第21巻 第3号 平成18年(2006年)2月 和文要約
- 表題
- 話し手の方言使用と印象: コードスイッチの適切さと聞き手の出身地による影響
- 著者
- 町 一誠(修道中学校)
樋口匡貴(松山東雲女子大学人文学部)
深田博己(広島大学大学院教育学研究科)
- 要約
- 本研究の目的は、話し手の方言の使用が話し手に対する印象形成に及ぼす影響を検討することである。その際、状況に応じて適切な方言使用がなされるかどうかに注目し、話し手が方言と共通語とを適切にコードスイッチして使用する条件と、不適切にコードスイッチして使用する条件のほかに、一貫して方言を使用する条件と一貫して共通語を使用する条件を実験条件として設定し、実験で使用する方言を母語とするネイティブ群とそうでないノン・ネイティブ群の2タイプの被験者を用意した。大学生・短期大学生280名に対する実験の結果、状況に応じて方言と共通語とを適切にコードスイッチして使い分ける話し手は、自分に対する聞き手の対人印象と対人魅力を非常に高めることが明らかになった。一方で、不適切にコードスイッチして使用する話し手は、自分に対する聞き手の対人印象と対人魅力を非常に低下させてしまうことが明らかになった。これらの結果が、日本における方言の評価などの観点から考察された。
- キーワード
- 対人印象、方言、共通語、コードスイッチ、聞き手の出身地
- 表題
- 発言抑制行動に至る意思決定過程:発言抑制行動決定時の意識内容に基づく検討
- 著者
- 畑中美穂(筑波大学・日本学術振興会)
- 要約
- 本研究の目的は、日常の会話において、発言するか否かを決定する際に生起する意識内容を検討し、発言抑制行動に至る意思決定過程の推定を試みることであった。研究1では、大学生183名を対象に調査を行い、発言抑制行動が行われやすい典型的な状況を選出した。研究2では、大学生および大学院生382名を対象に調査を行い、研究1で選出した状況で、発言するか否かを決定する際に生じる意識内容を検討した。その結果、発言抑制行動決定時に生じる意識内容に関して、「適切性考慮」「否定的結果」「関係回避」「スキル欠如」の4因子が抽出された。Partial Ordered Scalogram Analysis(POSA)のによって、これら4種の意識内容から構成される意思決定のパターンを検討し、意思決定のパターンと個人特性との関連を分析した。その結果、意思決定のパターンによって、行動の適切性が異なることが示唆された。これらの結果を基に、発言抑制行動意思決定過程が推定された。
- キーワード
- 意思決定過程、会話、コミュニケーション回避、発言抑制、Partial Ordered Scalogram Analysis(POSA)
- 表題
- 不満生起事態における部下の議論統合的対処の促進要因に関する検討
- 著者
- 山浦 一保 (広島大学大学院生物圏科学研究科)
浦 光博 (広島大学総合科学部)
- 要約
- 本研究の目的は、上司の仕事上の指示に対して部下が不満を感じたとき、いかなる条件のもとで上司に対する部下の議論行動が促進あるいは抑制されるのかを明らかにすることであった。分析1の結果から、上司と部下の目標志向性の一致・不一致や認知された組織体制 (年功序列、能力主義) は、部下の議論統合的な不満対処行動の選択に影響を及ぼす要因であることが示唆された。分析2では、目標志向性の一致・不一致を背景にして生じた不満は、上司要因や関係性要因への原因帰属を媒介して部下の議論統合的な行動選択に影響を及ぼすことを明らかにした。これらの結果は、職場において部下からの議論行動を引き出し上司との建設的な問題解決を図る上で、上司と部下との間でコミュニケーションをとり互いの目標志向性を共有しようとする対人関係の構築や、それを支える組織的システムづくりが重要であることを示唆している。
- キーワード
- 目標志向性の一致・不一致、部下の議論統合の行動、組織体制、原因帰属、関係性のサービング・バイアス
- 表題
- ネガティブライフイベントへの不適応的な対処行動:重要他者に対する再確認傾向の役割
- 著者
- 勝谷紀子(東京都立大学大学院)
- 要約
- 重要他者に対する再確認傾向がネガティブライフイベントへの対処行動とどう関連するのか、重要他者からの拒否的反応や抑うつの変化とどうつながるのかについて2つの質問紙調査で検討した。研究1では、個人差としての再確認傾向とさまざまな対処行動との関連を検討した。研究2では、2回にわたる質問紙調査によって、ネガティブライフイベントを経験した際の再確認願望にもとづく対処行動が、重要他者からの拒否的反応をつうじて抑うつに関わるのかを検討した。その結果、再確認傾向は一人で行う非対人的な対処行動、重要他者に働きかけるタイプの対処行動をそれぞれ説明することが示された。また、ネガティブライフイベント経験時の再確認願望に基づいてなされた1人で行う気晴らし行動および重要他者への再確認行動が、重要他者の拒否的反応を通じて抑うつを高める可能性が示された。最後に、再確認傾向が抑うつの発生・維持に果たす役割について考察した。
- キーワード
- 重要他者に対する再確認傾向、抑うつ、対処行動、拒否的反応、重要他者
- 表題
- 人物選択における選好と拒否:自己批判バイアスの一説明
- 著者
- 谷口淳一(大阪国際大学人間科学部)
山 祐嗣(神戸女学院大学人間科学部)
川﨑弥生(神戸女学院大学人間科学研究科)
堀下智子(大阪大学大学院人間科学研究科)
西岡美和(甲南女子大学人文科学総合研究科)
- 要約
- Shafir(1993)は、平均的な属性をもった選択肢よりも肯定的否定的極端な属性をもった選択肢が選ばれることを発見した。われわれは、この方法を人物の選択に適用した。日本人は平均的な属性をもった人物を好むと言われている。しかし、日本人は本当に平均的な属性をもった人物を好むのか、あるいは他者が好むと信じているのか。われわれは、あるグループに加わることを希望している2名の人物がいるというシナリオを用いた。1名は肯定的否定的極端な属性をもっており、もう1名は平均的な属性をもった人物である。107名の女子大学生は2名のうちから1名を呼ぶように求められ、113名の女子大学生は2名のうちから1名を断るように求められた。また、実験参加者は、グループの他のメンバーがどちらを呼ぶか、または断るかを推測するように求められた。その結果、自己判断では、肯定的否定的極端な属性をもった人物が選好され、また拒否もされていた。一方、グループの他のメンバーは平均的な人物を選好すると参加者は推測していた。これらの結果は、自己批判バイアスが、人物の選択に関する適応戦略を反映している可能性を示唆している。
- キーワード
- 人物選択、理由に基づく決定、自己批判バイアス
- 表題
- 合議におけるパレート原理の頑健性:「寡きを患えず、均しからざるを患う」?(II)
- 著者
- 田村 亮(日本学術振興会・北海道大学大学院文学研究科)
亀田達也(北海道大学大学院文学研究科)
深野紘幸(北海道大学文学部)
- 要約
- 田村・亀田(2004)は、さまざまな報酬分配法を人々が評価するとき、「不公正だがパレート改善をもたらす分配法」への選好が集団討議により増大することを見出した。彼らの研究では、参加者は、資源分配に関する争いを第三者として解決する調停者の役割を与えられた。本研究は田村・亀田(2004)を概念的に追試し、直接の当事者が資源分配を議論する集団場面で、先述のパレート原理への志向拡大が観察されるのか、検討した。実験では、2人の学生参加者がアナグラム課題を行い、「ペア報酬」をどのように分配するべきか議論した(n = 40)。ペアは、平等原理に基づく分配法、衡平原理に基づく分配法、不公正だが(= 生産量の低いメンバーにより多くの報酬を与える)、他の2つの分配法に対してパレート改善をもたらす分配法、の3つを提示された。田村・亀田(2004)と一貫して、本研究の結果は、集団討議の中で「不公正だがパレート改善をもたらす分配法」への支持が大きく拡大することを確認した。
- キーワード
- 分配の公正、パレート原理、集団意思決定、当事者による報酬分配
- 表題
- おしゃれの二面性尺度の作成およびジェンダー・パーソナリティとの因果分析:母世代・娘世代の比較
- 著者
- 橋本幸子
尾田貴子(関西大学大学院社会学研究科)
土肥伊都子(神戸松蔭女子学院大学人間科学部)
柏尾眞津子(大阪国際大学人間科学部)
- 要約
- 本研究は、おしゃれが二面性を持つという仮説のもとに、おしゃれの二面性尺度を作成することを第1の目的とした。短期大学、大学の女子学生107名とその母親107名を対象に質問紙調査を行い、母世代、娘世代のデータを得た。因子分析を行った結果、おしゃれは「外面的おしゃれ」「内面的おしゃれ」の2因子構造を持つことが確認できた。また、生活習慣、被服・化粧行動習慣との構成概念妥当性が確認された。第2の目的として、外面的おしゃれ、内面的おしゃれとジェンダー・パーソナリティとの関連について、母世代、娘世代ごとに因果関係を検討した。共分散構造分析の結果、娘世代においてのみ、ジェンダー・アイデンティティが外面的おしゃれを促進していた。母世代、娘世代ともに、両性具有性が内面的おしゃれを促進していた。また、母世代においてのみ、内面的おしゃれが外面的おしゃれを高めていた。
- キーワード
- 尺度構成、外面的おしゃれ、内面的おしゃれ、ジェンダー、共分散構造分析