第22巻 第2号 平成18年(2006年)11月 和文要約

表題
対人葛藤における多目標:個人資源への関心、評価的観衆、及び丁寧さが解決方略の言語反応に及ぼす効果
著者
福島 治(新潟大学人文学部・超域研究機構)
大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
小嶋かおり(新潟中央短期大学)
要約
複数の目標が、対人葛藤における言語反応に及ぼす効果を検討した。個人資源への関心の高い又は低い被験者は、実験協力者と会話をし、訓練された観衆がその会話内容に基づいて彼らの協調スキル又は主張スキルを評価すると思わされた。被験者は、実験協力者が丁寧または粗野に伝えた不合理な要求によって葛藤を経験した。個人資源への高い関心、協調的スキルを評価する観衆、丁寧な表現のうち2つ以上が存在するときには、被験者は統合を、それらと反対の条件が2つ以上存在するときには彼らは分配を選択した。加えて、被験者の資源関心が高いときに限って、丁寧な表現は懐柔を、粗野な表現は敵意を増加させた。これらの結果が、多目標理論の仮定する方略選択過程から議論された。
キーワード
対人葛藤、解決方略、自己呈示、評価的観衆、丁寧さ
表題
大学生の社会的スキルがライフイベントの体験に及ぼす影響
著者
丹波秀夫(早稲田大学大学院文学研究科)
小杉正太郎(早稲田大学文学学術院)
要約
本研究は、大学生429名を対象に、社会的スキルがライフイベント体験に及ぼす影響を検討した。Segrin(2001)は、社会的スキル不足-ストレス生成仮説を提起し、社会的スキルがライフイベントの体験を減少させることを主張した。一方、田中・米原・小杉(2003)は、社会的スキルがライフイベント体験を増加させることを明らかにしているため、社会的スキル-過剰ストレス生成仮説を提起することも可能であろう。社会的スキルの構成要素を説明変数、ライフイベント体験を基準変数とした重回帰分析の結果、社会的スキルの構成要素が主に人間関係に関するライフイベント体験に影響することが明らかとなった。具体的には、トラブルシューティング・スキルがライフイベント体験を減少させ、コミュニケーション・スキルがライフイベント体験を増加させていた。以上より、上記の両仮説は、社会的スキルの異なる構成要素によるライフイベント体験への影響に基づくことが示唆された。
キーワード
社会的スキル、ライフイベント、大学生
表題
日常的コミュニケーションが恋愛関係に及ぼす影響
著者
多川則子・吉田俊和(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
要約
本研究の目的は、恋愛行動の段階(松井, 1990)を統制し、日常的コミュニケーションが恋愛関係の良好さに及ぼす影響を検討することであった。良好さの指標としては、愛情を取り上げ、Sternberg(1997)のTriangular Love Scaleを用いた。また、恋愛関係の特徴を捉えるために、片思い関係と異性の友人関係を比較対象として加えた。恋愛群154名、片思い群205名、異性の友人群125名が分析の対象となった。その結果、日常的コミュニケーションの中でも、「日常的な報告」「独特な言葉遣い」「相手の対応の認知」の愛情に対する影響が確認された。さらに、これらの影響は恋愛関係に限らず、片思い関係や異性の友人関係においてもみられることが確認された。「日常的な報告」は、Watzlawick, Bavelas, & Jackson(1967)の2種類のメッセージの観点から、「独特な言葉遣い」は関係固有の文化(relational culture; Wood, 1982)の観点から考察された。
キーワード
日常的コミュニケーション、愛情、恋愛行動の段階、関係の良好さ、対人関係の親密化
表題
恋愛関係の排他性に及ぼす青年期の愛着スタイルの影響について
著者
金政祐司(相愛大学人文学部)
要約
本研究は、青年期の愛着スタイルが恋愛関係における排他性に及ぼす影響についての検討を行った。研究1では大学生257名を対象に、青年期の愛着スタイルが恋愛関係の排他感や排他感の表出性に与える影響について愛着次元の観点から検討した。主な結果としては、関係不安が高くなるほど排他感は高くなり、親密性回避が高くなるほど排他感を経験しにくくなること、また、排他感の表出性については、親密性回避の高い者は、自身の排他感を表出しにくい傾向があることが示された。研究2では、現在恋愛関係にある大学生104名を分析対象とした。青年期の愛着スタイルが恋愛関係の排他性に及ぼす影響について、最初に、青年期の愛着スタイルの2次元軸、次に、恋愛関係に第三者が介入してきた状況での不快感情の経験やその抑制、最後に、その後の対処行動という因果モデルを構成して、検討を行った。その結果、関係不安は、恋愛関係に第三者が介入してきた状況での未練や悲哀といった感情経験の高さを予測し、反対に、親密性回避は、そのような感情経験の低さを予測していた。また、対処行動に対しては、親密性回避の影響が強く見られ、親密性回避の傾向が高いほど、破壊的な対処行動を取りやすく、逆に話し合いといった建設的な対処行動を取りにくくなることが示された。これらの結果について、青年期の愛着スタイルと感情コントロール、関係破壊行動との関連性の観点から議論を行った。
キーワード
青年期の愛着スタイル、恋愛関係、排他性、対処行動、関係葛藤
表題
怒りと恐怖がもたらす説得効果
著者
具志堅伸隆(名古屋大学人間情報学研究科)
唐沢かおり(名古屋大学環境学研究科)
要約
この研究では、メッセージと無関連な怒り感情あるいは恐怖感情が、メッセージの説得力に及ぼす効果を検討した。実験参加者は、怒り感情、恐怖感情、あるいはニュートラル感情下で、不良債権処理の不十分さを批判するメッセージ(批判メッセージ)と不良債権処理を進めることの危険性を訴えるメッセージ(脅威メッセージ)を読み、判断を行った。その結果、怒りは、正義が侵害されたと認知する傾向を強めることによって、批判メッセージの説得力を高めたのに対し、恐怖は、脅威事象が生起するとの予期を強めることによって、脅威メッセージの説得力を高めた。これらの結果は、感情喚起コミュニケーションにおいて、情動感情がそれぞれ特有の認知的傾向を生じさせることによって、メッセージの説得力を高める働きをすることを示している。
キーワード
怒り、恐怖、批判メッセージ、脅威メッセージ、無関連感情
表題
非人間的ラベリングが攻撃行動に及ぼす効果:格闘TVゲームを用いた実験的検討
著者
田村 達・大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
要約
本研究は、被害者を非人間的な存在として表現するラベルが加害者の攻撃抑制を低下させると仮定し、そのような非人間的ラベリングが攻撃に及ぼす効果を対戦型格闘TVゲームを用いて検討した。男子大学生63名が、非人間的ラベル、匿名ラベル、実名のいずれかの相手と不快ノイズを互いに与え合うゲームで対戦した。非人間的ラベルは対戦相手への共感的配慮を減少させ、敵意の知覚を強めるために、強い攻撃(大きなノイズ)を行わせると予測した。また、非人間的ラベルは攻撃抑制を低下させるのか、それとも攻撃を動機付けるのかを検討するために、対戦相手が敵意的な条件と非敵意的な条件を比較した。その結果、我々の予測は部分的に支持された。非人間的ラベルは直接的影響を持たなかったが、パス分析は共感的配慮の低下を通じて間接的に攻撃を強めることを示した。だが、第二の問題に関しては、非人間的ラベルが攻撃動機を喚起する可能性が残された。
キーワード
非人間的ラベリング、匿名ラベル、攻撃行動、共感的配慮、TVゲーム
表題
家族メンバーによる高齢者介護の継続意志を規定する要因
著者
唐沢かおり(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究は、高齢者を介護する家族メンバーの介護継続意志の規定要因について、1)介護状況に対する介護負担感要因や肯定的評価の効果と、2)家族介護意識の影響に焦点を当てて検討した。また、介護継続意志と精神的健康との関係についての示唆を得るために、各要因が「鬱的感情」に及ぼす影響も同時に検討した。データは、家族介護者445人に対する調査に基づくもので、鬱的感情、介護継続意志、家族介護意識、介護負担感要因や介護に対する肯定的評価に関する質問項目への回答をもとに、構造方程式モデリングによる分析を行った。その結果、家族介護意識は、介護継続意志を高める一方で、鬱的感情も高めることが示された。また、介護負担感要因が継続意志を低下させるわけではないこと、さらには、負担感要因のひとつである「拘束感」はむしろ継続意志を高めることが示された。このような結果は、家族介護支援システム構築する際、家族介護意識が家族を介護に拘束してしまう可能性を考慮する必要があることを示唆するといえよう。
キーワード
家族介護意識、家族による高齢者介護、鬱的感情、介護負担感要因
表題
人物の属性表現にみられる社会的ステレオタイプの影響
著者
菅さやか(神戸大学大学院文化学研究科)
唐沢 穣(神戸大学文学部)
要約
ステレオタイプ的期待に一致する情報は記憶や判断だけでなく、言語にも影響を及ぼすことが近年になって明らかになっている。本研究は、コミュニケーションがステレオタイプに関連した情報の言語表現に与える効果を検証した。また、人物の属性表現に関する指標としてこれまで主に欧米語圏で用いられてきた言語カテゴリー・モデルを日本語に適応するさいに生じる問題を解消するため、日本語の属性表現に合わせたコーディング基準を設けた。実験では、参加者に内集団成員または外集団成員のどちらか一方に関する行動文を与え、その人物についての印象の記述を求めた。実験結果は、外集団成員に関する記述にはよりステレオタイプ的で抽象的な表現が用いられることを示した。これは、外集団成員に対する期待の強さを反映していると考えられる。本研究で新たに示した基準は、日本語の属性表現を捉えるのに有用であるといえる。
キーワード
ステレオタイプ、言語的期待バイアス、言語カテゴリー・モデル
表題
他者への同調とタレントへの役割期待が笑い反応に及ぼす効果
著者
志岐裕子(慶應義塾大学大学院社会学研究科)
要約
本研究では、バラエティー番組における攻撃的な笑い刺激および性的な笑い刺激に対するおもしろさの知覚と笑い反応を分析した。第一に、ともに視聴する他者の属性が刺激に対するおもしろさの知覚と笑い反応に及ぼす影響を検討した。第二に、タレントへの役割期待が刺激に対するおもしろさの知覚に及ぼす影響を検討した。調査は140名の大学生を対象に場面想定法で行った。その結果、被験者は攻撃的な笑い刺激を親しくない知人とよりも親しい友人と視聴したときの方がおもしろいと回答した。性的な笑い刺激の場合は、知人や異性の他者とよりも、友人や同性の他者と視聴したときの方がおもしろいと回答した。刺激に対する反応を他者に合わせる程度は、刺激の種類に関わらず他者が知人や異性の場合に高いと答えた。また、刺激のおもしろさの知覚に及ぼす送り手要因の影響を検討した結果、送り手についての知識がない場合よりもある場合の方がおもしろいと回答した。
キーワード
笑い、ユーモア、社会的促進、同調、テレビ番組接触
表題
手続き的公正の集団価値性と自己価値性:向集団行動および自尊感情における社会的アイデンティティ媒介モデルの検討
著者
竹西正典(京都光華女子大学)
竹西亜古(甲子園大学)
要約
本研究は、手続き的公正の機能モデルを集団と自己の2側面において検証し、手続き的公正が人を内面から社会化させることを主張したものである。モデルは、権威(リーダー)の手続き的公正が、公正認知者(フォロワー)の自尊感情および向集団行動におよぼす心的過程を、社会的アイデンティティの媒介を含めた形で構築された。研究1では、手続き的公正が公正認知者の特性自尊心と向集団的態度を高める過程をSEMで検証した。研究2では、権威支持および他成員への支援行動においてモデルを検証し、手続き的公正の集団価値性とその心的過程の差違を明らかにした。また集合自尊心においてモデルを検証し、手続き的公正の自己価値性指標としての有効性と限界を論じた。研究3では、自己価値性指標として新たな自尊感情「関係自尊心」の概念を提出し、関係的存在意義・関係的幸福・社会的自己受容の3下位概念からなる事実をCFAで示した。さらに関係自尊心においてモデルを検証し、手続き的公正が社会的アイデンティティを通じて、関係自己に肯定的影響をおよぼすことを明らかにした。本研究は、手続き的公正研究として集団と個人の結びつきを解明したものであると同時に、自己の2側面である関係自己と集合自己のダイナミズムに関して、社会的自己研究に示唆を与えるものと位置づけられる。
キーワード
手続き的公正、社会的アイデンティティ、自己、自尊心、支援行動