第23巻 第2号 平成19年(2007年)11月 和文要約

表題
自己への脅威が女性に対する偏見に及ぼす効果:両面価値的性差別理論からの検討
著者
高林久美子 (一橋大学大学院社会学研究科)
要約
両面価値的性差別理論(Glick & Fiske, 1996)は、女性に対する偏見には非伝統的な女性に対する敵意的性差別と伝統的な女性に対する慈悲的性差別という2つの形態があることを指摘した。本研究では、自己への脅威が敵意的偏見と慈悲的偏見の表出に及ぼす効果について検討した。実験1では、自己に脅威がある場合には、ない場合に比べてキャリア女性はあたたかさの次元で低く評価され、それは特に日頃から敵意的偏見の強い人において顕著に見られるだろうと仮説を立て実験を実施した。その結果、仮説は概ね支持された。実験2では、自己に脅威がある場合には、ない場合に比べて家庭志向女性はあたたかく、無能であると評価され、それは特に日頃から慈悲的偏見の強い人において顕著に見られるだろうと仮説を立て検討した。しかし、予測に反して、普段から伝統的な女性に対して慈悲的偏見の弱い人が、脅威があるときに家庭志向女性に対して敵意的な態度を表出していた。以上の結果から、現代の人々のジェンダーに対する偏見の表出の仕方が多様化してきている可能性などについて考察された。
キーワード
両面価値的性差別、慈悲的性差別、敵意的性差別、ジェンダーステレオタイプ、自己肯定化
表題
態度と行動の共有が自己卑下的自己呈示に及ぼす効果
著者
石黒 格 (弘前大学人文学部)
村上史朗 (神戸大学大学院文化学研究科)
要約
「規範の共有」は自己卑下研究において重要な鍵概念であるが、直接的に共有を操作化し、検討した研究は少ない。本研究は、態度レベルと行動レベルで自己卑下の共有を変数化し、回答者の自己卑下についての態度と行動への効果を検討した。共有はパーソナル・ネットワークにおける共有と、社会システムにおける共有の2つのレベルで変数化した。12の自治体において無作為抽出調査を行った結果、1)回答者のパーソナル・ネットワークにおいて自己卑下の望ましさが共有されているほど、2)自己卑下が行動として示されているほど、回答者が自己卑下を行う傾向があることが示された。また、3)回答者の所属する自治体で自己卑下を行っている人が多いほど、回答者も自己卑下することが示された。回答者の自己卑下についての態度に対する、ネットワークにおける共有の効果も確認された。ネットワークにおける共有と、システムにおける共有が自己卑下的自己呈示において果たす役割についても議論した。
キーワード
自己卑下、自己呈示、規範の共有、ネットワーク変数、システム変数
表題
自然災害のリスク関連行動における状況依存型決定と目標志向型決定の2重プロセス
著者
大友章司 (名古屋大学大学院環境学研究科)
広瀬幸雄 (名古屋大学大学院環境学研究科)
要約
本研究は、自然災害のリスク関連行動における時間的トラップの側面が引き起こす、リスクを回避しようとする意識と行動の乖離の問題を2重プロセスモデルにより検討した。本研究の2重プロセスモデルでは、社会・環境的要因の影響によりリスク行動を許容する状況依存型決定と、個人の合理的判断に基づきリスク回避行動と取ろうとする目標志向型決定の2つのプロセスを仮定した。この仮説モデルの妥当性を検討するため、地震災害のリスク回避行動を対象に大学生239名に質問紙調査を実施した。その結果、状況依存型決定の要因として、リスク行動に関するイメージと記述的規範が確認された。一方、目標志向型決定の要因として、リスク認知、防災意識、命令的規範が確認された。さらに、目標志向型決定のリスクを回避しようとする決定よりも、状況依存型決定のリスクを許容する決定の影響力が強ければ、自然災害のリスク回避行動に至らないプロセスがあることが示唆された。
キーワード
記述的規範、命令的規範、計画的行動理論、プロトタイプモデル、リスク回避行動
表題
大学生における友人関係の親密性と対人ストレス過程との関連性の検証
著者
加藤 司 (日本学術振興会特別研究員)
要約
本研究の主な目的は、ストレス過程において、コーピングの主体者とストレスフルなイベントを喚起させた相手との関係が果たす役割を検証することである。大学生690名を対象に、コーピングの主体者とストレスフルなイベントを喚起させた相手との対人関係(親密性、類似性、自己開示、役割行動期待)、対人ストレスコーピング、ストレス反応などを調査した。その結果、当事者間の関係によって、対人ストレスコーピングの選択が異なること、対人ストレスコーピングがストレス反応に及ぼす影響が異なることが明らかになった。例えば、両者の関係がより親密であるほど、ポジティブ関係コーピングの使用頻度が高く、ネガティブ関係コーピング、解決先送りコーピングの使用頻度が低いことなどである。本結果は、対人ストレス過程において、当事者間の関係性が重要であることを示唆している。
キーワード
ストレス、コーピング、対人関係、親密な関係
表題
沖縄の講集団にみる交換の生成
著者
辻本昌弘 (東北大学大学院文学研究科)
國吉美也子 (神戸大学大学院文化学研究科)
與久田巌 (琉球大学法文学部)
要約
地域社会で培われてきた資源交換組織を検討するために、講集団の事例研究を行った。講集団では、参加者たちが定期的に資源を出資してファンドをつくり、そのファンドを各参加者が順番に受領していく。沖縄諸島でのフィールド調査から、以下の講集団の特徴を指摘した。(1) ただ乗りを防ぐために、お互いを熟知する面識関係により参加者を選抜する。(2) ひるがえって、講集団を行うことが面識関係の強化につながる。これらふたつの特徴が結び付くことにより交換の維持・発展が可能になっている。また、参加者の生活史を提示して、講集団が行われる歴史的文脈を検討した。
キーワード
経済的講集団、資源交換、協力、生活史
表題
他者の摂食量に関する情報が摂食行動に及ぼす影響:摂食量を実験者に知られない状況下での検討
著者
山﨑真理子 (同志社大学文学研究科)
水野邦夫 (聖泉大学人間学部)
青山謙二郎 (同志社大学文学部)
要約
食行動に対するモデルの効果とは、モデルが多く食べるほど実験参加者も多く食べることである。Herman, Polivy, & Roth(2003)は、他者から食べ過ぎだと思われないように、人は自分の摂食量を他者に合わせると考えた。本実験では、誰にも摂食量を知られないと実験参加者が思うような状況を設定するため、通常のモデルを用いなかった。その代わりに偽の食べ残しを、味覚評定を行う前に実験参加者に示した。この食べ残し(多い/少ない条件)は実験参加者に、他の実験参加者がどのくらい食べたかを知らせるために用意した。ある条件では実験参加者に、彼らの摂食量を実験者に知られないだろうと思い込ませ、別の条件では実験者に知られるだろうと思い込ませた。前者の条件では、実験参加者が実験者に食べ過ぎだと思われることはないため、他の実験参加者がどれだけ食べようが実験参加者は好きなだけ食べるはずである。しかし予想に反し、どちらの条件でもモデルの効果が見られた。
キーワード
食行動、モデルの効果、リモートモデル
表題
Holistic attention to context in Japan:A test with non-student adults
著者
石井敬子 (北海道大学)
北山 忍 (ミシガン大学)
要約
主に大学生を参加者として行われてきたこれまでの文化心理学の研究によると、日本人は、対象のみならずその文脈情報に対しても包括的に注意を向けやすい。本研究では、この傾向が果たして大学生ではない一般社会人においても追認されるのかどうかを検討した。実験には、22歳から78歳までの59人の日本人が参加した。参加者は、まず、感情的発話を聞き、その語調の快・不快を無視し、その意味の快・不快を判断する課題を行った。次に、線と枠の図形を見た後に、枠を無視しその線の長さを正しく再生する課題と、最初の図形の枠の大きさに対する線の長さと同じ割合になるように線を引く課題を行った。いずれの課題においても、過去の知見を追試し、参加者は感情的発話の判断において相対的により語調に影響されやすく、また枠の大きさを無視して正しい線の長さを再生することが困難であった。さらに重要なことに、このような傾向は参加者の年齢にかかわらず生じていた。
キーワード
holistic attention, non-student Japanese adults, vocal Stroop task, framed line test, aging
表題
感情的評価を条件づけられた態度対象に対する自動的評価の文脈依存性
著者
林 幹也 (松山東雲女子大学人文科学部)
要約
好き嫌いの学習手続きである評価的条件づけにおいて、学習時とテスト時の文脈手がかりが、テスト時における評価の喚起に対して及ぼす影響を検討するために、実験(N=32)を行った。学習時には、ある1色の背景色を持つ無意味図形に対してポジティヴ特性語が対呈示された。他方で、その無意味図形がその背景色を伴わずに呈示されたときは、対呈示は行われなかった。テスト時の感情プライミング手続きでは、その図形をプライムとして用いた。その背景色を持った図形をプライムとして呈示した直後のポジティヴターゲット語に対する反応時間は、その背景色を持たない図形をプライムとして呈示した直後のそれに比べて有意に短かった。以上の結果から、学習された態度対象に対する自動的評価は、学習時に呈示されていた文脈に依存することが議論された。
キーワード
評価的条件づけ、態度形成、自動的評価、感情プライミング
表題
恐怖管理理論に基づく性役割ステレオタイプ活性の促進要因の検討
著者
野寺 綾 (名古屋大学大学院環境学研究科)
唐沢かおり (名古屋大学大学院環境学研究科)
沼崎 誠 (首都大学東京人文科学研究科)
高林久美子 (一橋大学大学院社会学研究科)
要約
両面価値的性差別理論(Glick & Fiske, 1996)は、女性に対する偏見には非伝統的な女性に対する敵意的性差別と伝統的な女性に対する慈悲的性差別という2つの形態があることを指摘した。本研究では、自己への脅威が敵意的偏見と慈悲的偏見の表出に及ぼす効果について検討した。実験1では、自己に脅威がある場合には、ない場合に比べてキャリア女性はあたたかさの次元で低く評価され、それは特に日頃から敵意的偏見の強い人において顕著に見られるだろうと仮説を立て実験を実施した。その結果、仮説は概ね支持された。実験2では、自己に脅威がある場合には、ない場合に比べて家庭志向女性はあたたかく、無能であると評価され、それは特に日頃から慈悲的偏見の強い人において顕著に見られるだろうと仮説を立て検討した。しかし、予測に反して、普段から伝統的な女性に対して慈悲的偏見の弱い人が、脅威があるときに家庭志向女性に対して敵意的な態度を表出していた。以上の結果から、現代の人々のジェンダーに対する偏見の表出の仕方が多様化してきている可能性などについて考察された。
キーワード
ステレオタイプ活性、恐怖管理理論、システム正当化、性役割、潜在連合テスト