第21巻 第2号 平成17年(2005年)11月 和文要約

表題
中年期夫婦における評価ギャップと会話時間
著者
土倉玲子(北海道文教大学)
要約
中年期における夫婦関係の質を扱った既存研究では、妻の評価が夫より低い傾向があることが示されている。本論文では、会話時間と、夫婦関係の質や結婚に関連した活動(家事や育児、仕事・社会的活動など)に対する認知とがどのような相関を持つかについて、177組の中年期夫婦を対象に質問紙調査を行った。その結果、(1) 会話時間は、夫婦関係の質に対する評価における夫婦間ギャップ(妻の評価が夫より低い傾向)と正の相関を持つこと、(2) 会話時間は夫婦関係の質に対する評価と正の相関を持つが、それは妻に限られること、(3) 夫婦関係の質に対する評価、活動に対する評価の両分野において、会話時間は、評価の過少伝達や過大伝達とは相関を持たないことなどが示された。これらの結果から、会話時間は、妻においてのみ、パートナーとの関係の質に対する総体的な認知と関連を持つことが示された。さらに会話時間は評価伝達におけるズレとは相関を持たないことが示された。
キーワード
評価ギャップ、夫と妻、会話時間、関係の質、中年期夫婦
表題
女子大学生における男女平等の判断基準:職場・家事・育児場面における違い
著者
宇井美代子(筑波大学大学院心理学研究科・日本学術振興会特別研究員)
要約
本研究では、職場・家事・育児の3つの場面において、どのような男女平等の判断基準が重視されているのかを検討した。246名の女子大学生が質問紙に回答した。その結果、男女の特性の原理と均等配分の原理を重視するかどうかには個人差がみられた。一方、その他の判断基準が重視されるかどうかは、場面によって異なっていた。職場場面では、性に関わらず個人が有している資源を活かそうとする"機会の平等"と"個人の能力の原理"と"努力の原理"と"必要性の原理"とが重視されていた。家事場面では、"話し合いによる手続き的公正"が、育児場面では、"自己決定に基づく手続き的公正"が重視され、分配の仕方に関して互いの意見が述べられたり、尊重されたりする過程が男女平等であると判断される重要な要因であった。育児場面では、職場場面と同様に、個人が有している資源を活かせるような"個人の能力の原理"と"努力の原理"もまた、重視されていた。
キーワード
男女平等観、性役割態度、セクシズム、社会的公正理論、フェミニズム
表題
対人コミュニケーションの観点からみたうわさの伝達
著者
竹中一平(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
要約
本研究の目的は、大学生の日常会話におけるうわさを対象とし、対人コミュニケーションの観点から、接触・伝達率、日常的な話題との関連、伝達に及ぼす要因を検討することであった。うわさとの接触・伝達の有無、内容の評価、日常会話で話される話題について尋ねられた。調査対象者は、第1調査が大学生300名、第2調査が大学生315名であり、調査時期は第1調査が5月、第2調査が11月であった。分析の結果、日常会話におけるうわさは、日常的な話題が乏しいときに話題の少なさを補う機能を持つことが示唆された。
キーワード
対人コミュニケーション、話題、うわさ、日常生活、会話
表題
地方小都市に住む高齢女性の社会関係における階層的補完性
著者
野邊政雄(岡山大学教育学部,モナシュ大学日本研究所)
要約
筆者は、1997年から1998年にかけて岡山県の地方小都市である高梁市で高齢女性が誰にサポートを求めるかについての調査をおこなった。本稿の目的は、そのデータを分析し、各種の社会関係の間に階層的補完関係があるかどうかを検証することである。データの分析によって次の2点を明らかにした。(1)高い割合の高齢女性は、手段的サポートを「配偶者以外の同居家族」に期待していた。また、いずれの課題であっても高齢女性にとって「同居家族」がサポート源として重要であった。(2)古谷野ほか(1998)が想定する序列において上位層の他者に手段的サポートを期待できないとき、高齢女性はたいてい次位にある間柄の他者にそのサポートをより期待できるようにすることで最も補完していた。これに対し、その序列における上位層の他者に情緒的サポートを期待できないとき、高齢女性はたいてい「近隣者と友人」にそのサポートをより期待できるようにすることで最も補完していた。
キーワード
ソーシャル・サポート、階層的補完モデル、高齢女性、課題特定モデル、地方小都市
表題
占いの予言が「的中する」とき
著者
村上幸史(大阪大学大学院人間科学研究科)
要約
大衆向けの雑誌(女性誌)を中心に普及している占いが「的中する」と判断される理由について、読み手の権威主義的な要素や、文章が与えるバーナム効果の側面から説明されてきた。しかし、過去の研究は性格占いを扱ったものが中心であり、運勢占いに関してはほとんど検討がなされていない。
 そこで、本研究では文章の記述スタイルと「運命の決定観」の関係に着目し、4つの研究を通して、提示内容とそれを認知する読み手の両者に着目して「的中した」と判断される理由の検討を行った。「運命の決定観」とは、占いの信憑性を高める生得的な要因を根拠にして、読み手の行動ではある程度の不可変な要素が運勢の形で提示され、それを読み手も価値観として受容している点を指す。また占い文章によって生じた予感が実際に的中することで、占いに対する信用度が高まり、また的中感を生み出すという構造があると考えられる。そこで研究材料として、実際の雑誌(女性誌)の占い文章を用い、読み手が実際に「的中しそうな」(予測)、及び「的中した」(結果)と判断した箇所に線を引くことで、その内容が検討された。
 その結果、予測の段階で信じる者が結果として「的中した」と判断するという自己成就的な構造が共通して見られた。提示される文章の内容では、結果として不可変的な「運勢」として記述された箇所が、また予測・結果の両方でネガティブな占いが「的中した」と判断されていた。
 このような結果から、占いは「運勢」として読まれるが、結果的に「運命」感を持つことが、読み手に的中感を喚起させると推測された。ネガティブな内容が「的中する」理由については、記憶や内容評価の面から議論がなされた。以上の結果から、信じることは権威主義的ではなく、柔軟な解釈によると結論付けられた。
キーワード
占い、「的中」、運命の決定観
表題
夫婦の関係満足度及び生活充実感における規定因の検討
著者
赤澤淳子(今治明徳短期大学)
要約
本研究の目的は、性別役割分業に関する社会的交換尺度を構成する各変数が、夫婦の関係満足度や個人の生活充実感に及ぼす影響を分析し、その規定因を検討することである。子の平均年齢が18歳以下の236組の夫婦のデータを分析した結果、以下のことが明らかとなった。1)夫が平等主義的な性別役割観を持つことが夫の家事参加を高めている可能性が示唆された、2)妻の収入が高まる、あるいは夫との収入の差が縮まることによりことにより、夫の家事参加が高まることがわかった、3)夫婦関係満足度においては、選択比較水準を除くと、夫では他者成果の認知が、妻では家庭内の役割における自他成果の認知が強く影響していた、4)夫婦の生活充実感においては、選択比較水準の影響を除くと、夫では「収入を得る仕事」の他者成果及び自己投入の認知が、妻では「家事・子育て」の他者成果及び自己成果の認知が、生活充実感に強く影響を及ぼしていた。このような差異は、性別役割分業における労働の質による差によるものと推測される。
キーワード
夫婦の関係満足度、性別役割分業、社会的交換モデル
表題
大学の授業における私語の頻度と規範意識・個人特性との関連:大学生活への適応という観点からの検討
著者
出口拓彦(藤女子大学人間生活学部)
吉田俊和(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
要約
本研究では、大学の授業における私語の発生過程について、規範意識や個人特性に焦点を当てて検討することを目的とした。研究Iでは251名、研究IIでは369名の学生を対象に質問紙調査を行った。研究Iでは、私語の頻度と、私語を「してはいけないもの」とする規範意識、社会的スキルや視点取得という個人特性との関連について検討した。その結果、これらの特性が高い者の方が頻繁に私語をしていることが示された。研究IIでは、大学生活の目的と私語の頻度との関連について検討すると共に、私語と適応との関連にも焦点を当てた。その結果、「対人関係の構築」を重視している人は、規範意識が高くても「授業と無関係の私語」を行う傾向が示された。また、私語の頻度と対人関係に対する適応感との間には、中程度の正の相関が示された。これらのことから、大学における私語は、対人関係に対する適応を高めるために行われている可能性が示唆された。
キーワード
私語、規範意識、視点取得、社会的スキル、適応