第22巻 第3号 平成19年(2007年)3月 和文要約

表題
幼児の他者視点取得、感情表出の統制、および対人問題解決から予測される幼児の社会的スキルの評価
著者
大対香奈子・松見淳子(関西学院大学)
要約
本研究の目的は、幼児の社会性発達の指標である他者視点取得、感情表出の統制、対人問題解決能力の相互関係と、これらの指標が保育士による社会的スキルの評価を予測するかを明らかにすることである。対象児は3-5歳児クラスに所属する保育園児84名で、課題は個別に人形劇で場面を呈示し実験者の質問に答えさせた。指標は他者視点取得として認知・概念的視点取得と感情的視点取得について測定し、感情表出の統制には展示ルールの課題を用い、対人問題解決では対人葛藤場面を呈示して問題解決方略を尋ねた。結果、3つの指標は先行研究と一致した発達的変化を示した。また感情表出の統制は他者視点取得と対人問題解決の関係を媒介し、対人問題解決能力は社会的スキルの評価を有効に予測することが明らかにされた。これより、幼児期に実施するソーシャルスキルトレーニングには対人問題解決や感情コントロールを促進するような介入が有効であることが示唆された。
キーワード
他者視点取得、感情表出の統制、対人問題解決、社会的スキル、幼児
表題
題目「メールはなぜ「話しやすい」のか?:CMC(Computer-Mediated Communication)における自己呈示効力感の上昇」
著者
杉谷陽子(一橋大学大学院社会学研究科博士課程)
要約
本研究の目的は、メールなどのコンピュータを介したコミュニケーション(Computer-Mediated Communication; CMC)が「話しやすい」と評価される原因を実証的に明らかにすることである。CMCでは、電話や対面による対話に比べ、コミュニケーションの際に伝達される非言語的手がかりが少ない。非言語的手がかりが少ないことによって、発話者の自己呈示効力感が上昇するため、CMCは「話しやすい」と感じられるのだろうと仮説を立てた。この仮説を検討するために2つの実験が行われた。研究1では、自己呈示への動機づけが高まっている場合にのみ、コミュニケーション時に利用できる非言語的手がかりが少ないメディアが、多いメディアよりも「話しやすい」と評価されることが示された。研究2では、非言語的手がかりの量の少なさが「話しやすさ」を生じるプロセスは、自己呈示効力感によって媒介されていることが示された。考察では、メディアの差異の捉え方について今後の課題が論じられた。。
キーワード
コンピュータを介したコミュニケーション(CMC)、非言語的手がかり、電子メール、自己呈示、対人不安
表題
リーダーシップとプロトタイプ性が集団成員のモラールとリーダー知覚に及ぼす効果
著者
高口 央(流通経済大学社会学部)
坂田桐子(広島大学総合科学部)
藤本光平(株式会社STNet)
要約
本研究の目的は、リーダーシップ、およびプロトタイプ性の集団成員への影響が、状況要因によって調整されるかを明らかにすることである。プロトタイプ性は、内外集団のメタコントラスト比を反映する個人間の立場に関する認知として定義される概念であり、集団成員によるリーダーの効果性評価と関連することが報告されている(e.g., Hains et al., 1997)。本研究では、リーダーのプロトタイプ性が集団活動に対して強大な影響力をもつかを検討する。研究1では、大学生のサークル18集団の205名を対象とした調査を実施した。その結果、外集団との競争が活動目標である場合には、プロトタイプ性がモラールを規定することが示された。研究2では、シナリオ想定法を用いてリーダーの指示に対する集団成員の判断基準を検討した。その結果、対立集団との課題状況においてのみ、リーダーのプロトタイプ性が集団成員の判断基準となることが明らかとなった。2つの研究によって、リーダーのプロトタイプ性が集団成員に及ぼす影響は、外集団との対立関係が明確な場合に限定されることが示唆された。
キーワード
プロトタイプ性、リーダーシップ、集団間関係
表題
被害者が示す怒りに対する加害者の認知的・行動的反応を規定する要因
著者
阿部晋吾(関西大学大学院社会学研究科)
高木 修(関西大学社会学部)
要約
本研究では、310名の学生を対象者として、被害の程度および加害者の責任性が、被害者の示した怒りに対する加害者の認知的・行動的反応にどのような影響を及ぼすかについて、場面想定法を用いて検討した。結果より、被害や加害者の責任性の小さい状況での怒り表出は不当と評価され、向社会的でなく、自己満足的な動機によるものとみなされやすく、社会的に望ましくない、個人的にも親しみにくいという印象が形成されやすかった。そしてこれらの影響によって、加害者はより反抗的になり、責任を受容しにくくなることが示唆された。
キーワード
怒り表出、正当性評価、対人葛藤、攻撃行動、被害者‐加害者
表題
テレビ親近感とテレビ視聴行動の関連性について
著者
江利川滋(株式会社TBSテレビ)
山田一成(法政大学社会学部)
川端美樹(目白大学人間社会学部)
沼崎 誠(首都大学東京都市教養学部)
要約
本研究の目的はテレビ親近感尺度(Television Affinity Scale: TAS)を作成し、テレビ視聴との関連を検討することである。首都圏一般サンプル調査(682名、回収率65.0%)のデータを分析した。研究1はTASが十分な信頼性と妥当性を持ち、デモグラフィック要因で直接説明できない情報を持つことを示した。研究2はテレビ親近感と非計画視聴・非専念視聴が正相関することを示した。加えて、娯楽系番組視聴はTAS得点と正相関するが、報道系番組視聴には関連が認められないことも示した。こうした結果は、TASが儀式的視聴と正相関し手段的視聴とは無相関であるというRubin(1984)の知見と整合的である。
キーワード
テレビ親近感尺度、非計画視聴、非専念視聴、儀式的視聴、手段的視聴
表題
青年期の愛着スタイルと友人関係における適応性との関連
著者
金政祐司(相愛大学人文学部)
要約
本研究は、青年期の愛着スタイルと友人関係における自己認知と他者からの認知(親密な友人から回答者への印象)との関連、さらに、青年期の愛着スタイルと友人関係における回答者と友人の自己認知の差異が関係への評価の相違に及ぼす影響について、102組、204名のペアデータを用いて検討を行った。その結果、愛着次元の「親密性回避」は、友人関係における自己認知の良さと全体的に負の関連を示しており、また、同様の結果はペアを組んだ友人による他者からの認知においても見られていた。さらに、「親密性回避」が高くなるほど、本人と友人との間の関係への評価の差異が拡がり、回答者の関係への評価は高まる方向に、友人の関係への評価が低下する方向にシフトすることが示唆された。これらは、愛着次元の「親密性回避」が対人関係における適応性の低さに繋がるものであることを示す結果であった。また、自己認知の「社交性」の側面では、友人と比較して回答者の自己認知が高くなるほど、本人の関係への評価は高まる方向へ、反対に、「魅力性」については、友人の自己認知の方が回答者のものよりも高くなるほど、本人の関係への評価は高まるという結果が得られた。
キーワード
青年期の愛着スタイル、適応性、友人関係、自己認知、他者からの認知
表題
現代小学生の約束概念の発達:状況の考慮をめぐって
著者
山岸明子(順天堂大学医療看護学部)
要約
本研究の目的は、現代の東京の小学生の約束概念(2003年に調査)について分析した山岸(印刷中)の結果を再検討することである。調査は異なった地域―長野で行われ(2004年に調査)、小学校2,4,6年生を対象に,4つの約束場面で,約束を守ることと相反する状況が生じた時に約束を守るか、破棄するかを問う質問紙法の調査を行った。その際「他者の気持」を考慮する傾向と「集団内の義務」を考慮しない傾向を明らかにするために、2つの新しい状況を付け加え、また4,6年生には判断の理由も記述してもらった。その結果1)新しい項目及び以前からの項目のどちらに関しても、以前と同様の傾向が見られた 2)長野でも同様の特徴が見られ、東京だけの特徴ではないことが示された 3)判断の理由を見ると、「他者の気持」を考慮して判断する者が非常に多いこと(特に4年生)、「集団内の義務」に関しては4年生は考慮する者が多い一方、6年生はどちらかを選ぶのではなく柔軟に対処しようとする者が多かった。Kohlberg理論や文脈的相対主義と関連させて考察がなされた。
キーワード
約束、規範意識、他者への配慮、集団の義務、小学生
表題
恋愛関係の相互作用構造と関係安定性の関連:カップルデータへのペアワイズ相関分析の適用
著者
清水裕士・大坊郁夫(大阪大学大学院人間科学研究科)
要約
本研究の主な目的は、1.恋愛関係の相互作用について構造的側面に注目し、関係の安定性との関連について実証的研究を行うこと、2.関係安定性におけるカップルの相互依存性を慎重に取り扱うため、ペアワイズ相関分析をもちいてカップルレベルの効果と個人レベルの効果について比較検討する、の2点であった。恋愛関係にある大学生とそのパートナーに対し質問紙調査を行ったところ59組のカップルから回答を得た。相互作用の構造としてカップルで影響を与える頻度、多様さ、強さを、関係安定性として関係への満足度、コミットメント、継続予期を測定しその関連をペアワイズ相関分析によって分析した。潜在変数モデルにより効果を分割したところカップルレベルにおいては影響の多様性さが、個人レベルにおいては影響の強さがそれぞれ関係安定性と有意に関連していることが明らかにされた。また、影響の強さと多様性の機能の弁別性について議論された。
キーワード
相互作用構造、関係安定性、ペアワイズ相関分析、因果分析、恋愛関係
表題
社会的公正研究の展望:4つのリサーチ・パースペクティブに注目して
著者
林洋一郎(日本学術振興会特別研究員)
要約
本論文は、公正さの主観的側面に焦点を当て、社会的公正研究を展望したものである。筆者は、過去の公正研究と将来の方向性を理解するために4つの主要なパースペクティブが考えられると主張した。a) 公正知覚の基準や要因を明らかにする公正要因研究、b) 公正知覚が個人の反応に及ぼす効果に注目する公正の帰結研究、c) なぜ人々が公正さに敏感になるかを論じる公正動機研究、d) 人々が公正への関心を強める内的・的条件に焦点を向ける公正関心研究という4つのパースペクティブである。筆者は、上記の各パースペクティブに従って種々の理論的そして経験的な研究を展望した。最後に、今後、必要とされる研究方向について議論が加えられた。
キーワード
社会的公正、主観的公正研究 、分配的公正、手続き的公正