第20巻 第2号 平成16年(2004年)11月 和文要約
- 表題
- 比率バイアス課題とリンダ問題における判断の個人差:CESTの立場から日本語版REIを用いて
- 著者
- 豊沢純子(名古屋大学大学院環境学研究科)
唐沢かおり(名古屋大学大学院環境学研究科)
- 要約
- 本研究は、比率バイアス課題とリンダ問題における判断パフォーマンスを、日本語版REI(内藤・坂元・鈴木,2000)の合理性と経験性で説明できるかをCEST(Epstein,1994)の立場から検討した。研究1は比率バイアス課題を用い、英語版のオリジナルなREIを用いた先行研究(Pacini & Epstein, 1999)と同様に、日本語版REIの合理性と経験性のうち合理性のみが判断パフォーマンスを説明した。研究1はまた、比率バイアス課題はCESTが仮定する合理システムと経験システムのうち、経験システムの働きを同定できない可能性を示唆した。研究2はリンダ問題を用い、合理性と経験性の両方が判断パフォーマンスと対応することを示した。以上の結果は、日本語版REIが判断の個人差の説明に有効な尺度であることを示すとともに、合理システムと経験システムの働きを明確に同定できる課題を使用すべきことを示唆している。
- キーワード
- CEST、REI、比率バイアス、リンダ問題
- 表題
- 大学生の就職活動における情報探索行動:情報源の影響に関する検討
- 著者
- 下村英雄(労働政策研究・研修機構)
堀 洋元(社会技術研究システム)
- 要約
- 本研究では、「就職サイト」「OB/OG」「友人」などの情報媒体が大学生の就職活動における情報探索行動に与える影響を検討するために、どのような情報源が就職活動で活用されたかを検討した。就職活動中の大学生49名に対して追跡調査を行った結果、大学生が就職活動で用いる情報は「企業の特徴に関する情報」「企業の印象に関する情報」「就職活動の方法に関する情報」「就職活動を行う自分に関する情報」の4つのグループに分けられることが明らかになった。また、これら4つのグループの情報を特に入手しやすい特定の情報媒体があることも明らかになった。さらに「OB/OG」を通じて入手した情報は、就職活動を通じて大学生に重視されていること、かつ、概して良い就職活動結果に結びつきやすいことが明らかになった。一方、「友人」や「就職サイト」を媒介とした就職活動は、直接的には、良い就職活動結果と関連がなかった。
- キーワード
- 情報探索行動、情報源、就職活動
- 表題
- 社会的ルールの知識構造から予測される社会的逸脱行為傾向:知識構造測定法の簡易化と認知的歪曲による媒介過程の検討
- 著者
- 吉澤寛之(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
吉田俊和(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
- 要約
- 社会的ルールの知識構造と社会的逸脱行為傾向との関連及び認知的歪曲による媒介過程を検討した。さらに、吉澤・吉田(2003b)において開発されたオリジナル版知識構造測定法の簡易版を開発し、オリジナル版と同様の因果パターンが見出されるかを検討した。知識構造は、社会的ルールを対人葛藤状況に適用する際の様態を基に、ルール独立性、ルール一貫性、ルール適切性の3指標により測定された。簡易版測定法は、ルール作成手続きを省略することにより開発された。分析の結果、オリジナル版測定法による知識構造指標と逸脱行為傾向との関連と、認知的歪曲による媒介過程が部分的に支持された。2つの測定法の比較から、簡易版で測定された知識構造により認知的歪曲及び逸脱行為傾向を予測する上での有効性が確認された。最後に、簡易版測定法の改善点及び間題点と、逸脱行為傾向との因果関係の明確化に関して考察を行った。
- キーワード
- 知識構造、社会的ルール、測定法、認知的歪曲、社会的逸脱行為
- 表題
- 対人的動機と相互作用量が否定的対人感情の軽減に及ぼす影響
- 著者
- 高木邦子(名古屋大学教育発達科学研究科)
- 要約
- 本研究では、対人的動機と杜会的相互作用量が否定的対人感情(Negative Interpersonal Affect:NIA)の軽減に及ぼす影響を検討した。専門学校と四年制大学の新入生男女156名を主な対象として、4月に1週間の間隔で、2度にわたる質問紙調査を実施した。第一回調査では、対象人物に対する対人的動機とNIA項目に回答を得た。第二回調査では、同じ人物に対して第一回調査と同様のNIA項目に回答を求め、一週間のうちに経験された相互作用頻度の評定を求めた。重回帰分析の結果、対象人物との関係が重要であるほど対人的動機は促進されることと、接近的動機が高いほど「違和感」が軽減されることが示された。だが、相互作用量はいずれのNIAの軽減に対しても有意な結果を示さなかった。
- キーワード
- 否定的対人感情、対人的動機、社会的相互作用
- 表題
- 地域焦点型目標意図と問題焦点型目標意図が環境配慮行動に及ぼす影響:地域環境としての河川に対する意思決定過程
- 著者
- 加藤潤三(関西学院大学社会学研究科)
池内裕美(日本学術振興会・関西学院大学社会学研究科)
野波 寛(関西学院大学社会学部)
- 要約
- 本研究の目的は、2種類の目標意図(地域焦点型目標意図・問題焦点型目標意図)が環境配慮行動に及ぼす影響力について検証することである。武庫川より2kmに居住する住民735名を対象とする質問紙調査を行った。その結果、予測どおり、目標意図は2種類に分類された。さらに共分散構造分析により、問題焦点型目標意図は行動意図に有意な影響を及ぼさず、地域焦点型目標意図、武庫川に対する愛着、社会規範評価、便益・費用評価といった諸変数が行動意図に有意な影響を及ぼすことが明らかとなった。以上より、個人は環境保全の視点からではなく、地域保全の観点から、環境配慮行動を実行することが示唆された。
- キーワード
- 地域環境、地域焦点型目標意図、問題焦点型目標意図、環境配慮行動
- 表題
- 日本人の自己卑下呈示に関する研究:他者反応に注目して
- 著者
- 吉田綾乃(東海女子大学人間関係学部)
浦 光博(広島大学総合科学部)
黒川正流(九州女子大学文学部)
- 要約
- 本研究では、自己卑下呈示に対する被呈示者の反応に注目した。研究1から、自已卑下呈示者は“自己卑下呈示に対して、被呈示者は「そんなことはない」などと卑下した内容を否定する反応を返す”というスクリプトを形成していることが明らかとなった。また自已卑下呈示者は、自己卑下呈示に対する否定反応が、自らの自己評価の維持や高揚をもたらす効果があると見なす傾向があることが示された。研究2では、日本文化では他者との関係性を維持・構築したいという動機に加えて、自己を肯定的に捉えるために他者から好ましい反応を引き出したいという自己奉仕的な動機に基づいた自己卑下呈示が行われている可能性が示唆された。今後の自己卑下呈示と他者反応の効果に関する詳細な検討の必要性が指摘された。
- キーワード
- 自己卑下呈示、他者反応、自己卑下呈示動機、日本文化
- 表題
- マスメディア報道がリスク認知および被害者像に及ぼす影響に関する探索的検討
- 著者
- 山本 明(慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所)
- 要約
- 本稿の目的はマスメディアにおける致死事象の報道量がリスク認知・被害者像に及ぼす影響を探索的に検討することである。研究1では、人の死亡を報じる新聞記事を対象とした内容分祈を行い、(1)死亡者の年齢は、死亡者が幼いほど、又は高齢であるほど見出しに掲載されやすいこと、(2)実際の死亡者数と比較すると、自殺は過小に、殺人は過大に報道されていること、などを明らかにした。研究2では、調査を行い、(1)調査対象とした死因(交通事故、火事、自殺、殺人)に関する主な情報源はマスメディアであること、(2)交通事故、火事に関しては、回答者の半数以上(交通事故では8割以上、火事では5割以上)は個人的経験があること、(3)自殺、殺人による死亡者の年代分布に関する回答者の見積りと報道量との間には順位相関が見られること、などを明らかにした。これらの結果の示唆と今後の課題が議論された。
- キーワード
- マスメディア、リスク認知、被害者像、内容分析、メディア効果