第24巻 第2号 平成20年(2008年)11月 和文要約

表題
鉄道事業者に対する社会的信頼の規定因:共分散構造分析を用いたモデルの構成
著者
山﨑瑞紀・高木 彩 ((独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター)
池田謙一 (東京大学大学院人文社会系研究科)
堀井秀之 (東京大学大学院工学系研究科)
要約
本研究では、リスク管理を行なう組織のなかでも「鉄道事業者」の社会的信頼を取り上げ、その規定因を検討した。先行研究を参考に、信頼に影響を及ぼす過程として大きく3つの流れを想定するモデルを設定し、首都圏在住者(有効回答N=1,081)を対象に質問紙調査を実施した。結果として、信頼の高さの異なる3事業者すべてにおいてモデルとデータの適合度は高く、(1)「監視機能」や「安全対策」といったハード、ソフト両面での認知に基づいて人々が信頼を評価する過程、(2)企業価値に基づき信頼を評価する過程、(3)親近感といった感情的側面から信頼を評価する過程、を想定するモデルの妥当性が支持された。これにより、監視システムの明示化や、安全対策を実施するとともに、実施に関する人々の認知を高めること、業績以外にも環境問題などで広く社会に貢献し社会的価値を高めること、親近感を高めること等が、組織の社会的信頼の形成や維持をもたらす可能性が示唆された。
キーワード
信頼、リスク、交通安全、企業、共分散構造分析
表題
地域コミュニティ保守行動に関する進化論的検討:階層淘汰論に基づく利他的行動の創発に関する理論的分析
著者
羽鳥剛史・藤井 聡(東京工業大学大学院理工学研究科)
要約
地域コミュニティにおける少数の利他的行動者の存在が、当該地域の存続に本質的な影響を及ぼすという状況は、ボランティア・ジレンマ問題として記述される。本研究では、進化理論における階層淘汰の考え方を用いて、利他的行動の発生メカニズムをモデル化し、ボランティア・ジレンマ状況において、地域コミュニティの存続を支える利他的行動者が生ずるための社会的条件を理論的に検討した。その際、異なる集団間の集団淘汰と集団内部の個人淘汰を同時に考慮した動学的モデルを構築し、そのモデルを解析的に解く事を通じて、利他的行動が創発する条件についての検討を行った。その結果、利他的行動の創発において、集団淘汰の存在が重要な役割を担いうる可能性を理論的に示した。最後に、本研究で得られた分析結果の地域計画への示唆として、地域における利他的行動者の自発的な出現を促進するための方途に考察を加えた。
キーワード
ボランティア・ジレンマ、利他的動機、進化心理学、階層淘汰、社会的行動
表題
日常生活における第三者を介した資源の衡平性回復行動
著者
中島 誠・吉田俊和 (名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
要約
本研究の目的は、他者への援助行動や搾取行動を、世界に対する衡平性(Equity with the World; EwW)仮説という、複数の対人関係間での衡平性維持の視点から説明することにある。仮説は次の通り。1)衡平性回復は第三者を通じても行なわれ、2)交換資源が援助行動の場合は、金銭の場合よりも、第三者への過大利得に基く衡平性回復は促進され、過少利得に基く衡平性回復は抑制される。ただし3)衡平性回復は同一人物に対する場合の方が促進される。学生343名を対象に仮想場面法による調査が行なわれた。場面では、まず回答者が他者から資源の提供や搾取を受け、その後、情動や第三者への行動意図が尋ねられた。結果は概ね仮説を支持したが、仮説2に関しては、過少な金銭の場合に、第三者に搾取的ではなかった。資源の質による衡平性回復の差異について、一般交換の観点から考察された。
キーワード
世界に対する衡平性、関係間状況、分配公正、援助行動
表題
サンクション行動および公正さの認知における信頼の効果:戒めと報復
著者
森本裕子 (京都大学大学院教育学研究科)
渡部 幹 (京都大学大学院人間・環境学研究科)
楠見 孝 (京都大学大学院教育学研究科)
要約
我々は、人々が非協力者に対してどのような制裁行動を取るか検討するため、3つの実験を行った。実験1で、信頼と公正自己が制裁行動に与える影響を検討した結果、高信頼で不公正な人および低信頼で公正な人が多く罰行動を取ることがわかった。実験2では、場面想定法による検討を行った。参加者は、現実社会において典型的に生じるような制裁行動について、自分ならどの程度同じ行動を取ると思うかを評定した。因子分析の結果、人々は制裁行動に2種類の意味を見出していることが明らかとなった。ひとつは、本人の信頼の程度に係わらず不公正な人が行う傾向のある「報復」で、もうひとつは、公正な人が行う「戒め」である。また、実験3の結果から、観察者も報復を不公正、戒めを公正だとみなしていることが示された。これらの知見から、実験1の結果は、人々が自身の信頼の程度に応じて、実験での制裁に対して異なった意味を付与したために生じたと考えられる。
キーワード
制裁、罰、信頼、公正、社会的ジレンマ
表題
PCによるメール利用が社会的寛容性に及ぼす効果:異質な他者とのコミュニケーションの媒介効果に注目して
著者
小林哲郎 (東京大学大学院人文社会系研究科・日本学術振興会)
池田謙一 (東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
PCメール利用が社会的寛容性に及ぼす効果について、山梨県で取得された代表性のある社会調査データを用いて検討を行った。その結果、PCメール利用は、異質な他者とのコミュニケーションの機会を媒介して社会的寛容性に対してポジティブな効果を持つことが明らかになった。このことは、携帯メール利用が、パーソナル・ネットワークの同質性を高めることで社会的寛容性に対してネガティブな効果を持つという先行研究の知見とは対照的である。携帯メール利用が、技術的制約によって短いメッセージのやり取りが可能な同質な他者とのコミュニケーションを選択的に強化するのに対し、PCメール利用はコミュニケーションの前提を共有するための長いメッセージのやり取りに適しているために、異質な他者とのコミュニケーションを促進する可能性が示唆された。「橋渡し型」の社会関係資本醸成の視点からは、PCによるメール利用を政策的に促進すると同時に、携帯電話によるインターネット利用の高機能化についての実証研究が要請される。
キーワード
PCメール、携帯メール、社会的寛容性、同質性・異質性、社会関係資本
表題
Eメールの交換過程における感情表現の出現パターン:テキスト・マイニングを用いた分析
著者
花井友美(千葉大学大学院自然科学研究科)
小口孝司(千葉大学文学部)
要約
本研究では、Eメール交換における顔文字と感情文字の出現パターンをテキスト・マイニングの手法を用いて検討した。女子大学生18名に未知の他者(実験協力者)と約2週間のEメールを交換することを要請し、その結果得られた11名分141通のEメールを分析対象とした。テキスト・マイニングソフト"True Teller"によって、得られたEメールの文章から、257種類4,125語を分析対象として抽出し、コレスポンデンス分析を実施した。その結果、CMCにおいても対面でのコミュニケーションと同様に、感情表現が示されることが確認された。また、顔文字はEメール交換の初期から多く出現しており、関係の緊張を緩和する機能が示唆された。
キーワード
Eメール、テキスト・マイニング、自己開示、顔文字、感情文字
表題
交流給食と文化的自己観:学校給食の社会心理学的研究
著者
高田利武 (宮城学院女子大学)
要約
文化と心の相互構成過程の実証的検討を目的として、学校給食と児童生徒の心理過程との関係が検討された。食の等質性に基づく他者との関係性を重視する点で、学校給食制度は日本文化で優勢な相互協調的自己観を背景としており、他学年の児童や教職員・地域住民などとともに食事をとる交流給食はその典型である。10年後の追跡を含む3つの質問紙調査から、(1)交流給食の実施はそれに対応した給食への認知と態度を児童生徒にもたらす、(2)給食に対する肯定的認知・態度は児童の相互独立性・相互協調性と関連する、(3)交流給食の継続的実施の如何によって児童生徒の給食への認知・態度は変動する、の諸点が示された。これらの結果から、相互協調的自己観の内面化過程における学校給食の役割と、文化と心の相互構成過程の結節点としての学校の機能が示唆された。
キーワード
学校給食、文化的自己観、日本文化、相互協調性、児童生徒