第30巻 第1号 2014年8月 和文要約
- 表題
- 宇宙空間における重力基準系の変化は人にどのような影響を与えるか:身体定位、認知、対人関係の変化を中心に
- 著者
-
野口 聡一(東京大学)
木下 冨雄(国際高等研究所)
- 要約
- 本研究の目的は、地球上とは異なる宇宙空間での微小重力環境への適応過程において人々が経験するであろう身体定位、認知、対人関係の変化を明らかにすることである。
地球上では人間は自己の身体定位を視覚情報と重力情報という二つの独立した基準系により認知している。ところが宇宙空間では微小重力環境となり重力情報が失われる。本研究の第一段階では、このような感覚縮減状況において、人間がどのように自己存在確立の基盤となる身体定位を回復するのか、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。さらに第二段階として、この基準系の喪失が地球環境で機能してきた動作的・認知的・社会的な認識能力にどのような変容をもたらすのか、特に対人関係にどのような変化が現れるのか、社会心理学的観点に立脚したケース研究を行う。
- キーワード
- 宇宙飛行士、空間認識、微小重力環境、認知システム、対人関係
-
- 表題
- 量刑分布グラフによるアンカリング効果についての実験的検証
- 著者
-
綿村英一郎(慶応義塾大学文学部/日本学術振興会)
分部利紘(東京大学医学系研究科/日本学術振興会)
佐伯昌彦(千葉大学法経学部)
- 要約
- 本研究は、量刑分布グラフが素人の量刑判断に及ぼす影響について検証した。実験1では、大学生参加者に公判の音声を聞かせ、その被告人に対する刑期を判断させた。その参考として、類似事件の刑期グラフが呈示された。グラフにはピークのあるものとないものとの2種類があり、ピークは公判の重犯罪に対して軽めに設定されていた。実験1の結果、ピークありのグラフを見た参加者は、なし群に比べ有意に刑期を短く判断しており、ピークがアンカーとして判断に影響していたことが示された。さらに実験2からは、同じ量刑分布のデータである場合にはグラフのほうが表よりも強く影響し、同じ形状のグラフであっても量刑分布のデータでなければ影響しないということが示された。したがって、量刑分布グラフによるアンカリング効果は、量刑分布のデータであるということを前提として、誘目性の高いピークに判断がひきつけられるとき特に生じやすいと考えられる。
- キーワード
- 量刑判断、裁判員、刑事裁判、アンカー、アンカリング効果
-
- 表題
- 政治過程におけるオンラインニュースの効果:政治的知識に及ぼす直接的・間接的効果
- 著者
-
宮田加久子(明治学院大学)
安野智子(中央大学)
市川芳治(慶應義塾大学)
- 要約
- 本研究では、伝統的なマスメディア(新聞・テレビ)とオンラインニュースへの接触が、身近な人との政治的会話や政治的知識の獲得、政治的関心の涵養にどのような影響を及ぼすのかという問題について、ウェブ調査、アクセスログ、日記式マスメディア接触調査のデータで検証した。その結果、(1)オンラインニュースとテレビニュースへの接触は政治的関心と政治的知識を高める、(2)テレビ・新聞でのニュース接触は、家族や友人等との政治的会話や議論を促進する一方、オンラインニュース接触はオンラインでの議論にのみ効果がある、(3)家族との会話は政治的関心や知識にプラスの効果を持つが、友人との会話は政治的関心を高める一方で知識には効果がない、という知見が得られた。最後に、政治情報への偶発的な接触が、政治的関心や知識の格差を解消する可能性について考察を加えた。
- キーワード
- オンラインニュース、政治的議論、政治的知識、政治的関心、アクセスログ
-
- 表題
- 東日本大震災に伴う風評被害:買い控えを引き起こす消費者要因の検討
- 著者
-
工藤大介(同志社大学大学院心理学研究科)
中谷内一也(同志社大学心理学部)
- 要約
- 本研究では、東日本大震災に伴い発生した風評被害と呼ばれる買い控え行動がなぜ発生するのか、消費者の心理学的要因に着目し検討を行った。予備調査を実施し、二重過程理論に基づいて、感情的(System1)要因群 – ネガティブ感情、福島への連想、被災地支援、放射線不安 – と、理性的(System2)要因群 – 知識による判断、合理的判断 – を抽出した。共分散構造分析の結果、初期モデルでは多重共線性の影響が示されたため、System1要因群のうちネガティブ感情、福島への連想、放射線不安を統合し、放射線・原発不安とした。この要因を組み込んだ共分散構造分析の結果、放射線・原発不安要因が買い控え行動に繋がるが、一方で、被災地支援要因は買い控えの抑制に効果的である可能性が示唆された。最後に、風評被害としての買い控えに対する今後の対策について議論した。
- キーワード
- 風評被害、スティグマ、二重過程理論、東日本大震災
-
- 表題
- 新しいシルエット図による若年女性のボディイメージと身体意識の関連についての再検討
- 著者
-
鈴木公啓(東京未来大学)
- 要約
- 本研究は、若年日本人女性のボディイメージの歪みとボディイメージのズレの実態について改めて明確にした上で,ボディイメージの歪みおよびズレと身体不満や痩身願望等の身体意識との関連について明らかにすることを目的とした。BMIに回答を変換可能な客観的データに基づいた新たなシルエット図(J-BSS-I)を用いて検討したところ,以下の点が明らかとなった。若年女性の現在の自身の体型についての認知の歪みは確かに存在するが、その歪みの程度はそれほど大きいものではなかった。また、女性の同性同士の視線が、痩身願望を増長する要因である可能性が考えられた。そして、理想が極めて痩せた体型であり、その理想を基準とした現在に対する評価が身体不満や痩身願望等に関連している可能性が示唆された。そのほかにも、様々なボディイメージの特徴が明らかになった。
- キーワード
- ボディイメージ(身体像、body image)、シルエット図、ボディイメージの歪み(ボディイメージの過見積もり)、ボディイメージのズレ、痩身願望
-
- 表題
- 後部座席のシートベルト着用義務化に関する縦断的研究
- 著者
-
小池はるか(高田短期大学)
髙木 彩(千葉工業大学)
北折充隆(金城学院大学)
- 要約
- 2008年6月に、前席のシートベルト着用が義務化されてから、20年以上努力義務にとどまっていた、後部座席のシートベルト着用が義務化された。義務化前から一般道での取り締まりが開始されるまでのように、過去に習慣化されていなかった交通ルールが、段階的に施行されていく中で、どのように定着していくのかを明らかにする研究は、皆無に等しい。そこで本研究では、運転席・助手席・後部座席で、シートベルト非着用を悪質だと判断する程度がルールの導入によってどのように変化していくのかを検討した。着用義務化前より、一般道での非着用が取り締まり対象となった2010年まで、5時点間での縦断調査を実施した。その結果、着用義務化直後に、後部座席シートベルト着用率、および義務化とは無関係のはずの後部座席シートベルト着用に対する重大性評価が上がることが示された。特に重大性評価の結果は、「取り締まりをするから危険なのだ」といった、取り締まりに触発された形での、危険性評価の上昇と解釈できる。
- キーワード
- シートベルト、道路交通法、重大性評価、縦断調査
-