第25巻 第2号 2009年11月 和文要約

表題
コモンズの管理者はだれか?:沖縄本島の赤土流出問題をめぐる多様なアクターの正当性
著者
野波 寛 (関西学院大学)
加藤潤三 (琉球大学)
中谷内一也 (同志社大学)
要約
本研究では、コモンズとしての自然財の管理に参与する複数のアクターの正当性と、その規定因について検討した。自他がコモンズの管理に参与する権利の承認可能性を正当性と定義し、その規定因としては、個々のアクターが管理者に期待する属性から成る選択的管理者属性を提起して、専門性・当事者性・地域性という3つの側面から検証をおこなった。沖縄県の宜野座村における赤土流出問題にかかわる農業従事者・漁業従事者・一般従事者という3つのアクターを対象とした調査をおこなった結果、行政よりも農業従事者と漁業従事者の正当性のほうが高かった。また、望ましい管理者としては、専門家による介入よりも当事者および地域全体での介入への期待のほうが高かった。さらに、3つのアクターそれぞれの正当性の規定因となる選択的管理者属性には、アクター間で不一致が見られた。赤土流出問題への参与に際して、彼らは相互に異なった位置づけをおこなっている可能性が示唆された。これらの結果がもたらす寄与について、コモンズ管理における社会的ガバナンスの進展という点から展望をおこなった。
キーワード
正当性、コモンズ、選択的管理者属性、社会的ガバナンス、自然財
表題
都市部と村落部における信頼生成過程の検討
著者
稲垣佑典 (東北大学大学院文学研究科)
要約
「信頼の解き放ち理論」(山岸, 1998)では、都市部に見られる社会的不確実性と機会コストの高さが信頼を生むと考えているため、都市部の一般的信頼が村落部よりも高くなると予測している。しかしながら、近年の日本の都市部と村落部を対象とした調査からは、こうした予測を支持する結果は得られていない。これに対し、本研究では村落部と村落部の信頼生成過程は異なり、村落部住民は村落部特有の信頼生成過程を経ることで都市部並みの信頼感を獲得しているとの仮説を立てた。そして、仮説検証のため都市部と村落部に対して郵送調査をおこなった。すると、都市部では「信頼の解き放ち理論」と多くの点で適合するような結果が得られた。一方、村落部においては、既存の知人との濃密なコミットメント関係を形成した後、「解き放ち理論」と同様の過程を経て一般的信頼感を獲得していくという、2段階の信頼生成過程が作動していることを示唆する結果が得られた。
キーワード
一般的信頼感、信頼生成過程、比較調査、ネットワーク
表題
会話を行う両者の関係性が、新規情報共有・共有情報言及動機による話題選択に与える効果の検討
著者
稲増一憲 (東京大学大学院人文社会系研究科・日本学術振興会)
池田謙一 (東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究では、心理的な親密性・会話頻度が新規情報共有・共有情報言及の動機による話題選択に与える効果についての検証を行った。先行研究においては、会話を行う両者の親密性が高いほど共有情報への言及が増えるという結果と、親密性が高いほど非共有情報への言及が増える(新たに情報を共有する)という結果の両方が存在しているが、これは、心理的な親密性と相互作用の頻度が弁別されていなかったことによると考えられる。ランダムサンプリングによる社会調査を行い、心理的な親密性と会話頻度を弁別した上で、検証を行ったところ、会話頻度が高いほど共有情報言及の動機に基づく話題選択が行われる一方で、心理的な親密性が高いほど、新規情報共有の動機に基づく話題選択が行われるということが明らかになった。また、心理的な親密性が高い場合、会話頻度が低いと、新規情報共有の動機に基づく話題選択がより生じやすいという交互作用が見られた。このように心理的な親密性と会話頻度は異なる働きを持っており、これが先行研究における相反する知見の存在につながっていたことが示唆された。
キーワード
情報共有、CISバイアス、話題
表題
集団からの排除と相互協調的自己呈示
著者
高橋知里・山岸俊男・橋本博文 (北海道大学大学院文学研究科)
要約
我々は、「排除ゲーム」――非協力者を排除するオプションを伴う社会的ジレンマ・ゲーム――を経験することで、人々は相互協調的自己観尺度(Singelis, 1994)得点を高めるように回答するようになるだろうという仮説の検証を行った。39名の実験参加者は、以下の二つの条件のいずれかに割り当てられた。自己呈示条件では、自己観尺度への回答が実験後に別の参加者に示されると教示された。統制条件では、自己観尺度への回答は匿名のものとされた。相互協調的自己観尺度の平均値は、自己呈示条件では排除ゲーム参加後に上昇し、統制条件では低下した。これらの結果は、他者からの排除の脅威を経験することで、人々は相互協調的な自己呈示をするようになることを示している。
キーワード
自己呈示、自己観、相互協調的自己
表題
インターネット上での行動内容が社会性・攻撃性に及ぼす影響:ウェブログ・オンラインゲームの検討より
著者
藤 桂・吉田富二雄 (筑波大学人間総合科学研究科)
要約
本研究では、インターネット上の行動と現実生活における社会性・攻撃性との関連性について,ウェブ調査により検討した。ウェブログ利用者395名、オンラインゲーム利用者206名に、インターネット上での行動、社会性・攻撃性への影響、居場所の無さについて尋ねた。本研究の結果より、ウェブログ上での自己客観視やオンラインゲーム上での所属感獲得は、社会性の増大と関連することが示された。一方、攻撃的言動や没入的関与、依存的関与などの行動は、いずれのツールにおいても社会性の低下や、攻撃性の増大と関連していた。したがって、ブログ・オンラインゲーム利用による影響は、行動内容やツールの種類によって異なること、ならびに現実生活における居場所の無さは、没入的関与や依存的関与を介して社会性を低下させ、攻撃的言動を介して攻撃性を増大させることが示唆された。
キーワード
インターネット、社会性、攻撃性、ウェブログ、オンラインゲーム
表題
自己表象-他者表象間のリンク強度と他者の重要性の関連
著者
石井辰典 (上智大学大学院総合人間科学研究科)
要約
本研究の目的は、自己表象‐他者表象間のリンクの強度がその他者の重要性の関数として変化しているという仮説を、課題促進パラダイムでの分析(Klein et al., 1992)と自己表象の潜在効果を利用した分析(Smith et al., 1999)によって検討することであった。標的人物に友人と父親を用い、51名の参加者に対して実験を実施した。その結果、父親の表表象と父親といる自己の表象の間のリンク強度は重要性の関数として変化するが、一方、友人の表象と友人といる自己の表象の間には、他者の重要性に関わらず、強いリンクがあることが示された。こうした結果の違いは、扱った重要性の意味内容が父親と友人とで異なっていたためであると考えられた。また、父親の表象と友人といる自己の表象間のリンクを示す結果も示され、自他の表象間の関連を規定する要因について更なる検討の必要性が示唆された。
キーワード
自己表象、他者表象、重要他者、課題促進パラダイム、潜在効果
表題
判定の一貫性と利己的バイアスが当事者による判定に対する公正知覚と判定者に対する知覚に及ぼす影響
著者
原田耕太郎 (徳島文理大学文学部)
要約
判定に対する公正知覚は、判定の一貫性が破棄されると低下すると予想される。ところが、利己的バイアスは、知覚者自身に有利な結果の方が不利な結果よりも肯定的な反応を引き起こすと予想される。したがって、一貫性が破棄されることで有利な結果を獲得した場合の方が、一貫性が破棄されることで不利な結果を獲得した場合よりも、公正知覚の低下は弱まると予想される。このような交互作用は、判定者に対する知覚においてもみられると予想される。なぜなら、公正知覚と判定者に対する知覚は正の関係にあることが予想されるからである。本実験には大学生270名が参加した。分析1では、一貫性の影響はみられたが利己的バイアスの影響はみられなかった。しかし、層別の相関分析を用いた分析2では,一貫性が破棄され不利な結果を知覚者が被った条件において利己的バイアスの影響がみられた。このことから、利己的バイアスの顕現化にはフレーミングが指摘できると思われる。
キーワード
公正知覚、手続き的公正、一貫性、利己的バイアス
表題
内容分析による知識共有コミュニティの分析:投稿内容とコミュニティ観から
著者
三浦麻子 (関西学院大学文学部)
川浦康至 (東京経済大学コミュニケーション学部)
要約
本研究は、質問と回答という参加者間の相互作用を基盤とする情報蓄積によって形成されるオンライン上の知識共有コミュニティに着目し、内容分析によってその特徴を検討したものである。質問・回答投稿文の分析からは、コミュニケーション・ディスコースに関する先行研究の知見と同様の性差が見られ、特に女性の対人関係志向が顕著であった。また、コミュニティ観の分析からは、参加者がそれぞれの立場からコミュニティの有用性を評価し、質問・回答投稿のそれぞれを気構えなく行っている傾向が示された。三浦・川浦(2008)で指摘された、コミュニティ全体やそこで展開されるコミュニケーションに対するポジティブな評価は、こうした参加者の態度に根ざしていることが示唆された。
キーワード
知識共有コミュニティ、内容分析、テキストマイニング、コミュニティ観、性差