第22巻 第1号 平成18年(2006年)8月 和文要約

表題
親の自己愛と子への攻撃:自己の不遇を子に帰すとき
著者
福島 治(新潟大学人文学部・超域研究機構)
岩崎浩三(新潟医療福祉大学)
青木慎一郎(岩手県立大学社会福祉学部)
菊池潤考(岩手県福祉総合相談センター)
要約
脆弱な自己評価のために、自己愛者は非自己愛者よりも自己評価を脅かす者に対して攻撃を加えやすい(Baumeister, Smart, & Borden, 1996)。このモデルに基づいて、親が自己の能力発揮機会損失(自己評価への脅威)の原因を子に強く帰属するときに、自己愛的な親ほど子への攻撃が増加すると仮説を立てた。標本抽出された626名の親の自己報告データに関する階層的重回帰分析は、仮説と一致して、この帰属傾向が高い親においては、自己愛得点が高いほど報告された子への攻撃が多かったが、その帰属が中程度と低い親においては、自己愛と子への攻撃の関連は有意ではなかったことを示した。自己愛者の子への攻撃に関する帰属の調整効果が議論された。
キーワード
自己愛、攻撃、自己評価、子育て、児童虐待
表題
集団成員の流動性が劣位集団における内集団共同行為と成員のアイデンティティに及ぼす影響
著者
垂澤由美子(名古屋大学大学院 環境学研究科)
広瀬幸雄(名古屋大学大学院 環境学研究科)
要約
集団間の移籍性の可否が劣位集団の成員の集合行為への参加意志やアイデンティティに影響を及ぼすことは、先行研究によって示されてきた。本研究では、仮想世界ゲームを用いて、集団成員の集団間流動性が劣位集団における内集団共同行為と成員のアイデンティティに及ぼす影響を検討した。集団の優劣と流動性の高低とを組み合わせた4条件群へのいずれかに344名の大学生のひとりひとりを無作為に振り当て、実施された全8ゲームのうちの何れか1ゲームにだけ各人を参加させた。その結果、流動性を低めた場合の方が、高めた場合より、優位・劣位集団とも、成員の内集団共同行為への参加が多く見られた。同時に、劣位集団にあっては、流動性を低めた場合の方が、高めた場合に比べ、成員は相対的に肯定的なアイデンティティを持っていた。
キーワード
集団成員の流動性、肯定的な社会的アイデンティティ、内集団共同行為、仮想世界ゲーム
表題
被透視感の強さを規定する要因:自己への注意と他者の視点取得についての検討
著者
太幡直也 (筑波大学大学院人間総合科学研究科)
要約
これまで、自己の内面が他者に見られることから生じる感覚についてはあまり検討されてこなかった。本研究では、自分で意図的に伝えていないのに相手が自分の内的側面を気づかれていると感じる感覚を被透視感と定義し、その感覚を規定する要因について検討した。そして、自己への注意と視点取得を被透視感の強さを規定する要因として予測した。被調査者には、回答パターンが自己の特徴を反映しないような葛藤課題の解決方法に回答させ、回答の結果からどの程度自己の内面が気づかれてしまうかを評定させた。結果としては、私的自己意識の強さも公的自己意識の強さも被透視感の強さと関連することが示唆された。研究2では自己の特性に関する被透視感を検討し、公的自己意識はポジティブな特性とネガティブな特性の被透視感と関連するのに対し、私的自己意識は被透視感とは関連が見られなかった。一方で、被透視感に対して、視点取得は影響を与えるという予測はほぼ支持されなかった。
キーワード
被透視感、自己への注意、視点取得、内面のポジティブさ、葛藤課題
表題
ステレオタイプ抑制の動機と方略:その分類と関係
著者
大江朋子・岡 隆・横井 俊(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
女性ステレオタイプを抑制する際の動機と方略を分類し、動機と方略間の関係を調べるために、また、抑制動機や抑制方略が性差別主義に関係しているかどうかを探るために、2つの調査を行った。調査1では、女性ステレオタイプを抑制する際の動機と方略に関する大学生の自由記述を質的に分類した。質的分類の結果を基に、調査2ではステレオタイプ抑制の尺度を作成し、大学生390名にその尺度に回答してもらった。探索的因子分析の結果、抑制動機として偏見否定動機と規範・関係維持動機が、抑制方略として回避方略と接近方略が抽出された。パス解析からは、規範・関係維持動機は回避方略の採用傾向を高めるが、偏見否定動機は回避方略の採用傾向を低めると同時に、接近方略の採用傾向を高めることが示された。性差別主義は、偏見否定動機と負の相関に、男性回答者の規範・関係維持動機と負の相関に、女性回答者の回避方略と正の相関にあった。どのような抑制がステレオタイプ活性化の促進と低減につながるかが議論された。
キーワード
ステレオタイプ、抑制、動機、方略、性差別主義
表題
一般的信頼に及ぼす遺伝と環境の影響:行動遺伝学的・進化心理学的アプローチ
著者
敷島千鶴(慶應義塾大学大学院社会学研究科)
平石 界(東京大学教養学部)
安藤寿康(慶應義塾大学文学部)
要約
一般的信頼理論に対し、行動遺伝学の一手法である双生児法を用いた分析を行うことにより、新たな視点による検討を試みた。収集された双生児1,040名の一般的信頼得点より、一卵性双生児328組、二卵性同性双生児103組のデータに単変量遺伝解析を施した結果、一般的信頼の個人差分散は遺伝36%、非共有環境64%で説明された。すなわち、家族成員によって共有される環境の影響力はなく、一般的信頼が個人の社会的経験によって調整されるとするこれまでの知見は支持された。また、一般的信頼と外向性との間に示された相関関係は、信頼がもつ「解き放ち」役割を支持するものであった。さらに、一般的信頼とHostility、Positive Emotions、Warmth、Altruismというパーソナリティ特性に対し施行した多変量遺伝解析結果は、一般的信頼への遺伝要因に独自のものはなく、パーソナリティと共通であることを示した。進化心理学的視点より、一般信頼への遺伝寄与が「反応性遺伝率」を反映したものである可能性が示唆された。
キーワード
信頼、パーソナリティ、双生児、行動遺伝学、進化
表題
オンラインゲーム内のコミュニティにおける社会関係資本の醸成:オフライン世界への汎化効果を視野に
著者
小林哲郎・池田謙一(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
オンラインコミュニティにおいて信頼感が醸成される構造を、社会関係資本論の枠組みを用いて検討した。その結果、集合的コミュニケーションの頻度、成員の同質性、コミュニティの開放性がオンラインコミュニティ内の信頼感にポジティブな効果を持つ一方、コミュニティのサイズと垂直的構造はネガティブな効果を持つことが明らかになった。これは、従来のオフライン(現実世界)での社会関係資本論の枠組みがオンライン上の社会関係資本を検討するのに有効であることが示唆している。さらに、オンライン上の社会関係資本がオフラインへと汎化し、オフラインでの社会参加に対して効果を持つことが検証された。すなわち、オンライン上の互酬性はオフラインでの社会関係資本の効果を統制してもなお、オフラインでの社会参加を加算的に促進することが示された。オンライン上の集合的コミュニケーションは民主主義的社会システムの円滑な運営に貢献しうると考えられる。
キーワード
社会関係資本、信頼感、互酬性、オンラインコミュニティ、CMC
表題
対面、携帯電話、携帯メールでのコミュニケーションが友人との関係維持に及ぼす効果:コミュニケーションのメディアと内容の適合性に注目して
著者
古谷嘉一郎(広島大学生物圏科学研究科)
坂田桐子(広島大学総合科学部)
要約
本研究では、対面、携帯電話、携帯メールを用いたコミュニケーションが、同性の友人関係間の関係満足度とどのように関連するかを検討した。具体的には、3(メディア:対面、携帯電話、携帯メール)×3(内容:課題的、情緒的、コンサマトリー的)の9種類のコミュニケーションと関係満足度との関連について、メディアと内容の適合性の観点から検討した。分析の結果、身近にいて毎日でも対面することが可能な友人関係(近距離友人関係)と物理的に離れていてめったに対面することができない友人関係(遠距離友人関係)では、関係満足度と関連するコミュニケーションが異なることが分かった。主として、近距離友人関係では、対面のコンサマトリー的コミュニケーションが関係満足度とポジティブな関連をしていた。また、遠距離友人関係については、携帯メールのコンサマトリー的コミュニケーションが関係満足度にポジティブな関連をしていた。これらの結果を、対人関係研究、コミュニケーション研究の視点から考察した。
キーワード
携帯電話、携帯メール、コミュニケーション、友人関係
表題
「お守り」をもつことの機能:贈与者と被贈与者の関係に注目して
著者
荒川歩(立命館大学人間科学研究所)
村上幸史(大阪大学大学院人間科学研究科)
要約
人々がお守りを持つ理由について調査を行なった。198人の大学生が、質問紙調査に回答した。その結果、お守りは超越的な力への信奉と完全に結びついたものではないこと、家族や親しい友人からプレゼントされたことがお守りを持つ要因の一つであること、家族や親しい友人は直接サポートをできない場合にお守りを贈ること、年長者から年少者に贈与されることが多いこと、贈与者との関係がお守りの種類に影響することが示された。これらの結果から、贈り手は不安を解消するためにお守りを贈り、受け手にとっては不安を感じたときに贈り手のサポートを思い出させる役割を持つことが示唆された。
キーワード
お守り・ソーシャルサポート・家族・俗信