第29巻 第1号 2013年8月 和文要約
- 表題
- 性犯罪被害者に対する第三者の非難と心理的被害の過小評価に影響を及ぼす要因:被害者の社会的尊敬度と暴力的性に対する女性の願望に関する誤解
- 著者
- 小俣謙二(駿河台大学心理学部)
- 要約
- 本研究は、性犯罪被害者非難や心理的被害の評価において、被害者の社会的尊敬度と暴力的性に対する女性の願望に関する第三者の態度が交互作用的に影響する可能性を検討することを目的とした。調査は399名(男子177名、女子222名)の大学生を対象に行った。社会的尊敬度は次のように操作した。低社会的尊敬度の被害者としてキャバクラでアルバイトをする女子学生の条件を設定し、一般の社会的尊敬度の被害者として一般女子学生を設定した。その結果、以下の結果が得られた。低社会的尊敬度被害者条件では一般学生の被害者条件よりも強く非難され、心理的被害は小さく評価された。さらに、社会的尊敬度と回答者の、暴力的性を女性が求めている、という誤った信念との交互作用は被害者非難でのみ見出された。すなわち、暴力的性を女性が求めるという認知が弱い回答者でのみ社会的尊敬度の影響が認められた。
- キーワード
- 性犯罪、被害者非難、社会的尊敬度、暴力的性に対する女性の願望に関する誤解、心理的被害の過小評価
-
- 表題
- 社会心理学データに対する分位点回帰分析の適用:ネットワーク・サイズを例として
- 著者
- 石黒 格(日本女子大学人間社会学部)
- 要約
- 社会心理学領域で用いられる分析手法は、そのほとんどが目的変数の分布の中心を分析対象とする。この技術的制約を受けて、研究者の視点や理論的考察も、分布の中心にのみ集中してきた。しかし、目的変数の変化は分布全体の形状変化でありうる。それが理論的な必要性によらないなら、分布の中心への関心の集中は、解決を必要とする問題となる。本研究は、分位点回帰分析によって、この問題を改善できることを示す。事例としてパーソナル・ネットワークの内層である共感グループのサイズを目的変数としたときの外向性の効果が目的変数の分布の上側(右側)と下側(左側)で異なることを理論的に予測し、分位点回帰分析で検討した。その結果、分布の右側において、左側よりも外向性との正の関係が強かった。外向性の上昇により、共感グループのサイズの分布は、単に右に平行移動するのではなく、全体に右に移動しつつ、右裾が長くなるという変化をしていた。
- キーワード
- 分位点回帰分析、分布の形状、方法論、パーソナル・ネットワーク、外向性
-
- 表題
- ゲーム法を用いた場合の最後通告ゲームにおける意図の効果
- 著者
- 田中大貴(神戸大学大学院人文学研究科)
- 要約
- 不公正な相手を罰しようとする性質は、提案者が2プレイヤー間におけるある固定金額の配分を定め、回答者がその配分額を受け入れるか拒否するかを選択する最後通告ゲームを用いてこれまで研究されてきた。その結果、先行研究は提案者の不公正な意図の存在によって回答者の拒否率が上がることを明らかにした。しかし、これらの先行研究は全て戦略法(具体的な提案が示される前に回答者が様々な提案に対して拒否するか否かを決定する方法)によって実施されている。本研究の主要な目的は、不公正な意図の効果の再現性を、回答者が実際の提案に対し選択を行う状況において検討することであった。したがって本実験では、参加者が意図のある/ない不公正な提案(提案者に総額の90%が配分される)を受けた上でその提案を受け入れるか否かを決定した。実験結果は、不公正な提案が意図あり条件において、意図なし条件よりも拒否されやすい傾向にあったことを示している。
- キーワード
- 罰、最後通告ゲーム、意図、戦略法、ゲーム法
- 表題
- 攻撃性の顕在的・潜在的測度による攻撃行動の予測
- 著者
- 山脇望美(名古屋大学大学院教育発達科学研究科)
山本雄大(東北大学大学院文学研究科)
熊谷智博(大妻女子大学文学部)
大渕憲一(東北大学大学院文学研究科)
- 要約
- 本研究の目的は、攻撃性の顕在的測度と潜在的測度が攻撃行動を予測するのかどうか、また、それが挑発の有無によって調整されるのかを検討することであった。実験参加者は大学生71名であり、彼らの顕在的攻撃性はBuss-Perry Aggression Questionnaireを、潜在的攻撃性はIATを用いて測定した。参加者は挑発あるいは非挑発条件で、パートナーの描いた絵を評価して不快ノイズを与えた。その強度を攻撃行動の指標とした。実験の結果、顕在的攻撃性は挑発の有無に関係なく攻撃行動と関連が見られなかった。これに対して、潜在的攻撃性は攻撃行動と有意に関連したが、これは、挑発を受けるか受けないかとは無関係だった。これらの結果は、攻撃性の潜在的測度が攻撃行動の予測に有効だが、顕在的測度はそうではないことを示すものであった。
- キーワード
- 攻撃性、挑発、潜在的自己概念、性格特性
- 表題
- 社会的自己制御における高次/低次解釈と熟慮的/遂行的マインド
- 著者
- 原田知佳(名城大学)
土屋耕治(南山大学)
吉田俊和(岐阜聖徳学園大学)
- 要約
- 本研究では、高次/低次解釈と熟慮的/遂行的マインドセットが社会的場面における自己制御へ及ぼす影響を検討した。実験参加者は、操作課題に回答することによって、実験1(n = 97)では高次解釈vs. 低次解釈、実験2(n = 95)では熟慮的マインドセットvs. 遂行的マインドセットの各認知・思考状態を形成した。続いて、社会的自己制御(自己主張、持続的対処・根気、感情・欲求抑制)が必要とされる葛藤シナリオを読み、葛藤場面における一次目標行動の「価値」「コスト」、「誘惑の否定的評価」、および一次目標行動の「実行」に回答した。実験1の結果、高次解釈群は低次解釈群よりも、一次目標行動の価値を高め、コストを低く見積もり、一次目標行動を実行する可能性をも高めることが明らかになった。実験2では、行動評価のいずれにおいても、熟慮群と遂行群の違いは示されなかった。本研究結果より、高次解釈の活性化が社会的場面の自己制御行動の促進に繋がる可能性が示唆された。
- キーワード
- 社会的自己制御、解釈レベル、熟慮的/遂行的マインドセット
- 表題
- 抑制、表出、反芻傾向と感情プライミング効果の関係
- 著者
- 及川昌典(同志社大学心理学部)
及川 晴(日本学術振興会特別研究員RPD・同志社大学心理学部)
- 要約
- 意識的にコントロールすることが困難な感情プライミング効果が生じる背景には、感情を意識的に抑制しようとすることに伴う感情の活性化が関与している可能性を検討するために、感情誤帰属手続き(AMP: Payne,Cheng,Govorun,& Stewart,2005)を用いた実験が行われた。ポジティブないしネガティブなプライム写真は、それを無視するように明確に教示されていたにも関わらず、後のターゲット刺激の評価に影響していた。しかし、このような感情プライミング効果は、プライム写真に対する感情反応を無視せずに表出するように求められた条件では観察されなかった。また、このような感情反応の表出が感情プライミング効果に及ぼす影響は、プライム写真がネガティブなものであったときに限り、反芻傾向の個人差によって調整されていた。これらの結果から、感情プライミング効果の生起には、自動的な感情反応の抑制が関与している可能性が示唆された。
- キーワード
- 感情抑制、感情表出、反芻傾向、感情プライミング、感情誤帰属手続き