第27巻 第3号 2012年3月 和文要約
- 表題
- 個人のチームワーク能力を測定する尺度の開発と妥当性の検討
- 著者
- 相川 充(東京学芸大学)
髙本真寛(筑波大学)
杉森伸吉(東京学芸大学)
古屋 真(東京学芸大学附属学校課)
- 要約
- 本研究は、特定のチームに限定されない個人のチームワーク能力を測定するための尺度を作成することを目的とした。研究1では、「コミュニケーション」「チーム志向」「バックアップ」「モニタリング」「リーダーシップ」の五つの下位尺度からなるチームワーク能力尺度の試作版を作成した。大学生(N=409)がこれらの試作版の下位尺度に回答した。項目分析に基づき、五つの下位尺度の確定版を構成した。各尺度の妥当性は、確認的因子分析、構造方程式モデリング、多母集団同時分析で確認した。研究2では、大学生のクラブメンバー(N=58)が、これらの下位尺度に回答した。部長からチームワーク能力が高いと判断された者と低いと判断された者との間に、尺度得点の差が認められた。研究3では、ビジネスの現場で働く社員(N=76)の下位尺度の得点が、社員同士の相互評定結果や自己評定結果と統計的に合理的な関連を示していた。これらの五つの下位尺度は、一定の妥当性を伴いながら、チームワーク能力の各側面を測定していると結論づけた。
- キーワード
- チームワーク、コンピテンシー、尺度、妥当性
- 表題
- 情報の非対称性を伴う二者関係での予期と行動の相互支持過程の検討
- 著者
- 小杉素子(財団法人電力中央研究所社会経済研究所)
- 要約
- 本研究の目的は,情報の非対称性がある二者の継続的な相互作用関係において、情報優位者による情報隠しは長期的には損失を招く可能性があるにも関わらず、それが生じる要因を明らかにすることである。参加者が二人一組のペアになり,情報提供者と受け手の役割のどちらかに割り振られ,繰り返し情報のやりとりを行う実験室実験を行った結果,提供者が正直に情報提供しているかどうかを受け手が判断できない状況では受け手にはリスク回避傾向が生じ,提供者の情報隠しの程度は受け手のリスク回避傾向の強さと強く相関していた。情報隠しが明らかにならない限りは,情報提供者は情報隠しをした方がより大きな利得を得ることができるが,一旦情報隠しが明らかになると受け手はよりリスク回避的になり,提供者への信頼も低下した。しかし、提供者は情報隠し発覚後に正直になるのではなく,発覚前と同程度の利得を得るために虚偽報告をしつづけた。つまり,短期的には情報隠しは情報優位者にとって利得をもたらし,長期的には損をしないために情報隠しをせざるをえない状況が存在するため,情報隠しがなくならないことが示唆された。
- キーワード
- 情報の非対称、予期、信頼、リスク回避傾向、情報隠し
- 表題
- 関係規範の違反に対するシグナルとしての怒り感情:
知覚された欲求責任違反の媒介的役割
- 著者
- 上原俊介(東北大学大学院文学研究科)
中川知宏(近畿大学総合社会学部)
森 丈弓(いわき明星大学人文学部)
清水かな子(東京厚生年金病院)
大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
- 要約
- 対人相互作用を制御する主要な関係規範は欲求に応える責任(Responsibility for Needs: 以下、RN)である。本研究では、怒りがRNの違反を知らせるシグナルになると仮定し、親密他者の欲求充足を拒否する行動はRNの違反と判断されて怒りが喚起されるという媒介モデルを検討した。また、友人の人間関係タイプでこのモデルが成り立つかどうかも併せて検討した。シナリオ法を採用し、相互作用相手(恋人vs.友人vs.顔見知り)が欲求充足を求める主人公の要望を拒否する(または受諾する)場面を描いたエピソードを4つ読ませ、参加者にこのとき感じた怒りの強さとRNの違反知覚を評定させた。分析の結果、親密他者が欲求充足を拒んだ場合、怒りはRNの違反知覚を介して喚起されることが見出された。また、友人関係でもこの媒介モデルは成立することが示され、友人という関係タイプもRNによって運営される関係であると結論された。
- キーワード
- 怒り、関係規範の違反、人間関係
- 表題
- 犯罪の予測可能性・対処可能性評価が大学生の犯罪リスク知覚と犯罪不安に及ぼす影響
- 著者
- 小俣謙二(駿河台大学心理学部)
- 要約
- 犯罪の予測可能性と対処可能性に関する評価が犯罪のリスク知覚や犯罪不安に及ぼす影響を明らかにすることを目的に、4大学の学生688名(男子362名、女子323名、無回答3名;平均年齢19.9歳)を対象に調査を実施した。予測可能性、対処可能性は直接的にリスク知覚に影響を及ぼすと同時に、犯罪不安に直接的、またはリスク知覚を介して間接的に影響を及ぼすと予測された。なお、本研究ではリスク知覚をパーソナルリスク知覚と一般リスク知覚に分け、そして犯罪を対面犯罪と非対面犯罪に分けて分析をおこなった。その結果、1)パーソナルリスク知覚、一般リスク知覚の二つのリスク知覚と予測可能性、対処可能性に関する仮説は、犯罪のタイプに関わらず、支持された。2)予測可能性と対処可能性の犯罪不安への間接的な影響も、犯罪のタイプに関わらず、確認された。3)しかし、犯罪不安への直接的な影響は、予測可能性でのみ認められ、しかもこれは対面犯罪でのみ認められた。
- キーワード
- 犯罪の対処可能性、犯罪の予測可能性、犯罪リスク知覚、犯罪不安、大学生
- 表題
- 解釈レベルと達成目標が将来の予測に及ぼす影響
- 著者
- 樋口 収(一橋大学社会学研究科)
原島雅之(千葉大学地域観光創造センター)
- 要約
- 本研究は、解釈レベルと達成目標が課題にかける時間の予測に及ぼす影響を検討した。解釈レベル理論 (Liberman & Trope, 2008; Trope & Liberman, 2010) によれば、遠い将来について予測するとき(すなわち、抽象的な解釈をするとき)には、抽象的な情報にもとづいて行う。このことから、本研究は、達成目標が勉強時間の予測に及ぼす影響は抽象的な解釈を行うときであるという仮説を立てた。そして、2つの実験を実施して、この仮説を検討した。いずれの実験でも、まず達成目標を測定した。次に、解釈レベルを操作した。具体的には、実験1ではレポートの締め切りという時間的距離感で操作し、実験2では解釈レベル・マインドセットによって操作した。その上で、いずれの実験でも勉強時間を予測させた。すると、いずれの実験においても、抽象的な解釈をするときのみ、達成目標が勉強時間の予測に影響を及ぼしており、仮説は支持された。解釈レベルが将来の予測に及ぼす影響について考察した。
- キーワード
- 解釈レベル、時間的距離感、達成目標、予測