第20巻 第3号 平成17年(2005年)3月 和文要約

表題
失恋ストレスコーピングと精神的健康との関連性の検証
著者
加藤 司(日本学術振興会 特別研究員)
要約
本研究の主な目的は,失恋ストレスコーピングに関する項目を収集し,失恋ストレスコーピングを分類すること,失恋ストレスコーピングが精神的健康に及ぼす影響を検証することである.まず,大学生950名の自由記述の結果から,失恋に対するコーピング項目を収集した.次に,失恋経験のある大学生425名を対象に,収集した失恋ストレスコーピング項目,恋愛感情,精神的健康(失恋の痛手からの回復期間,現在の心理的ストレス反応)などを測定した.失恋ストレスコーピング53項目を因子分析した結果,失恋ストレスコーピングは未練,敵意,関係解消,肯定的解釈,置き換え,気晴らしの6次元を有することが明らかになった.共分散構造分析の結果,恋愛感情を統制した後も,失恋ストレスコーピングから精神的健康へ影響を及ぼしていること,未練,敵意や関係解消が精神的健康にネガティブな影響を及ぼすことなどが明らかにされた.
キーワード
失恋、ストレス、コーピング、親密な関係
表題
罰がステレオタイプ活性に対してもつ抑制効果の検討
著者
野寺 綾・唐沢 かおり (名古屋大学大学院環境学研究科)
要約
本研究では、罰の適用が女性ステレオタイプ活性に対してもつ抑制可能性を検討した。男子大学生および大学院生50名が、罰あり群か統制群のいずれかにランダム配分された。罰あり群ではネガティブな評価性を持つ女性ステレオタイプ連合を提示した時に、他方統制群では女性ステレオタイプではない連合を提示した時に、罰として嫌悪音を与えた。その後、意味プライミングパラダイムを用いて、女性ステレオタイプ活性の測定を行った。その結果統制群ではネガティブなステレオタイプが活性するが、罰あり群ではネガティブステレオタイプの活性が低下することが判明した。こうした罰の効果は、参加者が女性に対して顕在的に示している態度によらず確認できた。罰のステレオタイプ活性に対する抑制効果を実現しているメカニズムと活性過程におけるステレオタイプの評価性の役割が議論される。
キーワード
ステレオタイプ活性の抑制、罰、評価性、プライミングパラダイム、顕在的平等主義
表題
大学生の就業自己イメージ尺度作成の試み
著者
清水 裕 (昭和女子大学)
下斗米 淳 (専修大学)
風間文明 (文教大学(非常勤)
要約
本研究の目的は,就業後におかれる状況を予期した,大学生の就業自己イメージを測定する尺度(清水・下斗米・風間, 2003)を精緻化することである.688名の大学生がそれぞれ希望職業への就業動機の強さを尋ねる項目や就業自己イメージ尺度などを含む質問紙に回答した.
おもな結果は以下のとおりである.(1)大学生の就業自己イメージは,男子で9因子,女子で7因子からなることが再確認された.また,大学生の職業選択における就業自己イメージの現代的特徴が明らかになった.(2)就業自己イメージは希望職業に対する就業動機の強さに有意な影響を及ぼしていた.(3)就業自己イメージ尺度の信頼性と妥当性(一部の下位尺度を除く)が確認された.
これらの結果は,就業自己イメージが,大学生の職業選択にかかわる心理過程の理解に有用な概念であることを示している.
キーワード
職業選択、就業自己イメージ、大学生、尺度の信頼性・妥当性
表題
リスクコミュニケーションに対する送り手側の評価:原子力広報担当者を対象として
著者
松本 隆信・塩見 哲郎 ((株)原子力安全システム研究所)
中谷内 一也 (帝塚山大学)
要約
リスクコミュニケーションは双方向性を強調するリスクについての情報伝達過程である。
ところが、これまでの実証的研究では、公衆に対してリスク情報を伝達することについて送り手側がどのように評価しているのかは、あまり検討されてこなかった。そこで本研究では、電力会社の広報に携わる職員を調査対象とし、原子力発電のベネフィットだけを伝えさせる条件と、ベネフィットとリスクの双方を伝えさせる条件とを設け、それぞれのコミュニケーションスタイルに対する評価を尋ね、回答を比較した。その結果、リスク内容を含めて広報した方が、公正、誠実であり、自らの姿勢に自信が持てる、と評価されることが明らかになった。さらに、メッセージの受け手からの共感や信頼が高まると期待されていることも示された。以上の結果から、原子力の広報に関しては、送り手もリスク情報の伝達が必要であると捉えていることが実証的に示唆された。
キーワード
リスクコミュニケーション、情報の送り手、公正、信頼、リスク
表題
大学生の完全主義傾向と課題解決方略の非効率性:なぜ彼らの努力は報われないのか
著者
石田 裕昭 (東洋大学大学院社会学研究科)
要約
本研究の目的は、課題に対する完全主義者の方略およびその非効率性を検討することによって、完全主義と心理的不適応の関係の一端を明らかにすることである。大学生の被験者は、完全主義認知尺度(PCI)の得点により完全主義傾向高群15名と低群13名に分類された。そして与えられたテーマについて情報収集し、テストに備えるという課題を行った。これらの情報にはテストで高得点を取るために必要な重要情報と、テーマと関連の薄い周辺情報が含まれていた。本研究の仮説は、完全主義傾向高群は低群に比べて、周辺情報の収集数が多く、効率的に成果を上げることができないというものであった。結果、高群は低群よりも得点に結びつかない周辺情報の収集数が多く、得点も低いことが明らかになった。したがって、高群はその方略の不適切さゆえに、努力を払うにもかかわらず望ましい結果を得られない可能性があることが示唆された。
キーワード
大学生、完全主義傾向、制御ミス、方略、非効率性
表題
注目する規範の相違による社会的迷惑
著者
髙木 彩・村田 光二 (一橋大学大学院社会学研究科)
要約
本研究では、規範的行為の注目理論(Cialdini, Reno, & Kallgren, 1990)に基づいて、社会的迷惑が行為者と認知者の注目する規範の相違によって生じている可能性を検討した。行為者と認知者が同じ規範に注目した場合には、両者が異なる規範に注目した場合よりも迷惑が低減するという仮説を検討するため、2つの実験室実験を行った。その結果、認知者を行為者と同じ規範に注目させた場合には、異なる規範に注目させた場合よりも行為に対する迷惑認知が低減する傾向が示された。しかし迷惑行為の生起においては注目する規範の効果はみられなかった。従って仮説は部分的に支持された。考察では注目理論に基づいて迷惑行為の生起について議論を行った。
キーワード
社会的迷惑、社会的規範、規範的行為の注目理論
表題
常識の規範的影響について
著者
石井 徹 (島根大学法文学部)
要約
本稿では、これまで見過ごされがちであった常識の規範的側面の重要性とその探求の意義を常識研究と規範研究の双方から検討した。まず、常識に見られる二つの側面、すなわち知識としての側面と規範としての側面を従来の研究に確認し、日常におけるその現れ方をふりかえった。さらに後者の規範的側面についてこれまで明らかにされてきた知見を検討し、他方、規範研究の流れからも常識研究の意義を探った。続いて、常識の規範的側面を探求する方法について一例を示し、具体的な実証研究の可能性を検討した。また今後検討すべき課題の概略を描いた後、そこで取り上げる現象に関わる隣接諸概念を常識との関連から吟味した。最後に、常識の研究が日常生活にもたらすであろう貢献を考えた。
キーワード
常識、変、規範的影響、受容と拒否、安定と変化