第23巻 第3号 平成20年(2008年)2月 和文要約
- 表題
- 家庭防災と地域防災の行動意図の規定因に関する研究
- 著者
- 元吉忠寛(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
髙尾堅司(川崎医療福祉大学医療福祉学部)
池田三郎(防災科学技術研究所)
- 要約
- 本研究では、家庭と地域防災への行動意図の規定因を検討するために、名古屋市周辺の住民(N=849)を対象とした質問紙調査を行った。質問紙では、防災に対する態度、水害リスク認知、地震リスク認知、地域に対する愛着、社会考慮について回答を求めた。家庭防災、地域防災のいずれに対しても、主観的規範、防災行動に対するベネフィット認知、災害に対する関心が正の影響を与えていた。また、地域への愛着や社会考慮は、地域防災の行動意図を高める要因であることが明らかになった。また、リスク認知と防災行動意図には弱い関連しか確認されなかった。
- キーワード
- 自然災害、リスク認知、恐怖感、態度、災害マネジメント
- 表題
- 被開示者の受容・拒絶が開示者に与える心理的影響:開示者・被開示者の親密性と開示者の自尊心を踏まえて
- 著者
- 川西千弘(京都光華女子大学)
- 要約
- 本研究の目的は、否定的内容を自己開示したとき、被開示者の受容或いは拒絶が開示者に与える心理的効果について、開示者と被開示者の親密性や開示者の自尊心をふまえ、多角的視点から明らかにすることである。女子大学生134名に対し、場面想定法による質問紙調査を行い、以下の結果を得た。
(1)被開示者から受容されるほうが拒絶されるより開示者の心理状態はポジティブであった。
(2)「印象悪化懸念」など多くの次元で受容・拒絶にかかわらず、被開示者が親友のほうが顔見知り程度の友人よりも開示者の心理状態がポジティブであったが、開示直後からの変化量をみると親友から拒絶されるほうが顔見知り程度の友人に拒絶されるより精神的ダメージが大きかった。
(3)「自信喪失」や「今後の信頼関係」など一部の項目で、受容・拒絶にかかわらず自尊心の低い人は高い人よりもネガティブな心理状態にとどまりやすいことが示された。
- キーワード
- 否定的内容の自己開示、被開示者の受容・拒絶、親密性、自尊心
- 表題
- 人はなぜ知識共有コミュニティに参加するのか:質問行動と回答行動の分析
- 著者
- 三浦麻子(神戸学院大学)
川浦康至(東京経済大学)
- 要約
- 本研究は、無数かつ無報酬の参加者によって成立するウェブ上のQ&A型知識共有コミュニティに焦点を当て、そこで展開されている対人コミュニケーションのありようを、質問行動と回答行動を通じて探索的に明らかにする。日本の代表的なQ&Aコミュニティの1つである「Yahoo! 知恵袋」参加者7,989名に質問紙調査を実施した。合わせて彼らの質問・回答行動の履歴データを収集し、両者を対応づけた。質問・回答行動とその動機に関わる要因を検討した結果、参加スタイルや質問内容、性別による差異が見いだされた。同時に、こうしたQ&Aコミュニティ内で活発に情報の交換や蓄積がなされている現状と、それを支える参加者の積極的な情報獲得欲求とそれに対するサポートという相互過程が明らかになった。
- キーワード
- 知識共有コミュニティ、集合知、対人コミュニケーション、ウェブ調査
- 表題
- 不思議現象に対する態度:態度構造の分析および類型化
- 著者
- 小城英子(聖心女子大学文学部)
坂田浩之・川上正浩(大阪樟蔭女子大学人間科学部)
- 要約
- 本研究では、不思議現象に対して、信奉行動だけでなく、認知や感情も含めた包括的な態度を測定する尺度を作成し、態度構造を分析することを目的として、大学生699名を対象に質問紙調査を行った。因子分析の結果、不思議現象に対する態度は「占い・呪術嗜好性」、「スピリチュアリティ信奉」、「娯楽的享受」、「懐疑」、「恐怖」、「霊体験」の6因子構造であることが認められた。他の個人特性との相関関係から、尺度の妥当性が確認された。態度尺度の得点パターンによってクラスタ分析を行ったところ、回答者は「一般的信奉層」、「不思議現象信奉層」、「懐疑層」、「娯楽的享受層」の4群に分類された。
- キーワード
- 不思議現象、信奉、態度、尺度構成、類型化
- 表題
- リスク管理機関への信頼:SVSモデルと伝統的信頼モデルの統合
- 著者
- 中谷内 一也(帝塚山大学心理福祉学部)
George Cvetkovich (Western Washington University)
- 要約
- リスク管理機関に対する人びとの信頼が、そのリスクをもたらす科学技術の受容/拒否判断に強く影響する。本研究では、信頼についてのSVSモデルと伝統的なモデルとを統合し、何がリスク管理機関への信頼を規定するのか検討した。首都圏在住の1,000人をサンプルとする質問紙調査を実施し、遺伝子組み換え作物である花粉症緩和米の許認可権限を持つ省庁への信頼を調べた。分析の結果、花粉症緩和米への関心が高いグループでは、決定結果に示される道義的意味が信頼の強い規定因となることが示された。また、SVSモデルが予測するように、自分と責任省庁との価値が同じものであるとの認知も信頼に強い影響を与えていた。一方、関心の低いグループでは、伝統的な信頼モデルが予測するように、手続き的な公正や能力についての認知が信頼を説明した。これらの結果についての理論的解釈を行った上で、リスクマネジメントの現場にもたらすインプリケーションを議論した。。
- キーワード
- リスク、信頼、価値、公正、科学技術
- 表題
- 会話セッションの進展に伴う発話の変化:Verbal Response Modesの観点から
- 著者
- 小川一美(愛知淑徳大学コミュニケーション学部コミュニケーション心理学科)
- 要約
- 会話セッションの進展に伴う初対面の2人の会話行動の変化を、Verbal Response Modes(VRM: Stiles, 1992など)の発話カテゴリーに属する発話量の観点から数量的に検討した。1週間隔で3回、初対面の女性大学生18ペアに10分間の会話セッションに参加してもらい、VRMの発話カテゴリーに全発話を分類し、出現頻度と出現時間を測定した。分析の結果、会話セッションが進展すると内面的自己開示が多く行われること、初対面時は2回目以降のセッションよりも質問や客観的情報の伝達が多いことなどが示された。また、一方の発話の後に相手がどのような発話を返すかといった時系列的分析では、セッションが進展すると「開示→開示」パターンが多く出現することなども実証された。さらに、2人の発話量の相関分析でも、不確実性低減理論(Berger & Calabrese, 1975)に関連する様々な結果が示された。最後に、セッションごとの発話量と印象の関係についても検討し、発話量の変化とあわせて総合的に考察した。
- キーワード
- 発話量、Verbal Response Modes、印象、親密化過程、不確実性低減理論
- 表題
- 喪失に対する意味了解と生活・人生志向対処が遺族の精神的健康に及ぼす影響
- 著者
- 坂口幸弘(関西福祉科学大学健康福祉学部)
- 要約
- 死別後の心理プロセスとして、遺族は喪失を解釈し、理知的、認知的に受容しなければならない、すなわち意味了解しなければならないとされる。本研究の目的は、喪失に対する意味了解と生活・人生志向対処との関係とそれらが精神的健康に及ぼす影響について検討することである。研究1では、遺族144名を対象に喪失に対する意味了解を評価し、関連する要因について検討した。研究2では、遺族88名を対象に縦断的研究を行った。その結果、過去の精神的健康状態を統制した上で、喪失に対する意味了解と生活・人生志向対処はそれぞれ精神的健康に影響を及ぼすことが示された。喪失に対する意味了解と生活・人生志向対処との間に有意な関係は見られなかった。これらの知見は、喪失に対する意味了解は遺族の心理プロセスにおいて重要な役割を果たすことを示唆する一方で、生活・人生志向対処を含む他のプロセスが存在することを示唆するものである。
本研究の目的は、喪失に対する意味了解と生活・人生志向対処との関係とそれらが精神的健康に及ぼす影響について検討することである。研究1では、喪失に対する意味了解が故人享年や死への心の準備、ソーシャルサポートと関係することが示された。88名の遺族を対象とした縦断的研究(研究2)を行った。結果として、過去の精神的健康の状態を統制した状況で、喪失に対する意味了解と生活・人生志向対処はそれぞれ精神的健康に影響を及ぼすことが示された。喪失に対する意味了解と生活・人生志向対処との間に有意な関係は見られなかった。これらの知見は、喪失に対する意味了解は遺族の心理プロセスにおいて重要な役割を果たすことを示唆する一方で、生活・人生志向対処を含む他のプロセスが存在することを示唆するものである。
- キーワード
- 遺族の心理プロセス、喪失に対する意味了解、生活・人生志向対処、精神的健康、遺族ケア
- 表題
- 会話者のコミュニケーション参与スタイルを指し示すCOMPASS
- 著者
- 藤本 学(久留米大学文学部)
- 要約
- 本研究は、コミュニケーション・スタイルを“普段どのようにコミュニケーションに参与しているのか”という参与傾向として定義した“コミュニケーション参与スタイル”について検討したものである。日常における小集団コミュニケーションにおける会話者の行動傾向について調査することで、会話マネージメント、能動的参与、受動的参与、消極的参与という4因子を特定し、それらを測定する“COMPASS(communication participation style scale)”という尺度を作成した。能動的参与と受動的参与は主張性と反応性と関連したコミュニケーションの基本的な因子である。残る2因子はどちらも小集団コミュニケーションにおいて重要な機能を示すものであり、会話マネージメントは会話の展開を操作するメタ会話に関係し、消極的参与は聞き手を傾聴者と傍聴者に弁別することを可能とする。これらの参与スタイルはそれぞれの特徴に対応した個人の諸特性と有意な関連性を示した。
- キーワード
- コミュニケーション参与スタイル、COMPASS、参与枠組