第26巻 第2号 2010年12月 和文要約
- 表題
- 地域防犯活動に対する市民参加を規定する要因:東京都江戸川区における二つの調査結果をもとに
- 著者
- 高橋尚也 (筑波大学大学院人間総合科学研究科)
- 要約
- 現代日本では住民による地域防犯活動が進められているが、順調に進展していない。本研究では、地域防犯活動に対する市民参加の規定因を検討するため、江戸川区において2つの研究が実施された。15名のリーダー層に対する面接調査(第1研究)では、地域へ愛着や防犯活動に対する態度や行政からの支援や互酬的関係が、地域防犯活動を進展させる可能性が示唆された。無作為に抽出された141名に対する調査の結果(第2研究)、地域防犯活動への参加経験者は14.2%であった。男性では、参加経験は地域内所属組織数に規定され、年齢が高く、政治・行政への関心が高いほど参加意図が高かった。女性では、参加経験は年齢の低さと近所づきあいの多さ、家族に小・中学生がいることとに規定され、政治・行政への関心が低く、家族に高校生がいないほど参加意図が低かった。地域防犯活動の推進には、性別で異なるアプローチを採用することが有効で、家族などに対する間接的な利益である受益性に注目していく必要性が議論された。
- キーワード
- 地域防犯、市民参加、ソーシャル・ネットワーク、活動からの受益
- 表題
- 感情予測におけるネガティブ経験の効果:経験は他者の感情予測に役立てられるか
- 著者
- 桑山恵真(一橋大学大学院社会学研究科)
工藤恵理子(東京女子大学)
- 要約
- 人はネガティブ感情を和らげる心理的処理に気付かずに感情予測のエラーを示す。人は強いネガティブ感情が生起するとこれらの心理的処理がより効果的に働くことに気付かないため、強いネガティブ感情は弱いネガティブ感情よりも持続すると予測すると考えられる。本研究は、この感情予測のエラーが感情制御の外的必要性なしにも生じることを明らかにするとともに、自分と同じ状況の他者の感情状態の予測について検討する。フィードバック(FB)を受け取ることを想像した参加者(予測者)は、弱いネガティブFBよりも強いネガティブFBを受け取った5分後は、よりネガティブな感情状態であると予測した。しかし、実際にFBを受け取った参加者(経験者)の感情状態は、FBの強度による差は小さく、全体としてよりネガティブではなかった。さらに、平均的な学生の感情予測においては、経験者は他者のネガティブな感情状態は自分よりも持続すると予測した。
- キーワード
- 感情予測、他者の感情推論、持続性バイアス、ネガティブ経験
- 表題
- 相対的剥奪の抑制による結果の受容:民事訴訟における手続き的公正の短期的効果
- 著者
- 今在慶一朗(北海道教育大学)
今在景子(名古屋大学)
- 要約
- Thibaut & Walker (1975) は、民事訴訟の紛争当事者が自己利益を最大化することを目的とするため、彼らにとってコントロールしやすい手続きが公正感や満足感をもたらすと主張した。このような理論では、紛争当事者が感じる手続き的公正は自己利益に還元されている。しかしながら、本研究では、人々は手続き的公正への関心と自己利益への関心を区別していると予測した。紛争当事者の自己利益への関心は無制限なものではなく、手続きが公正に運用される範囲において自己利益が最大であることが紛争当事者の相対的剥奪感を抑制し決定を受容しやすくさせると予測した。実際に民事訴訟の当事者として裁判を経験した人々を対象とする質問紙調査を行った。全体分析、有利さ別の分析、法人自然人別の分析を通して、手続き的公正が相対的剥奪感の抑制を媒介して結果の受容を促進することが確認された。
- キーワード
- 手続き的公正、相対的剥奪、コントロール、民事訴訟
- 表題
- 「かけがえのなさ」に潜む陥穽:協調的志向性と非協調的志向性を通じた二つの影響プロセス
- 著者
- 相馬敏彦(川口短期大学)
浦 光博(広島大学総合科学研究科)
- 要約
- 親密な関係にある者は、しばしば自身の関係を特別なものだと考える。そして、このように特別観を認識することは協調的な志向性を高める一方、それとは独立して非協調的志向性を低めることが示されている。では、特別観は当事者の適応にどのように影響するのだろうか。285名の既婚・未婚者を対象とするパネル調査を行った。パス解析と補足的な分析の結果、二つの独立した過程が機能することが明らかとなった。一つは、強い特別観をもつことで、協調的な志向性が高まり、相手からの暴力被害が低下するというものである。もう一つは、強い特別観をもつことで、非協調的志向性が低まり相手からの暴力被害を受けやすくなるというものであった。得られた結果に基づき、本研究の独自性やドメスティック・バイオレンスへの政策的貢献について議論した。
- キーワード
- 親密な関係、特別観、ドメスティック・バイオレンス
- 表題
- 女性による伝統的女性と非伝統的女性への偏見とステレオタイプの適用:潜在レベルからの検討
- 著者
- 高林久美子(一橋大学大学院)
沼崎 誠(首都大学東京)
- 要約
- 本研究は、女性が女性のサブカテゴリーに対してどのように偏見とステレオタイプを示すのかについて、一時的にプライムされた自己表象と慢性的な自己表象が潜在的偏見とステレオタイプの適用に及ぼす効果を調べることにより検討した。伝統的女性としての自己表象が優勢になった参加者は、非伝統的女性としての自己表象が優勢になった参加者に比べて、キャリア女性より家庭女性を好意的に評価し、ターゲット女性をステレオタイプ的に評定するだろう。事前に平等主義的性役割観尺度に回答した実験参加者は、将来家庭にいる自分もしくは働いている自分を想像した。その後、偏見的反応とステレオタイプ的反応を測定するために2種類のIATに従事した。その結果、伝統的な自己表象がプライムされた実験参加者は非伝統的な自己表象がプライムされた実験参加者に比べて女性サブカテゴリーへの潜在的なステレオタイプ一致反応を強めた。また、伝統的性役割観を持つ女性は平等主義的性役割観を持つ女性に比べてキャリア女性より家庭女性に対して潜在的に好意的であった。偏見的反応とステレオタイプ的反応が別の要因によって影響を受けたという本研究の結果は、それら2つの反応が独立であることを示唆している。
- キーワード
- 偏見、ステレオタイプ、潜在、女性サブカテゴリー
- 表題
- コンドーム使用・使用交渉行動意図に及ぼす羞恥感情およびその発生因の影響
- 著者
- 樋口匡貴(広島大学大学院教育学研究科)
中村菜々子(兵庫教育大学発達心理臨床研究センター)
- 要約
- HIV感染予防にとって重要な対策はコンドームの適切な使用であるが、コンドーム使用を阻害する重要な要因の1つがコンドーム使用・使用交渉時の羞恥感情である。そこで本研究ではコンドーム使用・使用交渉時の羞恥感情がコンドーム使用・使用交渉行動意図に及ぼす影響、ならびにそこでの羞恥感情の発生因を検討した。186名の大学生を対象にした調査の結果、コンドーム使用・使用交渉時に生じる羞恥感情の種類に関しては、特に目立った特徴は見られなかった。さらに構造方程式モデリングの結果から、男性ではコンドーム使用時におけるパートナーからの評価への懸念が、女性ではどのようにふるまったらよいかわからないという行動指針の不明瞭さが、それぞれそこでの羞恥感情を強く生起させていることが示された。これらの結果から、コンドーム使用を促進するための訓練方法について考察された。
- キーワード
- HIV感染予防、コンドーム、コンドーム使用・使用交渉、羞恥感情、羞恥の発生因