第24巻 第3号 平成21年(2009年)2月 和文要約

表題
喪失からの心理的回復過程
著者
池内裕美(関西大学社会学部)
藤原武弘(関西学院大学社会学部)
要約
我々は人生の中で、愛する人や大切な所有物、慣れ親しんだ環境、身体の健康など、多くのものを失う。本研究は、こうした喪失からの心理的回復過程を検討することを主目的とし、特に回復過程の対象別検討と回復期間に影響を及ぼす諸要因の探求に焦点を当てた。対象者は西宮市在住の397名(男性162名、女性235名)であり、郵送法によって質問紙調査を行なった。主な結果は以下の通りである。1)喪失による回復過程や段階数は喪失対象によって異なり、喪失対象ごとにある程度類似した段階モデルが存在することが示された。2)回復期間の長さには、喪失対象の違いや予期悲嘆の有無、年齢などの要因が強く影響していることが見出された。つまり、身体機能の喪失や離別は他の喪失対象に比べて、予期悲嘆のない人はある人に比べて、また高齢者は他の年齢層に比べて、回復に多くの年月を要することが示された。
キーワード
喪失、回復過程、死別、予期悲嘆、モーニング(悲哀)
表題
長期的利得指標としての手続き的公正感:権威者評価、手続き的公正感、および集団志向的態度の関係
著者
今在慶一朗(北海道教育大学)
今在景子(名古屋大学)
要約
本研究の目的は手続きにおいて権威者の対応がもたらす効果について検討することである。手続き的公正の集団価値モデルとそれに続くモデルでは、集団成員は集団に基づくアイデンティティを確認するために集団内手続きに関心を持つとされる。本研究では大学に勤める事務職員に対して、組織の上司、公正、組織内での自己の集団志向的態度についてたずねた。分析の結果、上司による適切な対応は一般的に職員の集団アイデンティティを促進したが、これに加えて、組織から長期的利得が得られることを期待する職員に対しては手続き的公正を感じさせやすいことを確認した。これは人々が自己の成員性を確認するためだけにではなく、長期的利得をもたらす集団を維持する目的で集団内手続きを重視することを示唆している。
キーワード
手続き的公正、集団、権威者、長期的利得
表題
他者の目撃記憶に関する情報と再認の遅延が他者への同調的な目撃記憶に及ぼす影響
著者
高木大資 (東京大学大学院人文社会系研究科)
辻 竜平 (信州大学人文学部)
要約
本研究では、他者の記憶に関する情報と再認の遅延が、他者への同調的な目撃記憶に及ぼす効果に焦点を当てた。2(直後再認 vs. 一週間後再認)×2(実験群 vs. 統制群)の実験計画(ともに被験者間要因)が用いられ、実験は1セッションにつき4名の参加者で行われた(合計85名)。まずビデオクリップに関する再認課題において、実験群の参加者は「偽の他者の回答」を提示された。その後、参加者は再び同様の再認課題とそれらの項目に関するRemember/Know判断課題を行った。その結果、一週間後に再認課題を行った参加者は偽の他者の回答に対して、学習の直後に課題を行った参加者よりも高い同調率を示した。また、実験群の参加者は統制群の参加者よりも誤答に対して高いRemember反応率を示した。これらの結果から、目撃者集団から得た証言が具体性を帯びていた場合でさえ、それは彼らの実体験を正確に反映していない可能性があることが示唆された。
キーワード
目撃証言、規範的・情報的影響、同調、Remember/Know手続、ソース・モニタリング
表題
非当事者攻撃に対する集団同一化と被害の不公正さの効果
著者
熊谷智博・大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
要約
集団間の紛争では紛争当事者だけではなく、非当事者による積極的攻撃参加が事態を一層悪化させることが多い。本研究ではこの非当事者の攻撃行動は強く同一化している内集団が被害を受けたときに生じると予測した。また被害の認知は物理的な被害の大きさではなく、不公正さという心理的な被害の大きさによって決定されると予測した。実験参加者の集団同一化を協力課題によって操作した後、半数の実験参加者は不公平な評価に基づいて、残りの半数は公正な評価に基づいて内集団成員が被害を受ける様子を観察した。次に実験参加者には評価者に対して報復する機会を与えられた。結果は内集団への同一化が強いときにのみ、不公正な評価による被害に対して非当事者は報復動機を抱き、攻撃行動を行った。また集団同一化の強さは不公正知覚には影響しなかった。これらの結果は非当事者攻撃における象徴的被害情報の重要性を示唆するものであった。
キーワード
非当事者攻撃、集団同一化、被害の不公正さ、集団間紛争
表題
対人葛藤における寛容性の研究:寛容動機と人間関係
著者
高田奈緒美・大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
要約
対人葛藤における寛容性を内的寛容性と寛容行動とに区別した上で、我々はこれら2つの寛容性の動機を明らかにし、また、被害者・加害者間の人間関係がこれらの動機に与える影響を検討した。回答者は過去に誰かから被害を受けた経験を想起し、その出来事について加害者との親密さ、寛容性、寛容動機などの観点から評定した。因子分析の結果、寛容動機の6次元が見出された。それらは、受容、関係維持、一般化、調和維持、関与回避、共感・理解だった。このうち共感・理解、一般化、関係維持動機は利他的動機、その他は利己的動機として分類された。関与回避動機は内的寛容性・寛容行動の両方と関連せず、受容動機は寛容行動とのみ有意な正の相関関係にあった。その他の動機は内的寛容性と寛容行動の両方と有意な正の相関係数を示した。また、関係維持動機は低親密群や中親密群よりも高親密群において高く、受容、一般化、調和維持動機は低親密群においてよりも高・中親密群において高かった。
キーワード
寛容性、寛容行動、対人葛藤、動機、親密さ
表題
看護師チームのチームワーク測定尺度の作成
著者
三沢 良 (九州大学)
佐相邦英 (電力中央研究所)
山口裕幸 (九州大学)
要約
本研究の目的は、看護師チームのチームワーク測定尺度を作成し、その信頼性と妥当性を検討することであった。まず、Dickinson & McIntyre(1997)の理論的モデルに基づき、チームワークの3つの要素(チームの志向性、チーム・リーダーシップ、チーム・プロセス)を測定する初期項目プールを作成した。2つの異なる看護師サンプル(研究1:N = 568、研究2: N = 650)から質問紙への回答を得て、因子分析を行い、チームワークの各要素における下位要素が明らかになった。チームの志向性は2因子(「職務志向性」と「対人志向性」)、チーム・リーダーシップは2因子(「職務遂行上の指示」と「対人関係上の配慮」)、チーム・プロセスは4因子(「モニタリングと相互調整」、「職務の分析と明確化」、「知識と情報の共有」、「フィードバック」)で構成されていた。いずれの尺度も十分な内的整合性を示し、信頼性が確認された。チームワーク測定尺度の得点は集団同一視および職務満足感と正の関連を示し、インシデント発生率とは負の関連を示したことから、妥当性についても確認された。最後に本尺度の応用可能性とチーム・マネジメントの実践への示唆を考察した。
キーワード
チームワーク、尺度開発、看護師チーム
表題
お守りから見る親子の贈与関係
著者
村上幸史(大阪大学大学院人間科学研究科)
荒川歩(名古屋大学大学院法学研究科)
要約
「お守り」を保持する理由として信心深さよりも、親密な人々から贈与されたことに重点が置かれていることが明らかになっている(荒川・村上, 2006)。この背景としてモノとしての利用よりも、むしろ贈与を通じたコミュニケーションの道具としてお守りが用いられていることが考えられる。そこでお守りが最も贈与される関係である親子を対象に、両者の間でお守りが贈与される理由について、そのやりとりの過程を通して検討するために、学生とその親89ペア178名に対して調査を行った。
 その結果、親から子に贈与される場合の方が、子から親へ贈与される場合より多いことが分かった。また親から贈与されるお守りは受験合格や子の安全を祈願したものが中心であった。親側から見た贈与の動機では親自身の不安を鎮めることに加えて、子が成長するにつれて子側の不安を鎮める目的や、親が支援しているという意図を伝達するために贈与されており、時には子がそのお守りを見て親の姿を想起していることが明らかになった。以上の結果からはお守りに対する両者の意図にズレがあっても、お互いに意味を取り出す形で贈与が成立していると考えられる。このような贈与を通じて行う「モノ媒介コミュニケーション」について、その曖昧性を中心に議論がなされた。
キーワード
お守り、贈与行為、コミュニケーション、ソーシャル・サポート