第31巻 第2号 2015年11月 和文要約

表題
成人形成期の子どもの父親に対する態度を規定する要因:父親からの行動に関する子どもの認知に着目して
著者
大髙瑞郁(山梨学院大学法学部政治行政学科)
唐沢かおり(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
成人形成期の子どもの父親に対する態度は、父親の子どもへの関与頻度以外の要因に規定される可能性が考えられるが、どのような要因が影響を与えるのかは未だ明らかにされていない。そこで本研究は、父親からの被視点取得と父親からの否定的行動に関する非難に着目し、 これらの要因が子どもの父親に対する態度を左右するか否か検証することとした。変数間の因果関係を明らかにするため、日本人大学生501名に対し、約2カ月の期間をおいて2波のパネル調査を実施した。結果は、子どもが息子の場合、父親からの行動を肯定的に認知することによって、父親に対する態度が肯定的になることを示した。考察では、息子の父親の関係について本研究から得られる示唆について、娘と父親の関係や、母子関係と比較して議論している。
キーワード
成人形成期、子どもの父親に対する態度、子どもの認知、パネル調査、因果関係
表題
多元的無知の先行因とその帰結:個人の認知・行動的側面の実験的検討
著者
岩谷舟真(東京大学大学院人文社会系研究科)
村本由紀子(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究は、多元的無知の先行因とその帰結について、特に個人のマイクロ過程に着目して検討した。日本人大学生が実験室実験に参加し、別室のパートナー(実は実験協力者)と対面した。彼らはまず、グミの味の好みに関する選択課題を複数回行った。次に、パートナーも同じ課題で自分と同じ回答をしたと知らされ、その情報に基づいて他者の好みを推測した。続いて、自分とパートナーに対する実験参加謝礼として1種類のグミだけを選択するよう求められ、そのうえで再び、グミの味の好みを評価した。結果は、以下のような多元的無知の先行因から帰結までのプロセスを示唆していた。: 1)人は、自分が行った「消極的選択」(より嫌いな方を避けるための選択)と同じ選択を他者が行っていた場合でも、他者の選択は当人の選好を反映した「積極的選択」の結果であると解釈しやすい。2)推測された他者の選好が自分の選好と異なっていた場合、人は自分の選好に反して、推測された他者の選好に合致する行動を選択しやすい。3)人は、他者に合わせて自己の選好に合致しない行動をとった場合、自らの行動を正当化するよう動機づけられ、行動と同じ方向に自身の選好を変化させやすい。
キーワード
多元的無知・対応バイアス・認知的不協和・文化・マイクローマクロ連関
表題
Web調査の回答形式の違いが結果に及ぼす影響:複数回答形式と個別強制選択形式の比較
著者
江利川 滋(株式会社TBSテレビ)
山田一成(東洋大学社会学部)
要約
本研究の目的は、Web調査において、複数回答 (MA) 形式と個別強制選択回答 (FC) 形式とで回答が異なるかを検証することである。2010年3月に日本の首都圏で実施された成人男女を対象とするWeb調査 (N=1,559) のデータを分析した結果、以下の知見が得られた。(1) MA形式ではFC形式より項目選択数が少なく回答時間が短い。(2) MA形式においては、項目の回答率が先頭にある場合よりも末尾にある場合のほうが低くなる傾向がある。こうした結果は、MA形式において弱い最小限化による回答が発生している可能性を示唆している。なお、以上の傾向は、判断によって回答される意識質問だけでなく、想起によって回答される行動質問でも認められる。ただし、FC形式とMA形式の回答率の差は、意識質問の方で大きくなる傾向が認められる。
キーワード
複数回答形式、個別強制選択形式、最小限化、回答時間、Web調査
表題
オンライン調査モニタのSatisficeはいかに実証的知見を毀損するか
著者
三浦麻子(関西学院大学)
小林哲郎(国立情報学研究所)
要約
Webを用いたオンライン調査回答に際するモニタの行動について、Satisfice(協力者が調査に際して応分の注意資源を割こうとしない回答行動)に注目して実験的に検討した。まず、Satisfice傾向がどの程度特性依存的なのかを検討した.ニュース映像を模した動画刺激への接触を要するオンライン調査場面で、個人の映像視聴時間を測定したところ、先行研究(三浦・小林, 2015)で尺度項目を読み飛ばしていた回答者において映像を正しく視聴しない「見飛ばし」Satisficeをするケースが高い比率で見られた。さらに、実験的操作を含むオンライン調査におけるSatisficeが実証的知見の導出に及ぼす影響について、議題設定効果とメディア・プライミング効果を用いて検討した。いずれについても「見飛ばし」Satisficeをした協力者のデータが実証的知見を毀損する方向に働く可能性が示された。
キーワード
オンライン調査、Satisfice、議題設定効果、メディア・プライミング効果
表題
内集団ひいきと評価不安傾向との関連:評判維持仮説に基づく相関研究
著者
三船恒裕(高知工科大学)
山岸俊男(東京大学)
要約
評判維持仮説に基づき、自身の評判を気にする心理傾向と内集団ひいき傾向との相関関係を検証した。最小条件集団状況における囚人のジレンマゲームを用い、相手の所属集団および所属集団に関する知識を操作した実験を非学生サンプルに対して実施した。結果、先行研究と同様に、互いに所属集団の知識を共有している場合にのみ内集団ひいきが生じ、自身のみが相手の所属集団を知っている場合には有意な内集団ひいきは生じなかった。さらに、前者の状況で生じた内集団ひいきとFear of Negative Evaluationの得点が正相関を示した。これらの結果は、評判維持仮説の予測を支持している。
キーワード
内集団ひいき、囚人のジレンマゲーム、最小条件集団、評判
表題
日本語版和解傾向尺度の作成:日本語版赦し傾向尺度と日本語版謝罪傾向尺度
著者
大坪庸介(神戸大学大学院人文学研究科)
山浦一保(立命館大学スポーツ健康学部)
八木彩乃(神戸大学大学院人文学研究科)
要約
対人的和解は2つの特性変数により影響される:(i)被害者が加害者を赦す傾向、(ii)加害者が被害者に謝罪する傾向である。バックトランスレーション法を用いて、これらの特性を測定する既存の英語の尺度の日本語版を作成し(日本語版赦し傾向尺度(J-TFS)・日本版謝罪傾向尺度(J-PAM))、その妥当性を検討した。先行研究の知見と同様に、J-TFS得点は協調性・神経症傾向(負の相関)・主観的幸福感と相関していた。J-PAM得点は、協調性・主観的幸福感と相関していた。興味深いことに、これら2つの和解傾向同士も相関しており、この相関は協調性(社会関係において調和を求める程度)を統計的に統制しても有意であった。これに加えて、2つの(実際の赦し・謝罪を含む事例に関する)自伝的回想研究を行い、それぞれの尺度の妥当性を確認した。J-TFSは職場での同僚による攻撃を赦している程度を予測し、J-PAMは誰かを傷つけた後、相手に謝ったかどうかを予測した。
キーワード
赦し、日本語版赦し特性尺度(J-TFS)、日本語版謝罪傾向尺度(J-PAM)、赦し尺度(TRIM)