第25巻 第3号 2010年3月 和文要約

表題
成人のアニミズム的思考:自発的喪失としてのモノ供養の心理
著者
池内裕美 (関西大学社会学部)
要約
本研究では、成人用アニミズム尺度を作成し、自発的喪失の一形態である「人形供養」とアニミズム的思考との関連性について探索的検討を試みた。なお、本研究ではアニミズム概念を、"物に神や命の存在を感じる思考"として捉えた。調査対象者は、人形を供養した395名と供養経験のない204名であり、郵送法による質問紙調査を行った。因子分析の結果、アニミズム尺度の下位概念として「自然物の神格化」「所有者の分身化」「所有物の擬人化」の3つの思考形態が見出された。また分散分析の結果、非奉納者よりも奉納者が、男性よりも女性が、高年齢層よりも低年齢層がアニミズム的な思考をすることが見出された。特に若い世代のアニミズム的思考は、神道への信仰心からよりも、ゲームやメディアの影響による部分が大きいことが考察された。さらに供養後の心理について尋ねたところ、奉納者の中には自発的に手放したにも関わらず、罪悪感や惜別を示す人もいた。
キーワード
アニミズム、自発的喪失、神格化、擬人化、人形供養
表題
中高齢者の失業に対する政策への態度規定要因:原因帰属の観点からのアプローチ
著者
唐沢かおり (東京大学人文社会系研究科)
大髙瑞郁  (東京大学人文社会系研究科)
竹内真純  (東京大学人文社会系研究科)
要約
中高齢者の失業に関する政策への賛意を規定する要因を、一般市民864名から得た調査データに基づき共分散構造分析を用いて検討した。結果はおおむね、これまでの支援意図の規定要因に関する帰属研究と合致するものであった。すなわち、ネガティブな認知表象や保守的な政治的態度を持つほど、社会的原因よりも個人的原因に帰属した。ただし、政治的態度の効果は弱いものであった。また、個人的原因への帰属は怒りを増加させる一方、社会的原因は、同情と失業支援政策への賛意を増加させた。考察では、失業原因の認知構造や今後の研究への含意を議論した。
キーワード
原因帰属、失業、中高齢者
表題
苦情行動の心理的メカニズム
著者
池内裕美 (関西大学社会学部)
要約
近年、消費者からの苦情やクレームが社会問題化しているが、本研究では、社会心理学における攻撃行動に関する理論(特に欲求不満攻撃仮説)を基に、苦情行動が生起する心理的メカニズムの検討を試みた。調査対象者は全国在住の215名(男性106名、女性109名)であり、郵送法による質問紙調査を行なった。共分散構造分析により仮説モデルを検証したところ、以下のような結果が得られた。1)自尊感情が高く、自分自身の感情をコントロールできる人ほど、苦情に対して肯定的な態度を持っていた。2)苦情行動の生起には、苦情に対する態度と商品への不満の程度が強く影響していた。また商品への不満は、期待と成果の差によって規定された。3)苦情行動を生起した後は不満が少なからず解消され、「カタルシス効果」の存在が示唆された。
キーワード
苦情行動、葛藤解決、不満、攻撃行動、カタルシス効果
表題
気分がカテゴリ一致情報、不一致情報処理に及ぼす影響:実験直後と遅延後の記憶再生を用いた検討
著者
野田理世 (吉備国際大学心理学部)
要約
本研究は、気分がカテゴリ知識に一致する情報、不一致する情報を処理する際に及ぼす影響について、実験直後と遅延後の記憶再生を用いた検討を行った。実験1と2の結果、実験直後、ポジティブ気分条件では、一致情報と不一致情報の正再生率に明確な差はみられなかったが、遅延後では、不一致情報よりも一致情報の正再生率が高かった。一方、ネガティブ気分条件では、実験直後、及び遅延後のいずれにおいても一致情報と不一致情報の正再生率に明確な差は認められなかった。本研究の結果より、ポジティブ気分とネガティブ気分では、情報を符号化する際に一致情報、もしくは不一致情報を表すユニット間の連結ウェイトが異なった強さで符号化されることが示唆された。
キーワード
気分、情報処理過程、カテゴリ一致・不一致情報
表題
遺族の後悔と精神的健康の関連:行ったことに対する後悔と行わなかったことに対する後悔
著者
塩崎麻里子 (近畿大学国際人文科学研究所)
中里和弘 (大阪大学大学院人間科学研究科)
要約
本研究の目的は、1)遺族の感じる後悔の内容を探索すること、2)後悔の数や後悔の強さが精神的健康度と悲嘆に関連するかを検討すること、3)行ったことに対する後悔のある遺族と行わなかったことに対する後悔のある遺族では、精神的健康度と悲嘆に違いがみられるか明らかにすることであった。ホスピスで患者を亡くした遺族を対象に、郵送による質問紙調査を実施し、回答の得られた89名を分析対象とした。自由記述より明らかとなった遺族の後悔の内容は、行わなかったことに対するものが多く報告された。後悔の数と精神的健康及び悲嘆には弱い関連が、後悔の強さと精神的健康及び悲嘆には中程度の関連がみられた。行わなかったことに対する後悔がある遺族は、後悔のない遺族に比べて、精神的に不健康で悲嘆が強いことが明らかとなった。これらの結果から、やり直しのできない遺族の後悔について述べ、臨床への還元を目指した提言を行った。
キーワード
後悔・遺族・精神的健康・悲嘆・がん患者
表題
対人場面におけるあいまいさへの非寛容と特性的対人ストレスコーピングおよび精神的健康の関連性
著者
友野隆成 (同志社大学心理学部)
要約
本研究では、対人場面におけるあいまいさへの非寛容(IIA)が特性的対人ストレスコーピングを媒介因として精神的健康に与える影響を、対人ストレスモデルに基づき検討した。対人場面におけるあいまいさへの非寛容尺度(IIAS-R)、ストレス反応尺度(SRS)、特性的対人ストレスコーピング尺度(ISI)が、309名の男女大学生を対象に実施された。共分散構造分析の結果、IIAは特性的ネガティブ関係コーピングを媒介してストレス反応に正の影響を与えていた。また、直接ストレス反応に正の影響を与えていた。しかし、特性的解決先送りコーピングの媒介効果はみられなかった。以上の結果から、IIAと特定の不適切なコーピングとが結びつき、精神的健康に悪影響を与えることが示唆された。
キーワード
対人場面におけるあいまいさへの非寛容、対人ストレスモデル、特性的対人ストレスコーピング、精神的健康