第24巻 第1号 平成20年(2008年)8月 和文要約

表題
中高年女性のボランティア開始後のライフコースとネガティブ・イベントへの対処
著者
大坂紘子 (東北大学大学院文学研究科)
要約
本研究では、中高年女性のボランティア開始後のライフコースの特徴的パターンと、ネガティブ・イベントにボランティアが対処する際に援助者ネットワークと援助-被援助関係が果たす機能を分析した。ボランティアに対する参与観察と21名の面接調査から得られた結果は以下の通りである。(1)中高年女性のライフコースにおいてボランティア活動が職業以外の家庭外役割を獲得させる。(2)ネガティブ・イベント対処には、援助-被援助関係で問題が生じた場合は援助者ネットワークからのサポートが、援助者関係で問題が生じた場合は援助-被援助関係が補助的に働くことが示唆された。
キーワード
中高年女性、ライフコース、ボランティア活動、地域社会
表題
恋人関係における自己呈示は自己確証的か自己高揚的か
著者
谷口淳一 (大阪国際大学人間科学部)
大坊郁夫 (大阪大学大学院人間科学研究科)
要約
本研究では、自己認知、恋人から望む評価、恋人からの評価の推測の相互関係を検討することで、恋人関係における自己呈示が自己確証的か自己高揚的かについて明らかにしようと試みた。回答者は恋人関係にある156名(男性60名、女性96名)だった。結果、1)恋人からは自己認知よりもポジティブな自己高揚的な評価を求めている、2)恋人から自己認知よりもポジティブな自己高揚的な評価を得ていると推測しており、その評価を正確であると認知している、3)恋人に対して「情熱」を感じているほど、関係にとって重要な領域において自己高揚的な評価を恋人に求める、4)恋人に対して「親密性」を感じているほど恋人から自己高揚的な評価を得ていると推測しており、関係にとって重要な領域においては、その評価を正確であると認知していることがわかった。本研究の結果は、戦略的自己確証モデル(Bosson & Swann, 2001)を支持する結果であり、恋人関係においては自己確証動機も自己高揚動機も働いていることが示された。
キーワード
自己呈示、恋人関係、自己確証、自己高揚、愛情の三角理論
表題
リスクメッセージの心理的公正基準:管理者への手続き的公正査定における事実性と配慮性
著者
竹西亜古 (甲子園大学)
竹西正典 (京都光華女子大学)
福井 誠・金川智恵 (甲子園大学)
吉野絹子 (神戸学院大学)
要約
本研究は、リスクコミュニケーションの一方の当事者である市民が、リスクメッセージを通じて送り手であるリスク管理者の手続き的公正を査定するとの視点に立ち、その査定基準を明らかにすることを目的とする。リスクメッセージに示された管理者の姿勢・意図を受け手が評価する枠組として「事実性」と「配慮性」の2つを仮定し、これらがメッセージ全体から得られる手続き的公正感に影響する過程をモデル化し検討した。さらに、モデルをリスクコミュニケーション事態の特性との関連で検討するため、原発構造リスクと食品添加物リスクに関するメッセージを用いた。無作為抽出された有権者を対象とした調査データ(N=408)を用いて構造方程式モデリングを実行した結果、いずれのリスク事態でも適合が認められた。事実性は、情報の正確さ・情報の開示度・隠蔽感のなさの3成分からなる構造が、配慮性は、説明の平明さ・受け手の尊重・発言機会の3成分構造が示され、さらに事実性と配慮性はともに手続き的公正感に寄与することが明らかになった。解析時に加えられた若干の改変からモデル拡張の必要性は示唆されるが、事実性・配慮性が3成分構造をもち、手続き的公正査定の基準として機能することは、リスク事態の特性を超えて一般化しうるといえる。本研究の結果は、リスクコミュニケーションの開始期に事実性・配慮性を満たす公正なリスクメッセージを呈示することが、その後の当事者間の相互作用を方向付けることを示唆する。
キーワード
リスクコミュニケーション、手続き的公正、構造方程式モデリング、リスクメッセージ、心理的公正
表題
犯罪リスク認知に関する一般人-専門家間比較:学生と警察官の犯罪発生頻度評価
著者
中谷内一也 (帝塚山大学心理福祉学部)
島田貴仁 (警察庁科学警察研究所)
要約
本研究の目的は一般人と専門家との間で犯罪リスク認知の比較を行うことであった。プロスペクト理論における重みづけ関数から、一般人のリスク認知に関する仮説が演繹された。すなわち、一般人は社会統計では発生頻度の低い犯罪の発生件数を過大に評価し、発生頻度のより高い犯罪を過小に評価すると予測された。一方、専門家は各犯罪について、統計に即した推定を行うと予測された。160人の大学生と259人の警察官が調査に参加し、18種の罪種について年間発生件数を推定した。結果は仮説を支持するものであり、一般人はめったに起こらない身体犯罪を過大視し、頻繁に起こる財産犯罪を過小評価していることが明らかにされた。これらの結果に基づき、専門家から一般人に防犯に関するメッセージを送る際のインプリケーションについて議論した。
キーワード
犯罪、リスク認知、犯罪不安、重みづけ関数
表題
金銭と時間に関する余裕の見積もりと楽観性との関連
著者
小松さくら・大渕憲一 (東北大学大学院文学研究科)
要約
本研究の目的は、日本人においても将来の時間的余裕を金銭的余裕よりも大きく見積もるのか、また将来の余裕見積もりが楽観性という人格要因と関連するかどうかを検討することである。その結果、アメリカ人と同様に日本人の間でも、将来の余裕を大きく見積もる現象が金銭と時間の両方でみられ、かつ時間的余裕の方が大きく見積もられていた。しかし我々の仮説とは異なり、これら余裕見積もりと楽観性との間に関連性はみられなかった。金銭と時間の余裕見積もり間に低い相関しかみられなかったことは、将来の資源余裕の見積もりに関して一貫した傾向がないことを示唆している。
キーワード
将来の余裕、金銭、時間、楽観性
表題
目標フレーミングが感情情報の自動的な処理に与える影響
著者
竹橋洋毅・唐沢かおり (名古屋大学大学院環境学研究科)
要約
制御焦点理論(Higgins, 1997)に基づいて、本研究は、目標フレーミングが主観的な感情と感情情報の自動的な処理に与える影響について検討した。目標フレーミングの操作(促進焦点vs.防衛焦点)の後に、32人の参加者は、主観的な感情について評定し、修正ストループ課題を行うように求められた。その結果、目標フレーミングは主観的な感情には影響しなかったが、ストループ課題における色呼称の速さには影響した。即ち、防衛条件では利得関連語(快活と落胆)よりも損失関連語(沈静と動揺)に対して反応が遅延したが、促進条件では利得関連語と損失関連語の間で反応遅延に有意差は見られなかった。これらの結果は、目標フレーミングが特定の感情次元の活性を高め、その活性がストループ課題の遂行量に自動的に影響したことを示唆する。最後に、感情情報の自動的な処理が主観的な感情体験や自己制御過程に与える影響について議論された。
キーワード
目標フレーミング、自動的処理、感情、接近、回避
表題
消費者の認知に基づいたブランドエクイティの構造分析
著者
前田洋光 (関西大学大学院社会学研究科)
要約
本研究では、これまで多様なアプローチがなされているブランドエクイティを消費者の認知的側面から捉えなおし、「企業が行った過去のブランドマーケティングによって、消費者が当該ブランドに対して知覚する価値の集合」と定義した上で、その構造を検討することを目的とした。大学生274名に対して、お茶飲料・シャンプー・パソコンの製品カテゴリーを対象に調査を実施した結果、ブランドエクイティは「1次的価値(ブランドが、製品として本来備えておくべき品質的価値)」および「2次的価値(製品の品質や機能を超えた付加価値)」から構成されることが明らかとなった。さらに、“消費者が企業ブランドに対して知覚する価値(例えば企業への信頼感)”は、ブランドエクイティを直接的あるいは間接的に高める要因となり、また、消費者がブランドエクイティを知覚した結果、“消費者とブランドとの関係性”が生じ、その“関係性”は、ブランドエクイティの構成要素である「2次的価値」を高めるといった循環の見られる、ブランドエクイティモデルが見出された。以上の結果をもとに、本モデルの妥当性について論考を加えた。
キーワード
ブランドエクイティ、1次的価値、2次的価値、企業ブランドエクイティ、消費者とブランドの関係性