第27巻 第1号 2011年8月 和文要約

表題
回想された親の養育行動が大学生の自尊感情に及ぼす影響の日韓比較:行動分析学的な解釈
著者
趙 善英(早稲田大学大学院文学研究科)
松本芳之(早稲田大学教育学部)
木村 裕(早稲田大学文学学術院)
要約
本研究では、自尊感情の形成と発達は行動分析学的視点から理解できるという仮定のもとに、日本人と韓国人大学生の回想された親の養育行動が大学生の自尊感情に及ぼす影響を検討した。調査対象者は日本人学生201名と韓国人学生206名であった。分析の結果、日本人、韓国人ともに、子どもの頃に親が身内のことを他者に対して肯定的に話したと回想している人ほど、また自分が身内のことを他者に対して肯定的に話したことを親に褒められたと回想している人ほど、現在も他者に対して身内のことを肯定的に話す傾向があり、さらにそうした人ほど自尊感情が高かった。また、日本人は現在の自分が抱く自己評価と他者に示す自己評価の違いが大きい人ほど自尊感情が低かった。一方、韓国人は褒められた経験が多い人ほど、また子どもの頃に自分が身内のことを他者に対して肯定的に話したことを親に褒められたと回想している人ほど自尊感情が高かった。
キーワード
日本、韓国、養育行動、自尊感情、行動分析学
表題
人間関係の選択性と態度の同類性:ダイアド・データを用いた検討
著者
石黒 格(日本女子大学人間社会学部)
要約
全国から無作為に抽出した25-74歳を対象としたネットワーク調査のデータを利用して、ダイアドにおける態度の類似性と人間関係の選択可能性との関係を検討した。このとき、属性の類似性を統制した。四点法で測定した8項目の回答に基づき回答者と他者の態度のユークリッド距離を計算した結果、チャンス・レベルよりも短く、同類結合が示唆された。さらに、人間関係の選択可能性の指標として都市度、パーソナル・ネットワークのサイズ、過去一年間の新規知人数を用いて態度の類似性との関係を検討したところ、パーソナル・ネットワークのサイズが大きいほど態度の類似性が高くなっていた。性別、年齢、学歴、職業、収入の五つの属性について類似性を測定し、統制しても、結果に変化はなかった。以上の結果が、下位文化理論(Fischer, 1982)やニューメディア研究、文化研究に対して持つ含意について議論した。
キーワード
パーソナル・ネットワーク、同類性、類似性-対人魅力仮説、ダイアド・データ
表題
自己価値への脅威が男性のジェンダーに関する潜在的態度に及ぼす影響
著者
石井国雄・沼崎 誠(首都大学東京人文科学研究科)
要約
自己価値への脅威下におかれた人は、マイノリティ外集団に対してネガティブな潜在的態度を生じさせることが示されている。しかし、脅威下におかれた人が、ネガティブではない外集団に対して、ネガティブな潜在的態度を生じさせるかは明らかではない。われわれは、脅威下におかれた男性参加者において、ジェンダーに関する潜在的態度の内集団バイアスが生じるかをIATを用いて検討した。参加者は、自己への脅威を与えるフィードバックを受けるか、受けないかを操作され(脅威あり vs. 脅威なし)、その後、IATによって、ジェンダーに関する潜在的態度が測定された。結果として、ジェンダーに関する潜在的態度の内集団バイアスは脅威あり条件において生じていた。男性による女性に対する潜在的態度における自己価値脅威の役割が議論されている。
キーワード
潜在的態度、内集団バイアス、自己価値への脅威、ジェンダー偏見
表題
大学新入生の友人選択状況が親密化過程に及ぼす影響
著者
渡辺 舞(北星学園大学大学院社会福祉学研究科)
今川民雄(北星学園大学社会福祉学部福祉心理学科)
要約
本研究の目的は、大学入学後3ヶ月の間に、調査協力者(大学新入生)が一番親しい友人をどの程度変えるのかを検討することである。調査協力者は304名(男性131名・女性173名)の大学新入生であり、入学後、3ヵ月間に3回の質問紙調査を行った。調査の手続きとして、一番親しい友人を各調査時点で選択してもらった。その結果、大学入学初期から同一の友人を選択し続ける協力者が44.4%存在する一方、少なくとも一度は友人を変える協力者が55.6%存在することが明らかとなった。この結果は、親密化過程において初期分化が生じる場合と初期分化せずに別の友人を選択する場合があることを確認し、初期分化だけでは説明できない過程が存在することを示唆した。
キーワード
親密化過程、同性友人関係、大学新入生、友人選択
表題
恋愛関係における関係効力性が感情体験に及ぼす影響:二者の間主観的な効力期待の導入
著者
浅野良輔(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
現所属:名古屋大学大学院教育発達科学研究科・日本学術振興会
要約
本研究では、恋愛関係における関係効力性が二者双方の感情体験に及ぼす影響を検討した。関係効力性とは、二者間で共有された間主観的な効力期待を指し、自分たちの関係を脅かす問題の予防と解決に向けて互いの資源を協調的・統合的に活用できるという社会認知理論 (Bandura, 1997, 2001) に基づいた概念である。恋愛カップル107組に質問紙調査を行った。マルチレベル構造方程式モデリングによる分析の結果、関係効力性の高いペアは、ポジティブ感情を経験しやすいものの、ネガティブ感情とは関連しないことが示された。また、関係効力性を高く知覚している人は、ポジティブ感情を経験しやすいものの、ネガティブ感情とは関連しないことも示された。得られた知見に基づき、本研究の意義やこれまでの対人関係研究に対する貢献について議論された。
キーワード
関係効力性、間主観性、恋愛関係、感情体験、マルチレベル構造方程式モデリング
表題
自我脅威状況における補償的自己高揚の検討
著者
田端拓哉・池上知子(大阪市立大学文学研究科)
要約
本研究では、ある次元における自己の価値が脅威にさらされた場合、それを補償するため別の次元の自己評価が高まり、かつそのような代替次元における補償は低特性自尊心者よりも高特性自尊心者に生じやすいという仮説を立て検討している。大学生を対象に想起法を用いて自己への脅威の水準を操作する実験を2つ実施した。その結果、学業関連自己が脅威にさらされた参加者は特性自尊心の水準にかかわらず対人的次元において自己高揚を示した (Study 1) 。しかし、社会的自己が脅威にさらされた参加者は特性自尊心の水準にかかわらず知性次元における自己高揚を示さなかった (Study 2) 。この結果について知性次元と社会性次元の間における補償の非対称性の観点から論じている。
キーワード
補償、自我脅威、自己評価、特性自尊心、状態自尊心