた。この結果は、アジア文化圏の人々が必ずしも自己卑下的傾向を示すとは限らないことを示した。一方、集団の遂行場面では集団奉仕的傾向が現れた。これは、中国人は成功を失敗との比較の枠組において集団奉仕的傾向を示すことができると示唆している。さらに重要なことに、自己奉仕的傾向よりも集団奉仕的傾向の方が強く現れた。これは、中国人の自己高揚が集団にとって望ましいかたちでの原因帰属として現れやすいことを示唆している。
- キーワード
- 自己奉仕的バイアス、自己卑下的バイアス、集団奉仕的バイアス、相互独立的自己観、相互協調的自己観
- 表題
- 第三者介入による消費者問題の解決:手続き的公正に関する実験的研究
- 著者
- 今在景子(東北大学大学院文学研究科)
大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
今在慶一朗(東北大学大学院文学研究科)
- 要約
- 本研究の目的は消費者問題の解決における第三者介入の効果を検討することである。ADR(Alternative Dispute Resolution; 裁判外紛争処理)は手続きの柔軟性とコストの低さから、近年注目を集めている。しかし、ADRには決定を強制させる法的拘束力がないことから、ADRにとって紛争当事者の自発的な決定の受容を促進することが重要である。我々は手続き的公正の2つのモデルに基づいて、第三者の丁寧な対応と紛争当事者の発言機会が手続き的公正知覚をつくり、その結果、決定に対する満足感を高めるだろうと仮定した。実験的に丁寧さと発言を操作し、仮定的な消費者問題における第三者介入への60名の大学生の反応を検討して、仮説を支持する結果を得た。これらの結果は、満足感において個人的な結果の有利さよりも手続き的公正の効果が弱かったけれども、ADRにおける手続き的公正の知覚がコントロール感と地位の尊重によって促進されることを示している。
- キーワード
- 消費者紛争、第三者介入、手続き的公正、紛争解決、裁判外紛争処理