第28巻 第2号 2013年1月 和文要約
- 表題
- 在日コリアンに対する古典的/現代的レイシズムについての基礎的検討
- 著者
- 高 史明(東京大学大学院)
雨宮有里(法政大学)
- 要約
- アメリカでの黒人に対するレイシズムの研究は、近年、伝統的な露骨な偏見である古典的レイシズムに加え、人種偏見を否定しつつも偏見を抱くより微妙な現代的レイシズムが現れていることを示してきた(McConahay, 1986)。本研究では、日本人大学生に対する質問紙調査を行い、探索的因子分析により、在日コリアンについてもこの2つの区別が可能であることを明らかにした。また、偏見の帰結として、2つのレイシズムは在日コリアンに対する矛盾する不満を同時に強めること、在日コリアンの職業等の推測に対して予測された効果を持つことを明らかにした。さらに、この2つの偏見の規定因として、プロテスタント的労働倫理(Mirels & Garrett, 1971)が偏見を強め、人道主義-平等主義(Katz & Hass, 1988)が偏見を弱めることを示した。本論文は、これらの発見の示唆を議論した。
- キーワード
- 偏見、古典的レイシズム、現代的レイシズム、プロテスタント的労働倫理、人道主義‐平等主義
- 表題
- 表情・言語的シグナルに対する罰行使行動の検討
- 著者
- 大薗 博記 (早稲田大学)
渡部 幹 (早稲田大学)
吉川 左紀子 (京都大学)
- 要約
- 笑顔は真似をするのが困難であるため、信頼性のシグナルになりうる。一方、より真似をするのが簡単な言語情報も、信頼性のシグナルでありうる。何故なら、自らが信頼できると述べた人は、嘘をついたことが判明した場合、罰を行使されやすいからである。本研究では、言語的情報、もしくは表情によって、自らの信頼性を表明したにも関わらず信頼を裏切る行為をした人物に対する罰行使行動について検討した。本実験では、実験参加者は常に信頼ゲームにおける提供者の立場であり、実験1では67人の参加者に相手の言語的情報(質問紙への回答:信頼性高/中立)、実験2では100人の参加者に顔写真(笑顔/真顔)が呈示された。そして、参加者は相手に対してどれぐらい金銭を提供するかを決定した。相手の選択(平等分配/独占)が呈示された後、参加者は相手を罰する機会が与えられ、相手の金銭を減らすことができた。その結果、言語的情報による嘘は強い罰行使を受ける一方で、表情による嘘(笑顔)ではそのような傾向はみられなかった。最後に、信頼性シグナルとしての言語情報と表情の異なるメカニズムについて、論じられた。
- キーワード
- 笑顔、言語情報、シグナリング、信頼、罰
- 表題
- “燃え尽き”のイメージ:新聞記事データベースの内容分析及び質問紙実験による検討
- 著者
- 井川純一 (広島大学大学院総合科学研究科)
中西大輔・志和資朗 (広島修道大学人文学部)
- 要約
- 本研究の目的は日本において“バーンアウト / 燃え尽き”がどのようなイメージで捉えられているかについて明らかにすることである。まず研究1において新聞記事の内容分析により、“バーンアウト / 燃え尽き”の使用法を確認した。その結果ほとんどがネガティブなイメージで使用されていたが、テーマと言及主体 (記事中で「燃え尽きた」と言っている人のこと) がイメージに関係していることが示唆された。ヒューマンサービスを扱った記事では“燃え尽き”は極めてネガティブに捉えられている一方、スポーツ選手を扱った記事(特に本人が“燃え尽き”について言及している場合)ではポジティブに捉えられる傾向にあった。研究2の質問紙実験では、このテーマの効果(ヒューマンサービスよりもスポーツがポジティブに判断される)が再度確認された一方、言及主体の効果は示されなかった。これらの結果は、一般人の間に普及している“燃え尽き”の概念は、学術的に定義される“燃え尽き(バーンアウト)”とズレがあることを示しており、今後邦訳についても再考の必要がある。
- キーワード
- 燃え尽き、バーンアウト、ヒューマンサービス、新聞記事データベース、内容分析
- 表題
- 矯正施設における公正な社会的相互作用と秩序の認知
- 著者
- 今在 慶一朗 (北海道教育大学)
内山 博之 (法務省)
今在 景子 (名古屋大学)
- 要約
- 従来の矯正教育では、被収容者の人格変容は「人格的接触」を通じて行われると考えられてきた。しかし、近年の研究によれば、カウンセリングのような心理的介入には有効な効果が期待できない、あるいはしばしば悪影響をもたらすことが確認されている。本研究では、被収容者を公正に処遇することを通して、社会秩序が維持されていることを知覚させることが、教育上、効果的であると予測した。被収容者に職員、施設の決定に対する態度、社会秩序に対する見解について回答を求めた。分析の結果、公正な処遇が反則調査、懲罰審査の決定、更生に対する意思,秩序の内面化を促進することが確認された。さらにまた、被収容者にとって職員の公正さは、施設の秩序が維持されていることの指標になっていることを確認した。
- キーワード
- 社会的相互作用、手続き的公正、権威、秩序
- 表題
- 手続き的公正基準としてのバイアスの抑制と利己的バイアスが公正知覚に及ぼす影響
- 著者
- 原田 耕太郎(徳島文理大学文学部)
- 要約
- 偏りの抑制は、Leventhal(1980)が提唱した手続き的公正基準の1つであり公正知覚を向上させると予測できる。また利己的バイアスは、知覚者にとって好ましい結果はそうでない結果よりも肯定的な反応を生じさせると予測できる。利己的バイアスは、好ましくない結果において顕現化されやすいことから、偏りの抑制がなく好ましくない結果の条件が他の条件と比べ公正知覚が低くなるという交互作用が期待される。予測の検証のために使用したシナリオは、De Cremer(2004)の研究1で用いられたシナリオを基にして作成した。実験には大学生60名が参加し、分析されたデータ数は55であった。実験の結果、これらの予測はおおむね支持された。本研究の結果から、公正知覚において手続き的公正の方が利己的バイアスよりも優勢だが、利己的バイアスの影響も無視できないと推論できる。
- キーワード
- 公正知覚、手続き的公正、偏りの抑制、利己的バイアス
- 表題
- 対人的後悔の表明が被表明者の信頼行動に与える影響
- 著者
- 小宮 あすか(神戸大学大学院人文学研究科)
渡部 幹(早稲田大学日米研究機構)
- 要約
- 近年、後悔には失敗を繰り返さないような意思決定を導く「経験の機能」のあることが示されてきている。一方、先行研究は、感情には経験による機能だけではなく、「表出(表明)による機能」があることを論じているが、後悔の表明の機能を示した研究はまだ少ない。本研究では、対人的後悔(他者に損失を与える状況での後悔)に着目し、謝罪研究における罪悪感・悔恨との関連を踏まえ、Van Kleef et al.(2006)の呈示した「対人的後悔を表明することは、表明者の将来の行動変容と対人的敏感さを予測させ、関係構築に役立つ」という仮説を再検討した。この結果、予測通り、対人状況で後悔していることを表明した人は、表明していない人と比較して、他者から高い信頼を得て、取引相手として好ましいと思われていた。後悔の経験と表明の機能の可能性について考察する。
- キーワード
- 後悔、後悔の表明、信頼ゲーム