第25巻 第1号 2009年8月 和文要約

表題
高齢者との交流が子どもに及ぼす影響
著者
村山 陽 (慶應義塾大学大学院社会学研究科)
要約
本研究では、高齢者と子どもとの交流の規定要因を同定し、子どもに及ぼす影響を検証することを目的とし、10-12歳の小学生381名を対象に質問紙調査を実施した。その結果、物理的な距離、児童性別および高齢者性別が高齢者との交流を規定することが示された。また、高齢者との交流が、子どもの共感性および高齢者イメージおよび高齢者への援助行動に影響することが示された。例えば、会話の多様性と高齢者に対する親密感が子どもの共感性に正の影響を及ぼし、さらに高齢者への援助行動を動機づけることが示された。これは、日常的に異世代間交流が少ない現代の子ども達にとって、高齢者世代との交流が重要なものであることを示唆している。
キーワード
高齢者と子ども、共感性、高齢者イメージ、援助行動
表題
青年期の母-子ども関係と恋愛関係の共通性の検討:青年期の二つの愛着関係における悲しき予言の自己成就
著者
金政祐司 (大阪人間科学大学人間科学部)
要約
本研究は、愛着関係として捉えられる子どもと母親との関係ならびに恋愛関係との共通項について、青年・成人期の愛着スタイル、関係における感情経験および関係への評価という観点から検討することを目的として行われた。調査対象者は、209組の大学生とその母親ならびに103組の恋愛関係にあるカップルであった。その結果、双方の関係において、愛着次元の"関係不安"は、回答者本人と相手のネガティブ感情と正の相関関係を示し、同様に、両者の関係への評価と負の相関関係を示していた。"親密性回避"の次元は、双方の関係において、回答者本人のネガティブ感情およびポジティブ感情との関連を示したのみであった。さらに、上記の"関係不安"と本人ならびに相手の関係への評価との関連は、双方の関係において、各々のネガティブ感情経験によって媒介されていた。上記の結果について、愛着スタイルの自己成就予言の観点から議論を行った。
キーワード
青年期の愛着スタイル、母子関係、恋愛関係、感情経験、関係への評価
表題
情報伝達という目標が社会的事象の原因説明に及ぼす効果
著者
菅 さやか(神戸大学大学院文化学研究科・日本学術振興会特別研究員)
唐沢 穣・服部陽介(名古屋大学大学院環境学研究科)
要約
我々はしばしば、観察された行為や事象の原因について推論を行い、コミュニケーションという社会的相互作用を通してその原因を「説明」している。本研究では、他者に情報を伝達するという目標の有無が、事象の原因に関する説明を構築する過程に与える影響を検証した。実験では参加者に、窃盗または殺人を犯した人物に関する情報を与え、その人物が犯罪者になったことの原因を説明するよう求めた。実験結果は、伝達目標がある場合には、それがない場合に比べ、より多くの情報を用いて原因の説明が行なわれることを示した。これは、説明の受け手の認知環境を考慮した結果であると考えられる。また、伝達目標が記憶に与える影響が、原因の説明内容によって媒介されることが明らかになった。社会的相互作用の影響を考慮して原因帰属研究を行なうことの重要性について議論する。
キーワード
原因帰属、コミュニケーション、事件の記憶、共有的認知
表題
「幸運」 な事象は連続して起こるのか? -「運資源ビリーフ」 の観点から
著者
村上幸史 (神戸山手大学人文学部)
要約
Langer(1975)に代表されるように、人はポジティブな結果を得た後では、擬似的なスキルがあると錯覚するため、不確実な事象にも自信を持つことが示されてきた。しかし、しろうと理論として「運」に注目すれば、一部の「幸運」を相対的にネガティブに捉える者がいると考えられる。このような捉え方は「使ったら運が減る」という「運資源ビリーフ」によるものであると考えられる。本研究では、この信念を測定する尺度を作成した。続けて、実際にクジで「幸運」な結果を得る状況を設けて、不確実な事象に関する選択の傾向を測定し、「幸運」な結果の有無による効果、及び「運資源ビリーフ」の有無による影響を比較した。その結果、「運資源ビリーフ」を持つ者は、実際に「幸運」な結果を得た場合にのみ、これから不確実な選択を行うと想定された場合に、その自信が低下することが示された。この結果についてギャンブラーの錯誤や予期後悔、メンタルシミュレーション(Kahneman & Tversky, 1982)の立場から議論がなされた。
キーワード
「運資源ビリーフ」、しろうと理論、リスクテイキング行動、統制の錯誤、価値の相対性
表題
多様化するテレビ報道と、有権者の選挙への関心および政治への関与との関連:選挙報道の内容分析と大規模社会調査の融合を通して
著者
稲増一憲 (東京大学大学院人文社会系研究科・日本学術振興会)
池田謙一 (東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究は2007年参院選を扱ったテレビ番組の内容をまとめたテキストデータの数量的内容分析を用いて、民放31番組をハードニュースとソフトニュースに分類し、それぞれの番組への接触と選挙への関心や政治への関与との関連を社会調査データ(アジアン・バロメーター2/CSES3 日本2007年調査)によって検討した。その結果、(1)ハードニュースへの接触が高いほど、選挙への関心および政治への関与が高く、(2)ソフトニュースへの接触は選挙への関心や政治への関与と直接関連を持たないものの、政治知識の少ない群においては、ソフトニュースへの接触が多いほど選挙への関心が高い、という結果が得られた。このように、政治を伝えるテレビ報道が多様化する中で、内容分析によって番組を分類し、それぞれの効果を弁別することの重要性が示された。
キーワード
内容分析、マスメディアと政治、ソフトニュース
表題
ジェンダー態度IATにおけるステレオタイプ的な刺激項目の影響
著者
石井国雄・沼崎 誠 (首都大学東京人文科学研究科)
要約
IAT(潜在連合テスト)は潜在的態度の有効な測度として知られている。近年の研究は刺激項目の特徴がIAT効果に影響を与えることを示してきた(Bluemske & Friese, 2006; Govan & Williams, 2004)。われわれはステレオタイプ的な刺激項目がジェンダー態度IATの効果に影響するかを検討した。研究1では、女性実験参加者がジェンダーに関連した強い潜在的内集団バイアスを生じさせるが、男性は生じさせないことを、予備的に示した。研究2では、ジェンダー態度IATの効果は刺激項目のステレオタイプ性によって調整されることを示した。本研究は、ステレオタイプ的な刺激項目が用いられたジェンダー態度IATは、ジェンダー態度の効果とジェンダー・ステレオタイプ化の効果を反映することを示した。
キーワード
IAT(潜在連合テスト)、ジェンダー態度、内集団バイアス、ジェンダー・ステレオタイプ化、刺激項目
表題
コンドーム購入行動に及ぼす羞恥感情およびその発生因の影響
著者
樋口匡貴 (広島大学大学院教育学研究科)
中村 菜々子 (兵庫教育大学発達心理臨床研究センター)
要約
HIV感染予防にとって重要な対策はコンドームの適切な使用であるが、このコンドーム使用の重要な阻害因の1つがコンドーム購入時の羞恥感情である。そこで本研究ではコンドーム購入時の羞恥感情がコンドーム購入行動意図に及ぼす影響を検討し、さらにそこでの羞恥感情の発生因を検討した。522名の大学生を対象にした調査の結果、コンドーム購入時には男女ともに"恥ずかしい"、"いたたまれない"といった種類の羞恥感情を強く感じていることが示された。さらに構造方程式モデリングの結果から、男性ではコンドーム購入場面における行動指針の不明瞭さが、女性ではコンドーム購入行動と自己イメージとの不一致が、それぞれコンドーム購入行動を強く抑制していることが示された。これらの結果から、コンドーム購入を促進するための訓練方法について考察された。
キーワード
HIV感染予防、コンドーム、コンドーム購入、羞恥感情、羞恥の発生因
表題
親密な友人関係における自己評価維持と関係性維持:拡張自己評価維持モデルからの検証
著者
下田俊介 (東洋大学大学院社会学研究科)
要約
本研究では、拡張自己評価維持モデル (Beach & Tesser, 1995) で予測される感情反応が親密な友人関係においてみられるかどうかを検証した。調査対象者は、親密な友人 (N=81)、恋人 (N=98)、知人 (N=53) との8つの自己評価維持状況 (自己関与度[高/低]×パートナー関与度[高/低]×遂行[Self Better / Partner Better])を想起し、その際に感じた感情を評定した。その結果、比較他者が親密な友人と恋人の場合、自己関与度低領域においてパートナーの自己評価維持に共感的な反応のパターンが示された。予測に反し、知人の場合には、自己関与度に関わらず共感的反応のパターンが示された。これらの結果から、親密な友人や恋人では自らの自己評価に及ぼす影響が高いため、自己関与度低領域のみ共感的反応のパターンがみられたこと、また、知人では自己評価に及ぼす影響が相対的に低く、少なからず関係性が重視されたために自己関与度に関わらず共感的反応のパターンがみられたという可能性が示唆された。
キーワード
拡張自己評価維持モデル、関係性の維持、親密さ、友人関係、恋愛関係