第29巻 第3号 2014年3月 和文要約
- 表題
- 高齢者の主観的ウェルビーイングにとって重要な社会的ネットワークとは:性別と年齢による差異
- 著者
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小林江里香(東京都健康長寿医療センター研究所)
深谷太郎(東京都健康長寿医療センター研究所)
杉原陽子(鎌倉女子大学家政学部)
秋山弘子(東京大学高齢社会総合研究機構)
Jersey Liang(ミシガン大学公衆衛生大学院)
- 要約
- 様々な社会的ネットワークと主観的ウェルビーイング(SWB)との関係における、性別・年齢による違いを、高齢者の全国調査データ(N=3,482)を用いて共分散構造分析により検討した。SWBは生活満足度と抑うつにより測定した。ネットワークは、「子どもとの交流」、友人・近隣との「私的交流」、グループやボランティアへの「社会参加」の3因子で構成された。4種類のネットワーク(配偶者と3因子)のSWBへの効果を、性別×年齢の4群で比較した結果、男女差は後期高齢者(75歳以上)よりも前期高齢者(63~74歳)において顕著で、配偶者の存在と社会参加の生活満足度への効果は、女性より男性で大きい一方、私的交流は女性の生活満足度や抑うつにとって重要であった。また、後期高齢者では前期高齢者より子どもとの交流がSWBと強く関連していた。年齢差が加齢によるのかコホートの違いによるのかについては、さらに研究が必要である
- キーワード
- ウェルビーイング、インフォーマルネットワーク、社会参加、前期高齢者、後期高齢者
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- 表題
- 競争的・非競争的な集団間関係と自己もしくは内集団他者の手がかり情報が合意性推定に及ぼす影響
- 著者
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田村美恵(神戸市外国語大学)
- 要約
- 本研究では、最小条件集団パラダイムを用いて集団間状況を作り出し、集団間関係が競争的もしくは非競争的な場合に、内集団や外集団に関する合意性推定がどのように行われるかについて検討した。236名の大学生を実験参加者とし、自己または内集団他者の「遂行結果」(「成功」または「失敗」)を手がかり情報としてフィードバックした。なお、コントロール群では、遂行結果のフィードバックがなかった。その結果、自己の遂行結果がフィードバックされた場合には、集団間関係が競争的、非競争的のいずれの場合でも、内集団に関してのみ、自己と同一の結果に対する合意性を高く推定するフォールス・コンセンサス効果が見出された。一方、内集団他者の遂行結果がフィードバックされた場合には、内集団では提示された他者と同一の結果に対する合意性が高く推定される一方、外集団では低く推定されるという対比的な推定パターンが見出された。またこの傾向は、集団間関係が非競争的よりも競争的な場合に顕著であった。これらの結果は、集団間関係と手がかり情報の要因が合意性推定に相互作用的に影響を及ぼすことを示している。
- キーワード
- 合意性推定、集団間関係、自己、内集団他者
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- 表題
- 東日本大震災における軽度被災者のメンタルヘルスに対するソーシャル・サポートの負の効果
- 著者
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塩谷芳也(日本学術振興会)
- 要約
- 本研究の課題は、東日本大震災発生直後の困難な状況において実行されたソーシャル・サポートが半年後の被災者のメンタルヘルスに及ぼした影響を明らかにすることである。2011年9月9日に被災経験を持つ宮城県の18~69歳の男女1000名を対象にインターネット調査を実施した。抑うつ傾向の測定尺度としてK6日本語版を使用した。地震発生から1ヶ月間に受領したソーシャル・サポートの種類と回数を測定した。軽度被災者(n=781)と重度被災者(n=219)にサンプルを分割して分析した結果、軽度被災者の場合のみ、精神的に励ましてもらった人びとほど、半年後に抑うつ傾向を持ちやすいことが分かった。家族との死別などのストレスフル・イベントや震災発生から1ヶ月間の抑うつ傾向を統制しても両者のあいだには有意な関連が見られた。軽度被災者の震災をめぐる両義的なアイデンティティという観点から、精神的な励ましがメンタルヘルスを悪化させるメカニズムについて説明した。
- キーワード
- 東日本大震災、精神的な励まし、抑うつ傾向、軽度被災者の両義的なアイデンティティ
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- 表題
- 新聞記事言説による「いじめ」の社会的な構成と解離:助詞分析による検討
- 著者
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八ッ塚一郎(熊本大学)
- 要約
- 新聞記事言説によって社会的な現実としての「いじめ」がどのように構成されているかを検討する。三大紙のデータベース全文検索機能を使用し、助詞分析により動詞「いじめる」の能動形と受動形、名詞「いじめ」の主語、目的語等の用法について、各年の出現比率を検討した。動詞では受動形の比率が能動形を常に上回っており、受け身の被害として事態が記述される傾向がみられた。名詞では特定の年に急激な主語化がなされる一方、それ以外の年には記事数自体が減少しており、リアリティのあり方が一貫していないことが示された。常に発生し得る人間の主体的な行為であるにもかかわらず、まれな自然現象のように「いじめ」のリアリティは構成されていた。社会的表象の解離という概念を導入してこの現象を解釈するとともに、事態の打開に向けた提言を試みた。
- キーワード
- 新聞記事 言説分析 助詞分析 「いじめ」 社会的表象
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- 表題
- シルバー人材センターにおける活動が生活満足度に与える影響―活動理論(activity theory of aging)の検証―
- 著者
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中原 純(日本学術振興会/東京女子大学)
- 要約
- 本研究では、シルバー人材センターでの活動頻度は活動者としての役割アイデンティティや自尊感情を良好にするプロセスを経て生活満足度を良好にする、という活動理論によって仮定される因果関係の検証を行った。方法は、I市シルバー人材センターに所属する高齢者279名(男性187名、女性92名、平均年齢68.84±7.25歳)に対する質問紙調査であり、センター事務局にて質問紙の配布および回収を行った。パス解析の結果、活動頻度と役割アイデンティティ、役割アイデンティティと自尊感情、自尊感情と生活満足度の関係はそれぞれ有意であり、仮説は概ね実証された。以上から、活動理論によって仮定されるように、シルバー人材センターでの活動は個人内のプロセスを経て、生活満足度を良好にしていると考えられる。
- キーワード
- シルバー人材センター、高齢者、活動理論、役割アイデンティティ、生活満足度
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- 表題
- 字のクセを好きになるか?:筆跡に基づく単純接触効果の般化
- 著者
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川上直秋(筑波大学人間系)
菊地 正(筑波大学名誉教授)
吉田富二雄(東京成徳大学応用心理学部)
- 要約
- 単純接触効果は、接触した文字列と共通の抽象的構造(人工文法)に沿った未接触の文字列へも般化することが知られている。本研究では、筆跡に基づく単純接触効果の般化を検討した。実験では、まず参加者は手書きで筆記されたひらがな文字列へ反復して接触した。その後の測定フェイズでは、参加者は同一文字列条件か異文字列条件のいずれかに割り当てられた。同一文字列条件の参加者は、直前の接触フェイズと同一の手書き文字列への評価を行い、異文字列条件の参加者は、接触時と同じ人物によって筆記された未接触の文字列への評価を行った。その結果、強度としては弱いながらも、単純接触効果は同一文字列条件だけでなく、異文字列条件においても生起していた。これは、接触時と同じ筆跡をもつ新奇な文字列へと単純接触効果が般化したことを意味する。最後に、知見のインプリケーションと今後の展開について議論された。
- キーワード
- 単純接触効果、筆跡、般化、クセ
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