第29巻 第2号 2013年11月 和文要約

表題
内集団ひいき行動の適応的基盤: 進化シミュレーションを用いた検討
著者
小野田竜一(北海道大学)
高橋伸幸(北海道大学)
要約
 自分と同じ集団の成員に対しては異なる集団の成員に対するよりも協力的に振る舞う行動を「内集団ひいき行動」と呼ぶ。しかし、このような内集団ひいき行動がなぜ適応的になるのかについて、十分な説明は未だ提供されていない。本研究では、一連のコンピュータ・シミュレーションを行い、進化的観点からこのような行動を説明することを試みた。シミュレーションではギビングゲームが用いられ、AとBの二つの集団から成る社会が想定された。各ゲームでは、各プレイヤーはある一定量の資源を与えられ、その中から誰にどの程度提供するかを決定した。その結果、内集団ひいき戦略が資源を提供する対象者の選別基準として厳しいもの(内集団ひいき戦略を採用していないプレイヤーに資源を提供したプレイヤーにも資源を提供しない)を採用する場合に限り、内集団ひいき戦略は適応的となること、更にこのような厳しい選別基準を持つ戦略であれば、内集団ひいき戦略以外の戦略でも適応的となることが明らかにされた。このことは、自分と同じ戦略との間でのみ資源交換の輪を作り出す戦略が適応的であることを示している。
キーワード
内集団ひいき、一般交換、間接的互恵性、利他行動、集団協力ヒューリスティック
表題
日本人のレスポンス・スタイル:構造方程式モデリングを用いた探索的研究
著者
田崎勝也(青山学院大学国際政治経済学部)
二ノ宮卓也(扇港産業)
要約
本調査の目的は、構造方程式モデリングを援用し、日本人のレスポンス・スタイルを探索的に検証することである。段階評価の反応回数をもとに回答傾向を規定するこれまでの研究手法では、質問項目の測定内容と交絡するため、真のレスポンス・スタイル特性を捉えることが難しかった。そこで本調査では、Billiet & McClendon (2000)による確証的因子分析を用いた取り組みを参考に、潜在的な回答特性が項目反応に与える一定の効果を「スタイル因子」として測定することで、レスポンス・スタイルの同定を試みた。測定内容の異なる2尺度によって得られたデータを分析した結果、いずれの尺度においても、盲目的に項目に同意もしくは非同意する傾向を示す黙従反応傾向(ARS)が明らかになった。一方で、これまでに言われてきた「極端回答を避け中間回答を好む」という日本人の回答傾向を示唆する堅固なエビデンスは認められなかった。
キーワード
レスポンス・スタイル、黙従反応傾向、極端反応傾向、中間反応傾向、構造方程式モデリング
表題
集団間不公正に対する報復としての非当事者攻撃の検討
著者
熊谷智博(大妻女子大学)
要約
本研究では直接被害を受けていない非当事者が、内集団の不公正な処遇に対して行なう攻撃行動に関して、それが報復的攻撃であることを検討した。64名の実験参加者が、内集団成員からの平等/不平等な分配を経験した後、外集団の成員によって内集団成員/外集団成員が不平等分配を受ける様子を観察した。次に参加者はその不平等分配を行った外集団成員に対する攻撃として、不快なノイズ音を聞かせる機会を与えられた。結果は内集団から平等な分配を受けた参加者は、不平等な分配を受けた参加者よりも、内集団と自己を強く同一視していた。また被害者が内集団成員の場合、集団同一視の強さが内集団への不平等分配の不公正知覚を強め、それが敵意を介して攻撃行動を強めることが明らかになった。最後に非当事者攻撃の心理過程と現実の集団間紛争との関連性が議論された。
キーワード
社会的公正、集団同一視、非当事者攻撃
表題
公共的意思決定場面において当事者性と利害関係が信頼の規定因に与える影響
著者
佐藤浩輔(北海道大学大学院文学研究科/日本学術振興会)
大沼 進(北海道大学大学院文学研究科/社会科学実験研究センター)
要約
本研究の目的は、公共的意思決定場面における行政主体への信頼とその規定因に対して利害の一致・不一致や当事者性といった社会的要因がもたらす影響を、実験的手法を用いて明らかにすることにある。参加者の当事者性(高低)、および当事者性が高い場合の利害の方向(一致・対立)を操作し、シナリオ実験により、信頼が意図と能力への期待からなるという伝統的な信頼モデルと、主要な価値の類似が信頼の主要な規定因だとする主要価値類似性モデルの知見に立脚しつつ、2つの仮説を検討した:1)政策との利害の方向性は信頼および価値類似性の評価に影響を与える、2)意図への期待は評価者の立場によらず一貫して信頼を説明する。2つの実験結果からはほぼ一貫して仮説が支持される結果が得られ、公共的決定場面における価値類似性の位置づけについて考察した。
キーワード
決定主体への信頼、公共的意思決定、リスクコミュニケーション、SVSモデル、当事者性
表題
聴衆の存在と話者の拒否回避欲求がスピーチ予期時の生理心理的反応に及ぼす影響
著者
吉澤英里(青山学院大学教育人間科学部)
要約
本研究の目的はスピーチの予期による生理心理的反応に聴衆の有無と話者の拒否回避欲求が与える影響を検討することである。実験参加者は聴衆のいる部屋もしくはいない部屋で3分間のスピーチを行い、スピーチ前後の否定的感情と唾液中コルチゾールを測定した。聴衆の前でスピーチを行うと、話者の拒否回避欲求の高低にかかわらずスピーチ直前の否定的感情が高まった。さらに拒否回避欲求の高い話者のみコルチゾールが増加した。一方、聴衆のいない部屋でスピーチを行うと、拒否回避欲求の高い話者はスピーチ直前の否定的感情が高まったが、拒否回避欲求の高低にかかわらずコルチゾールは変化しなかった。結果から、スピーチの予期による生理心理的反応には聴衆の有無と話者の拒否回避欲求が相互作用的に影響することが示唆された。
キーワード
スピーチ、否定的感情、唾液中コルチゾール、拒否回避欲求、聴衆
表題
地域コミュニティにおける集団内関係志向的認知と集合効力感および参加協力意図との関連:奈良市における質問紙調査
著者
塩谷尚正(関西大学大学院社会学研究科)
中原洪二郎(奈良大学社会学部)
土田昭司(関西大学社会安全学部)
要約
集合効力感は地域コミュニティの集合行動の規定因になることが先行研究で示されてきた。集合効力感を高める要因としては、地域住民の社会的結びつきの行動面に関心が集められてきた一方で、社会的結びつきの認知面の効果の検討は明らかにされていなかった。本研究では社会的結びつきの認知面に集団内関係志向(Yuki, 2003)の概念を適用し、集合効力感に対する影響と、住民がまちづくりに参加協力しようとする意図を規定する要因としての集合効力感の効果を検証した。奈良市住民500名を無作為抽出し郵送による質問紙調査をおこなった。まず相関分析の結果、参加協力意図と、集合効力感、集団内関係志向的認知、社会的結びつきの行動との正の相関が有意となった。次にパス解析をしたところ、参加協力意図に対して主に集合効力感が直接の規定因となり、集合効力感は集団内関係志向的認知から直接の影響を受けることが示された。
キーワード
地域コミュニティ、集団内関係志向、集合効力感、参加協力意図