第26巻 第3号 2011年3月 和文要約
- 表題
- 集団間代理報復における内集団観衆効果
- 著者
- 縄田健悟 (九州大学大学院人間環境学府)
山口裕幸 (九州大学大学院人間環境学研究院)
- 要約
- 集団間代理報復とは、集団間関係において、当初の危害とは直接は無関係な者どうしの間で報復が生起する現象である。本研究の目的は、内集団成員から自らのふるまいを見られることが代理報復へと及ぼす影響を、小集団実験によって明らかにすることである。本実験では、連続した一対一の対戦ゲーム状況における勝者から敗者への罰金によって、攻撃行動の操作と測定を行った。実験の結果、自らの与えた罰金が内集団へと伝わるとき(内集団観衆あり条件)には、伝わらないとき(内集団観衆なし条件)よりも、外集団成員へと大きな罰金が与えられた。また、事後質問項目を用いたパス解析を行った。その結果、内集団成員が外集団成員から危害を受けたと分かる危害明示条件のみで、内集団観衆がいることで、内集団からの賞賛期待が高まり、報復動機づけが強くなる結果、罰金額が大きくなるという影響過程が示された。つまり、内集団成員から代理報復を見られているときには、自らが賞賛されると期待するために、より強い代理報復がなされたといえる。本研究の結果から、内集団成員から見られることなどの集団内過程のダイナミックスによって、集団間紛争が激化していく可能性が示唆された。
- キーワード
- 集団間代理報復、集団間紛争/集団間葛藤、外集団攻撃、内集団観衆、賞賛、集団内過程
- 表題
- 空間的距離感が説得メッセージの受容に及ぼす影響
- 著者
- 樋口 収 (一橋大学大学院社会学研究科)
桑山恵真 (一橋大学大学院社会学研究科)
- 要約
- 解釈レベル理論によれば、心理的距離感は情報処理の重要な規定因である。すなわち、ターゲットとの心理的距離感が近い場合には具体的な情報に注意が向きやすく、他方で、ターゲットとの心理的距離感が遠い場合には抽象的な情報に注意が向きやすい。こうした知見にもとづき、本研究ではターゲットが近い場合には具体的なメッセージを、遠い場合には抽象的な情報を提示したときの方が説得効果があるという仮説を検討した。研究1では空間的距離感を参加者に回答させることで測定した。研究2では空間的距離感を世界地図によって操作した。その結果、いずれの研究においても、空間的距離感が近い場合には具体的な情報を提示したときの方が、遠い場合には抽象的な情報を提示したときの方が説得メッセージを受容しており、仮説は支持された。心理的距離感と説得への示唆について、本研究の知見をもとに考察した。
- キーワード
- 解釈レベル理論、空間的距離感、説得
- 表題
- 共感性形成要因の検討:遺伝-環境交互作用モデルを用いて
- 著者
- 敷島千鶴 (慶應義塾大学先導研究センター)
平石 界 (京都大学こころの未来研究センター)
山形伸二 (慶應義塾大学先導研究センター)
安藤寿康 (慶應義塾大学文学部)
- 要約
- 共感性の個人間差に寄与する要因を行動遺伝学の方法を用いて明らかにし、アタッチメント理論を根底にした社会化論の妥当性について検討した。14~33歳の双生児約450組から収集した、共感性と子どもが認知する親の情愛次元を用いた2変量分析は、共感性の形成には、養育家庭の共有環境要因の寄与はなく、共感性と親の情愛深さに共通する共有環境要因も存在しないことを明らかにした。両者に正の相関関係はあったが、媒介しているのは主に遺伝要因であった。親の情愛深い子育てが、後の子どもの共感性を育むという社会化論は支持されなかった。しかし、続く遺伝―環境交互作用モデル分析は、親の情愛が高かった、あるいは非常に低かったと認知している個人ほど、共感性次元の形成に共有環境の影響をより強く受けていることを示した。親へのアタッチメントが強い個人、並びに低い個人は、共感性の形成において、その家の共有環境の影響をより多く受けやすい可能性が示唆された。
- キーワード
- 行動遺伝学、共感性、アタッチメント、遺伝-環境交互作用、双生児
- 表題
- インターネットでの情報表示遅延認知が態度に与える影響
- 著者
- 奥川 裕
工 藤 恵理子 (東京女子大学現代教養学部)
- 要約
- 本研究はホームページを閲覧している際の遅延認知がホームページで提供される情報への態度に与える影響を検討した。ホームページ閲覧者の全てが高い動機づけをもって情報探索をしているとは限らない。多くの動機づけの低い人々は閲覧時の情報表示遅延のような周辺手がかりの影響を受ける可能性がある。参加者は低用量ピルについての架空のホームページを見た後、ピルの使用に関する自身の態度を評定した。参加者の半数はホームページ閲覧中に遅延を経験し、残りの半数の参加者は遅延のないホームページを閲覧した。遅延自体の効果は見られなかったものの、閲覧のスムーズさ認知は低用量ピルの使用に対する参加者の態度に負の影響を与えることを結果は示した。さらに、スムーズさ認知が参加者の態度に与える影響はピルに対するベネフィット認知によって媒介されていることが媒介分析によって示された。背景メカニズムとなりうる処理の流暢性経験について考察した。
- キーワード
- インターネット、態度、周辺手がかり、遅延の効果、処理の流暢性
- 表題
- 感情表出に対する態度が親密で対等な二者関係における怒り感情制御方略および親密度に及ぼす影響
- 著者
- 吉田琢哉 (東海学院大学人間関係学部心理学科)
- 要約
- 怒りの制御は適応を左右する重要な問題である。親密で対等な関係においては建設的な怒りの表出が効果的であるという知見を踏まえ、本研究ではそうした関係において感情表出に対する態度要因が怒りの建設的表出に及ぼす影響を検討した。対象は青年期の恋人関係および友人関係である。自身の感情表出に対する否定的な態度は、建設的な怒りの表出に負の影響を及ぼしていた。もう一つの態度要因である、他者の感情表出を望む態度は、相手の怒りの制御方略とは無関連であった。ただし、相手が自身の感情表出を望むと認知しているほど、建設的表出を行う傾向が見られた。相手の態度の推測についてのコミュニケーションの役割、および態度の変容可能性について議論された。
- キーワード
- 怒り感情の制御、感情表出に対する態度、親密で対等な関係
- 表題
- 関係喪失のコストが社会的拒絶への反応に及ぼす影響:相互依存理論とソシオメーター理論による統合的アプローチ
- 著者
- 宮崎弦太2) (大阪市立大学大学院文学研究科・日本学術振興会)
池上知子 (大阪市立大学大学院文学研究科)
- 要約
- 相互依存理論とソシオメーター理論の観点から、関係喪失のコストが大きいほど、親友からの拒絶のサインへの感受性が高まり、拒絶に対し関係修復的な行動が動機づけられやすいという仮説を検証した。319名の大学生が質問紙調査に参加した。質問紙では、同性の親友との共有活動数を測定した後、その親友からの拒絶場面での感情と行動反応を測定した。予測どおり、親友と共有する活動数が多いほど、相手からの想像上の被拒絶場面で、ネガティブな自己関連感情が強く経験され、それは全体として、関係志向的行動を促進し、関係破壊的行動を抑制していた。これらの結果は、状態自尊心が関係維持機制として有効に機能することを示唆している。
- キーワード
- 社会的拒絶への反応、関係喪失のコスト、ソシオメーター理論、相互依存理論