第23巻 第1号 平成19年(2007年)8月 和文要約

表題
他者との関係性が刺激呈示中および呈示後期間の表情表出に及ぼす影響
著者
山本恭子 (同志社大学文学研究科)
鈴木直人 (同志社大学文学部)
要約
先行研究は、感情刺激呈示中の笑顔が友人の存在によって促進され、この効果がコミュニケーション欲求によって媒介されることを示唆している。笑顔がコミュニケーション機能を持つなら、他者と共にいる人は、感情刺激呈示中だけでなく呈示後の期間においても、笑顔を生じるのではないかと考えられる。本研究では、ポジティブ感情喚起映像とネガティブ感情喚起映像を、友人のペア、未知のペア、または単独の実験参加者に呈示し、刺激呈示中および呈示後の、笑顔、眉しかめ、パートナーに視線を向ける行動を測定した。笑顔は、未知群や単独群に比べて、友人が存在する場合に促進された。刺激呈示後期間には、友人群や未知群では笑顔が多く生起したが、単独群ではほとんど生じなかった。また、視線の表出も刺激呈示後期間に生起した。友人群や未知群における笑顔や視線の表出は、コミュニケーション機能を反映すると考えられる。
キーワード
表情表出、他者との関係性、刺激呈示期間
表題
日系移住地の小中学校におけるエスニック集団関係
著者
糟谷知香江 (いわき明星大学人文学部)
要約
本論では、ボリビア共和国の小中学校における日系ボリビア人と非日系のボリビア人(1-8年生)の仲間関係を検討する。参与観察、組織的観察、構造化面接、半構造化面接、そして質問紙からなるフィールドワークを1994年から1997年にかけて数度にわたり学校において実施した。本論の中心的データを収集した1997年には55名の日系ボリビア人と109名の非日系ボリビア人が在籍していた。調査から、全ての日系ボリビア人が日本語の授業を受けており、彼らは授業を通じて幾つかの経験を共有していることが明らかになった。それらの経験のなかには日本文化と直接関連を持たないものもあったが、集団内で経験を共有していることは日系人にとって重要な意味を持っていた。日本語の授業を通じての経験は、日系人集団の凝集性を維持し、彼らをボリビア人から分離する傾向があった。換言すれば、それらの経験がエスニック集団間の境界を形成していたといえる。
キーワード
エスニック集団, 仲間関係, 状況的文脈, フィールドワーク, 1-8年生の日系ボリビア人
表題
小集団コミュニケーションにおける話者の叙述パターン
著者
藤本 学・大坊郁夫 (大阪大学大学院人間科学研究科)
要約
本研究は小集団コミュニケーションにおける話者の叙述パターンについて明らかにすることを目的に行われた。既知性や会話状況、話者サイズの異なる2つの実験を行った。まず、実験1では初対面の3人集団に討論および雑談を行わせ、主成分分析を用いたパターン解析により叙述パターンを抽出した。この結果を受け、実験2では集団サイズを5人とし討論に照準した実験を行い、より多様な叙述パターンを特定した。また、これらの叙述パターンと話者の個人特性との間に、特有の関連性が確認された。
 研究1と研究2の叙述パターンに関する違いは、聴き手の有無である。研究1の3人集団ではコミュニケーションを成立させるために、メンバーは積極的に会話に参加しなければならない。一方、話者の人数が多いと、メンバーは受動的に会話に参加することが可能となる。そのため、研究2の5人集団において “聴き手”という叙述パターンが抽出されたものと考えられる。
キーワード
叙述パターン、小集団コミュニケーション、会話空間システム、コミュニケーション・スタイル
表題
関係性が自己卑下的自己呈示に及ぼす効果
著者
石黒 格 (弘前大学人文学部)
村上史朗 (神戸大学大学院文化学研究科)
要約
自己卑下は現在の社会心理学において主要なテーマとなっているが、研究は直ちに自己との関わりを検討することに進み、現象についての記述的知識は十分ではない。本研究は、「どのような関係で自己卑下が行われているのか」について記述的な知見を得ることを目指し、自己卑下的自己呈示を行う者と行われる者との関係性が呈示の生起にもたらす影響を検討した。無作為抽出に基づくネットワーク調査の結果、以下の4つの結果が示された。すなわち、1)配偶者や同僚・仕事関係、親友で自己卑下が少ないのに対して、近所や知人で自己卑下が多い、2)つきあいの長さは自己卑下と単調減少の関係がある、3)心理的親密性と自己卑下には逆U字型の関係がある、4)同僚・仕事関係では地位が低い側が自己卑下し、高い側はしない一方で、親友関係では逆に地位が高い側が自己卑下し、低い側はしていなかった。すなわち、お互いの適切な地位関係を顕在化するように自己卑下が行われていた。
キーワード
自己卑下、自己呈示、関係性、地位
表題
インターネット上の自己評価と現実の自己評価との相互影響過程についての検討:両者のズレと精神的健康との関連の観点から
著者
長谷川孝治 (信州大学人文学部)
宮田加久子 (明治学院大学社会学部)
浦 光博 (広島大学大学院総合科学研究科)
要約
本研究はネット上の自己評価と現実の自己評価との相互影響過程について、両者のズレと精神的健康との関連の観点から検討した。ネット上で育児情報の交換を行う母親を対象に2回のパネル調査が行われ、現実の自己評価(SA)、現実の反映的自己評価(RSA:重要他者からどのように評価されていると思うか)、ネットの反映的自己評価(RSA-N:フォーラム上の重要他者からの反映的自己評価)、抑うつ傾向が測定された。分析の結果、SAとRSA-NのズレはSAとRSAのズレよりも大きく、RSA-NはRSAやSAよりも得点が低かった。しかしながら、抑うつに影響を与えていたのは、SA得点の低さやSAとRSAのズレの大きさのみであった。また、パス解析によってTime 1のSAがTime 2のRSAを規定し、Time 2のRSAとRSA-Nが関連する過程が見いだされた。以上の結果から現実の問題に関連したネット利用によって、現実の自己評価に基づいたネットの自己が形成されることが示唆された。
キーワード
現実の自己評価、現実の反映的自己評価、ネットの反映的自己評価、抑うつ
表題
相手との親密さが内的経験の積極的伝達場面における2種類の透明性の錯覚に及ぼす効果
著者
武田美亜 (東京都立大学大学院人文科学研究科)
沼崎 誠 (首都大学東京都市教養学部)
要約
相手との親密さが、対人場面における2種類の透明性の錯覚に及ぼす影響について、人が他者に自分の内的経験を伝えようとする場面を用いて検討した。2つの透明性の錯覚とは、自分の意図が正しく伝わったと過大に推測する“送り手の透明性の錯覚”と、相手の意図を自分は正しく読み取ったと過大に推測する“受け手の透明性の錯覚“である。2つの研究で、送り手は4つのうち1つの意図を最もよく伝えるように、5つの絵柄のうち1つを選んだ。そして受け手が意図を正しく当てることができるかどうかを推測した。受け手は絵柄を見て送り手が送ってきた意図を判断し、自分自身が送り手の意図を正しく読み取れているかどうかを推測した。結果、2種類の透明性の錯覚が見いだされ、その錯覚は親密でない関係よりも親密な関係において大きかった。視聴者デザインとの一致に関する効果は見出されなかった。最後に、対人関係に与える示唆について考察した。
キーワード
親密さ、透明性の錯覚、非対称な洞察の錯覚、意図
表題
インタビューにおける語りの関係性:エコツアーの参加観察
著者
文野 洋 (東京都立大学人文学部)
要約
本研究の目的は、エコツアーの参加者によるツアー体験の語りを、その文脈とともにとらえるために、調査者とエコツアー参加者が共同で達成するインタビューの語りの関係性の特徴を検討することである。エコツアーの参加観察において実施したインタビューを、相互行為の視点から記述した。その結果、調査者とツアー参加者は「質問者-回答者」「ツアー体験者どうし」という関係性を達成していた。2つの関係性は、語りの様式(語りの主体、語りに生じる制約、語りへの応答様式)の点で異なり、共成員性の可視化とともに移行していた。また、2つの関係性の中間に「体験を語り=聞く」関係性を位置づけた。さらに、インタビューの語りの関係性を、やまだ(2004)の提示した語りの関係性「対面関係」「並ぶ関係」と対応づけて整理した。以上の知見から、インタビュー技法の研究に対する意義や、エコツアーの共同語りの研究の可能性について論じた。
キーワード
インタビュー、語り、関係性、参加観察、環境教育
表題
若年層の社会化過程における携帯メール利用の効果:パーソナル・ネットワークの同質性・異質性と寛容性に注目して
著者
小林哲郎 (東京大学大学院人文社会系研究科・日本学術振興会)
池田謙一 (東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
携帯メール利用が他者に対する寛容性に及ぼす効果について、社会化過程にある若年層(高校生)を対象に検討した。その結果、携帯メール利用はパーソナル・ネットワークの同質性を高め異質性を低める効果を媒介することで、寛容性に対してネガティブな効果を持つことが明らかになった。携帯メール利用は、コミュニケーションの相手の選択性を高める一方、短いメールのやり取りが可能な同質性の高い他者とのやり取りを志向し、結果的に二者関係というマイクロなパーソナル・ネットワークの同質性を高める効果を持つ可能性が示唆された。また、このことが同時に異質な他者との相互作用の機会を減少させ、社会化過程における他者に対する寛容性の涵養が阻害される可能性が指摘された。若年層における主要なインターネット利用となっている携帯メールの利用が、民主主義的社会システムを支える社会性の醸成に与えるインパクトについて継続的に検討を行っていくことが重要であると考えられる。
キーワード
携帯メール,寛容性,パーソナル・ネットワーク,同質性・異質性,社会化
表題
ソーシャルスキル不足と抑うつ・孤独感・対人不安の関連:脆弱性モデルの再検討
著者
相川 充 (東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科)
藤田正美 (東京都北区立王子小学校)
田中健吾 (大阪経済大学経営学部)
要約
本研究は、Segrin(1996)が提唱したソーシャルスキルに関する脆弱性モデルを、Segrin(1996, 1999)の研究に修正を加えて、日本人大学生を対象に、再検討を試みたものである。脆弱性モデルに従って、ソーシャルスキル不足は、抑うつ・孤独感・対人不安の原因でも結果でもなく、ネガティブライフイベント(NLE)との交互作用でのみ抑うつ・孤独感・対人不安を規定すると仮定した。大学生のソーシャルスキルと抑うつ・孤独感・対人不安の程度を3ヶ月間隔で3回継時的に測定して、全てに回答していた253名を対象に重回帰分析を行った。その結果、ソーシャルスキル不足とNLEとの交互作用は、部分的には有意であったが、ソーシャルスキル不足は、単独でも抑うつ・孤独感・対人不安を予測しており、脆弱性モデルを立証したとは言い難い結果であった。このような結果に対して、脆弱性モデルは、Segrin(1996, 1999)に準じた重回帰分析を用いたやり方では検証できないのではないかと考察した。また、抑うつ、孤独感、対人不安を一括して同じモデルで扱うことの是非についても論じた。
キーワード
ソーシャルスキル、脆弱性モデル、抑うつ、孤独感、対人不安
表題
意思決定における後悔:現状維持が後悔を生むとき
著者
道家瑠見子・村田 光二 (一橋大学大学院社会学研究科)
要約
現状の選択を維持した方が現状を変更するよりも後悔が弱いこと(現状維持効果)が、意思決定研究では知られている。しかし、近年の研究では、先行経験がネガティブな場合には、次の機会に選択を変更した方がむしろ後悔が弱いこと(現状変更効果)も認められた。本研究では、この2つの効果が生じる条件を新しいシナリオを用いて追試した。実験1では、先行経験の感情価(ポジティブ、ネガティブ)を操作し、意思決定者の後悔を参加者に推測させた。予測通り、ポジティブ先行経験条件では現状維持効果が生じ、ネガティブ先行経験条件では現状変更効果が生じた。実験2では意思決定者の責任の程度を操作した。その結果、現状変更効果が意思決定者の責任が重い条件で強く見られることが示唆された。考察では本研究の問題点と現状変更効果が後悔研究に対してもつ意味について議論した。
キーワード
後悔、意思決定、現状維持効果、現状変更効果、責任