第27巻 第2号 2012年1月 和文要約

表題
多元的公正感と抗議行動:社会不変信念、社会的効力感、変革コストの影響
著者
川嶋伸佳4)(東北大学大学院文学研究科・日本学術振興会)
大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
熊谷智博(大妻女子大学文学部)
浅井暢子(東北大学大学院文学研究科)
4)現所属:東北大学大学院文学研究科
要約
社会的不平等が拡大し、人々の不公正感が高まる一方で、不公正の是正に向けた抗議行動は顕著ではない。我々は、2009年に実施した社会調査(1398名)の結果に基づいて、社会における自分自身の扱いに関するミクロ不公正感は、社会全体の状態に関するマクロ不公正感よりも規範的・反規範的抗議行動を強めると同時に、抗議行動に対するミクロ不公正感の効果は、マクロ不公正感の高低により変化することを見出した。また、多元的な不公正感が抗議行動を強める効果は、日本社会は変化しないという社会不変信念、自分自身は社会を変える力を持たないという社会的不効力感、および社会を変えるためには多くのコストが必要であるという変革コスト見積もりという3つの心理学的変数により抑制されるという仮説を検証し、社会不変信念と変革コスト見積もりについておおむね仮説を支持する結果を得た。
キーワード
社会的不平等、公正感、抗議行動、社会不変信念、効力感
表題
集団間葛藤時における内集団協力と頻度依存傾向:進化シミュレーションによる思考実験
著者
横田晋大(広島修道大学人文学部)
中西大輔(広島修道大学人文学部)
要約
本研究の目的は、集団間葛藤状況下において頻度依存傾向が内集団協力の促進に与える影響を検討することにある。近年、集団間葛藤状況では、非葛藤状況に比べ、内集団協力が促進されることが報告されている。しかし、この現象には、ただ乗り問題という理論的な問題が存在する。本研究では、多層淘汰理論と文化的群淘汰理論に基づいたただ乗り問題の一つの解決法を提案する。それは、集団内の協力率に従って行動を決定するという個人の頻度依存傾向が、内集団協力の促進を速め、協力行動が合理的になる状況を生み出す可能性である。この可能性を、進化シミュレーションにより検証した。その結果、集団間葛藤の程度が強くなるほど、頻度依存傾向が協力率を押し上げる効果は減少するが、頻度依存的に振る舞う傾向と内集団へ協力的に振る舞う傾向は、集団間葛藤の激しさが増すにつれて高くなることが示された。特に、集団間葛藤が激しい状況では、頻度依存傾向が高い個体が多数を占めることが見出された。
キーワード
集団間葛藤、内集団協力、頻度依存傾向、多層淘汰理論、文化的群淘汰理論
表題
自己脅威が内集団との合意性認知に及ぼす効果
著者
渡辺 匠(東京大学大学院人文社会系研究科)
唐沢かおり(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究では、自己脅威が自己と内外集団の合意性認知に与える影響について、最小条件集団パラダイムを用いて検証を行った。具体的には、内集団との結びつきは自己に心理的恩恵をもたらすため、自己と内集団の合意性認知は自己を脅威から防衛する役割を果たしていると予測を立て実験を行った。その結果、自己が脅威にさらされると、自己と内集団成員の合意性認知が高まることが明らかになった。それに対して、自己と外集団成員の合意性は、自己脅威があるかどうかに関わらず低く認知されていた。過去の研究は、内集団は外集団よりも自分と似た特徴を持つと推定されることを示しているが、本研究の結果はこれらの知見に加えて、性格次元における合意性認知が自己脅威への対処方略として機能することを示唆している。考察では、自己の状態を改善するために、自己と内集団の関係性に対する認知を変化させる主体的な自己のメカニズムについて議論した。
キーワード
合意性認知、自己脅威、自己防衛、最小条件集団、内集団ひいき
表題
他視点取得の活性化による言語的攻撃の抑制
著者
常岡充子2)(東京大学大学院人文社会系研究科)
高野陽太郎(東京大学大学院人文社会系研究科)
2)現在の主な所属は科学警察研究所である。
要約
他視点取得と言語的攻撃の抑制との因果関係を明らかにするため、実験を行った。実験の際、相手(本当は参加者ではなくコンピュータプログラム)との言語的なやりとりを行う前に、半数の参加者は他視点取得を活性化する課題を行い、残りの参加者は他視点取得を活性化しない課題を行った。実験の結果、他視点取得を活性化しなかった参加者は、相手が徐々に攻撃的なメッセージを送るようになるのに対して、より多く攻撃的なメッセージを選択するようになった。一方、他視点取得を活性化した参加者は、相手が攻撃的なメッセージを送るようになっても、攻撃的メッセージを選択する回数を増やさなかった。本研究より、他視点取得を活性化することにより、言語的攻撃を増す他者に対して攻撃を増加しない効果が生じることが示唆された。
キーワード
攻撃、他視点取得、共感
表題
女子大学生における高脂肪食品に対する潜在的態度の検討
著者
山中祥子(同志社大学大学院文学研究科)
山 祐嗣(神戸女学院大学人間科学研究科)
余語真夫(同志社大学心理学部)
要約
本研究では、女子大学生の高脂肪食品に対する潜在的態度を検討した。高脂肪食品に対し、潜在的にネガティブな態度と接近的態度の葛藤が存在すると予測した。潜在態度の測定には Implicit Association Test (IAT; Greenwald, McGhee, & Schwartz, 1998)を用いた。このテストでは“よい-悪い”“接近-回避”2種類の帰属カテゴリを用いた。実験1では食品刺激の提示に文字を用いた。その結果、高脂肪食品に対し潜在的にネガティブな態度が示されたが接近的な態度は示されなかった。実験2では食品の刺激に写真を用いた。その結果、高脂肪食品に対し潜在的にネガティブな態度と接近的な態度が示された。しかし摂食を抑制する意図の高群と低群の間には、高脂肪食品に対する潜在的な態度の違いは見られなかった。以上の結果は、本研究の予測を部分的に支持した。高脂肪食品に対する潜在的にネガティブな態度および潜在的に接近的な態度と食行動の関係について考察した。
キーワード
潜在的態度、潜在連合テスト、高脂肪食品、摂食抑制
表題
犯罪被害者に対するネガティブな帰属ラベルの検討:被害者は「責任」を付与されるのか
著者
白岩祐子(東京大学大学院人文社会系研究科)
宮本聡介(明治学院大学心理学部)
唐沢かおり(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
内閣府 (2006) によれば、犯罪被害者はしばしば第三者からネガティブに認知される存在である。これまで、ネガティブな対被害者認知を測定する指標として「責任」というラベルが多用されてきたが、責任は一義的には加害者に付与される概念であり、対被害者認知をこのラベルによって正確に捉えることは難しいのではないかと考えられる。そこで、判決文や被害者の聞き取り調査から、ネガティブな対被害者認知の特徴をより備えていると考えられるラベル (隙・落ち度) を抽出し、責任との評定差を検討した。同時に、これらのラベルが質的に異なる概念であるかどうかを確認するため、原因帰属などを測定して各ラベルとの関連を比較検討した。その結果、被害者の責任は隙や落ち度よりも小さいと判断され、各ラベルの規定因における差異も確認された。最後に、本研究の今後の展望について議論した。
キーワード
犯罪被害者、ネガティブ認知、責任