第31巻 第3号 2016年3月 和文要約
- 表題
- ステレオタイプ抑制による逆説的効果の個人差:認知的複雑性との関係
- 著者
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山本真菜(日本大学大学院文学研究科)
岡 隆(日本大学文理学部)
- 要約
- ステレオタイプを抑制すると、逆説的効果が生じる(すなわち、ステレオタイプ抑制はそのステレオタイプの使用を促進する)。ステレオタイプ抑制による逆説的効果のこれまでの研究では、認知的特性の個人差についてあまり扱われていない。そこで本研究では、認知的複雑性を取り上げ、ステレオタイプ抑制による逆説的効果との関係を検討した。まず、参加者は認知的複雑性を測定するための質問紙に回答した。次に、参加者は文完成課題を行った。この課題によってステレオタイプ抑制が操作された。最後に、参加者は語彙判断課題を行った。この課題ではステレオタイプ関連語または無関連語への反応時間が測定された。その結果、認知的複雑性が低い参加者では逆説的効果が生じやすいが、認知的複雑性が高い参加者では逆説的効果が生じにくいことが示された。認知的複雑性と逆説的効果の関係について考察した。
- キーワード
- ステレオタイプ抑制、逆説的効果、認知的複雑性、代替思考
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- 表題
- 家庭での省エネルギー行動に対する内発的動機付けの長期的な効果:実際のエネルギー使用量と自己申告による省エネ行動を用いた検討
- 著者
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森 康浩(北海道大学大学院文学研究科)
小林 翼(北海道大学大学院文学研究科)
安保芳久(北海道環境財団)
大沼 進(北海道大学大学院文学研究科/社会科学実験研究センター)
- 要約
- 本研究の目的は、家庭での長期的な省エネ行動と関連する要因を外発的・内発的動機付けの観点から検討することである。旭川市在住者69世帯が1年にわたるプロジェクトに参加し、毎月の実際エネルギー使用量(電気、ガス、灯油)を報告し、3回にわたる質問紙調査(開始時、半年後、1年後)に回答した。その結果、楽しい・面白いといった内発的動機付けが自己申告の行動にも実際のエネルギー使用量にも一貫して影響していた。さらに、半年後の内発的動機付けが1年後の行動へ影響していた。一方、ポイントなど外発的動機付けは1年後の行動には影響を及ぼしていなかった。ただし、半年後の外発的動機付けが1年後の内発的動機付けへ影響していた。参加のきっかけとしての外発的動機付けと、行動を長期的に持続させる効果としての内発的動機付けについて議論した。
- キーワード
- 内発的動機付け、家庭での省エネ行動、実際のエネルギー使用量、旭川発おうちのEne-Ecoプロジェクト、長期的な介入
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- 表題
- 「自由」なメディアの陥穽:有権者の選好に基づくもうひとつの選択的接触
- 著者
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稲増一憲(関西学院大学社会学部/社会心理学研究センター)
三浦麻子(関西学院大学文学部/社会心理学研究センター)
- 要約
- 有権者に多くの選択肢を与えるインターネットの普及は、党派性に基づく選択的接触研究への注目を高めたが、実際には党派性に基づきメディアを選択する者は少ない。一方、選択肢の増加に伴う偶発的・副産物的ニュース接触の減少により、娯楽・ニュース志向という有権者の選好が直接接触に反映され、政治・国際ニュースについての知識の差が拡大する選択的接触については、党派性を持つ有権者が少なくとも起こる。本研究は、この選択的接触に注目し、インターネット上のサービスが選好に基づく知識の差を拡大するのか縮小するのかについて検証した。オンライン調査による検証の結果、選好に基づく知識の差の縮小に貢献すると考えられるのは「ポータルサイト」「新聞社サイト」「2ちゃんねるまとめサイト」、差を拡大すると考えられるのは「ニュースアプリ」「Twitter」であった。考察において、今後予想されるメディアの変化に対する本研究からの示唆が議論された。
- キーワード
- インターネット、選択的接触、メディア環境、娯楽志向、政治知識
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- 表題
- 手続き的公正要因としての説明責任と鄭重さに対する中心的・周辺的認知処理の影響:裁判での弁護活動を模したコミュニケーション実験
- 著者
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今在慶一朗(北海道教育大学)
- 要約
- 近年の先行研究によれば、鄭重さと説明責任が手続き的公正感の主要な対人的要因であると考えられる。本研究では、鄭重さを敬語の使用によって、また説明責任を判断根拠に関する情報量によって操作した二つの実験を行った。実験1では鄭重さの効果が確認されたものの、説明責任による効果は確認されなかった。そこで、参加者の説明内容に対する関心を強める作業を付加して実験2を行ったところ、説明責任要因の効果のみが確認された。これらの結果から、認知処理上の周辺ルートが活性化された当事者は鄭重要因によって、また、中心ルートが活性化された当事者は説明責任要因によって手続き的公正感を強めやすくなることが示唆された。実際の裁判であっても、自我関与が高められた当事者や、役割を負った当事者、事実関係を明らかにしたい当事者などは、中心ルートが活性化し、裁判官の鄭重な言動よりも、彼らが示す判断の根拠のようなより理念的、論理的なポイントを精査するようになると考えられる。
- キーワード
- 手続き的公正、対人的要因、説明責任、鄭重さ
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- 表題
- 集団間葛藤時における内集団協力と頻度依存傾向: 少数派同調を導入した進化シミュレーションによる思考実験
- 著者
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中西大輔(広島修道大学人文学部)
横田晋大(総合研究大学院大学先導科学研究科)
- 要約
- 横田・中西(2012)は、集団間葛藤状況下において自集団の協力率に応じて協力する多数派同調傾向(集団応報戦略)が適応的な戦略であることを一連の進化シミュレーションによって示した。集団間葛藤が弱いとき、内集団成員に協力し、自集団の協力率に応じて協力するエージェントが集団の協力を促進した。この結果は多層淘汰理論及び文化的群淘汰理論を支持するものであった。ただし、彼らのモデルでは、多数派同調戦略のみが扱われており、戦略の多様性を検討していなかった。本研究では横田・中西(2012)のモデルに少数派同調戦略を導入した。条件は4つあった: 多数派同調(エージェントは多数派同調を行うが少数派同調は行わない)、同調不可能(エージェントは同調しない)、少数派同調(エージェントは少数派同調を行うが多数派同調は行わない)、混合戦略(エージェントは多数派同調も少数派同調も行う)である。コンピュータ・シミュレーションの結果、少数派同調が導入されると集団全体の協力率が低下することが示された。同調不可能条件の協力率は、少数派同調条件と混合戦略条件のいずれよりも高かった。考察では少数派同調の適応価について議論する。
- キーワード
- 集団間葛藤、内集団協力、多数派/少数派同調、多層淘汰理論、文化的群淘汰理論
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- 表題
- 110番通報の正確性および迅速性と関係する要因:模擬場面を対象とした実験研究
- 著者
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豊沢純子(大阪教育大学 学校危機メンタルサポートセンター)
竹橋洋毅(東京未来大学 モチベーション行動科学部)
- 要約
- 本研究は、110番通報の正確性と迅速性が、言語行動(聞き手、話し手)、会話構造(隣接ペア、話者交替)の要因と関係する可能性を検討した。40名の実験参加者をランダムに通報者役もしくは警察官役に割り当て、ひったくりのシナリオに基づいて携帯電話で会話をしてもらった。分析の結果、言語行動(聞き手、話し手)は、正答の多さ、無回答の少なさ、迅速性の低さと相関していた。会話構造(隣接ペア、話者交替)は、正答の多さ、無回答の少なさと相関し、迅速性とは無相関であった。ただし、隣接ペアは、正確性を踏まえた迅速性の高さと相関していた。考察では、隣接ペアの形成を促す介入のあり方について論じた。
- キーワード
- 110番通報、双方向コミュニケーション、クライシスコミュニケーション、迅速性、正確性
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