第32巻 第1号 2016年8月 和文要約

表題
社会的排斥が集団成員の類似性の知覚に与える影響
著者
津村健太(一橋大学社会学研究科)
村田光二(一橋大学社会学研究科)
要約
社会的排斥とは、集団あるいは個人から無視され、のけ者にされることをさす。人は他者とのつながりなくして生きていくことはできない。そのため、被排斥経験後には再び人とのつながりを得ること(再親和)が重要である。再親和の際には、自身を受容してくれる見込みのある他者、例えば内集団の成員を探す必要がある。そのため、被排斥経験後には、外集団と内集団を見分けられるよう、集団内の成員同士の差異よりも集団間の成員同士の差異をよく見極められるようになる。本研究では、その結果、集団内の成員同士をよく似ていると知覚するようになると予測した。参加者はCyberball課題を通じて排斥条件か受容条件に割り振られ、その後、2種類の社会的カテゴリーについて、内集団と外集団に属する人々の特性の分布をヒストグラムで表現した。実験の結果、排斥された参加者は、されなかった参加者よりも、いずれの集団においても成員同士の類似性を高く知覚することが示された。
キーワード
社会的排斥、集団、類似性、外集団同質性効果
表題
福島第一原発事故による放射線災害地域の食品に対する態度を規定する要因:4波パネル調査による検討
著者
三浦麻子(関西学院大学)
楠見 孝(京都大学)
小倉加奈代(岩手県立大学)
要約
本研究では、2011年9月から2014年3月にかけて4波にわたり実施したパネル調査データにもとづき、福島第一原発事故による放射線災害地域の食品に対する態度の時系列推移を検討した。意思決定の二重過程理論をふまえて、当該態度決定に際してネガティブな感情的意思決定へと方向づける要因として放射線災害の影響に対する不安を、論理的意思決定へと方向づける要因として知識・高次リテラシー・批判的思考態度を想定し、両者の交互作用を含めて実証的に明らかにすることを試みた。放射線災害の影響に対する不安も、放射線災害地域の食品に対する態度にも、震災から3年を経過した時点までに大きな時系列変化はなく、後者については特に被災地から遠い地域でより強い傾向にあった。放射線災害地域の食品に対するネガティブな態度は放射線の人体への影響に関する適切な知識を有することによって低減されるが、一方で知識があるつもりでいることが適切な理解にもとづく熟慮を妨げかねない可能性が示された。
キーワード
東日本大震災、放射線災害、パネル調査、リスク認知、批判的思考
表題
中国文化要素が配慮された社会的スキル・トレーニングプログラムの効果:中国人大学生の自他評価からみた意識と行動の変化を中心とする検討
著者
毛 新華(神戸学院大学)
大坊郁夫(東京未来大学)
要約
本研究の目的は、中国文化に配慮した社会的スキル・トレーニング(SST)プログラムが参加者の対人関係の意識と行動の側面に与える影響を、自己評価と他者評価から検討することである。中国人大学生39名を実験群・統制群に振り分け、それぞれの群には、SSTプログラムと社会的スキルに無関係のプログラムを実施した。また、参加者の行動の変化を検討するために、会話実験と観察実験を行った。その結果、中国的・文化共通的・日本的(一部のみ)社会的スキル尺度に、統制群と比較して、実験群の低得点群において、得点の増加が大きかった。また、会話実験時の行動については、参加者評価と観察者評価のいずれも、実験群の得点の増加は統制群と比べて大きかった。これらの結果から、本研究のSSTプログラムは、参加者の社会的スキルの意識と行動の両面に効果をもたらしたと考えられる。また、中国と日本の文化的要素の同時変動は要素間につながりをもつ可能性を示唆する。
キーワード
社会的スキル・トレーニング、文化、効果、評価、中国人大学生
表題
「知ること」に対する遺族の要望と充足:被害者参加制度は機能しているか
著者
白岩祐子(東京大学大学総合教育研究センター)
小林麻衣子(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
唐沢かおり(東京大学大学院人文社会系研究科)
要約
本研究は、犯罪被害者遺族にとってとくに重要とされる、「事件の全容を知りたい」という要望に着目し、日本の刑事裁判に近年導入された「被害者参加制度」がこの要望の充足に効果をもつかどうかを検証した。殺人事件などの遺族173名を対象とした調査の結果、刑事裁判に参加した遺族においては、「知りたい」という要望がほぼ期待通りの水準まで満たされていること、この要望の充足が、司法制度一般に対する遺族の評価向上につながっていること、また要望が満たされなかったという経験が、司法制度を変革するための遺族の活動につながっていることが確認された。これまで、被害者等に「知る権利」を保障することの重要性は指摘されてきたが、本研究ははじめて、知る権利を保障することの社会的帰結を明らかにした。
キーワード
意見陳述制度、期待不一致効果、被害者の知る権利
表題
罪悪感が被害者への補償行動に及ぼす影響:三者関係における資源分配パラダイムによる検討
著者
古川善也(広島大学教育学研究科)
中島健一郎(広島大学教育学研究科)
森永康子(広島大学教育学研究科)
要約
本研究は、罪悪感の補償行動への影響が関係流動性の認知によって調整されることを検討した。罪悪感が被害者への補償行動を促す際に、De Hooge et al.(2011: オランダ)では第三者に渡す予定だった資源を流用するのに対し、Rebega et al.(2014: ルーマニア)では自分自身の資源を犠牲にした。本研究では、この異なる結果が関係流動性の違いによって生じるという予測を立て、その検証を試みた。研究1では、ルーマニアと同様に関係流動性の低い国である日本での検討を行い、罪悪感喚起条件で統制条件と比べて、被害者への分配額が多く、自分自身への分配額が少ないこと、そして第三者への分配額には条件間に差がないことが示され、Rebega et al. (2014) を支持する結果が得られた。さらにウェブ調査を行った研究2から、関係流動性の認知の違いにより、罪悪感の三者関係における資源分配に及ぼす効果が異なることを示唆する結果が得られた。本研究の結果から、罪悪感の補償行動への影響が関係流動性によって調整される可能性が示唆された。
キーワード
罪悪感、補償行動、関係流動性
表題
日本人成人のライフスキルを構成する行動および思考: 計量テキスト分析による探索的検討
著者
嘉瀬貴祥(立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科/日本学術振興会特別研究員DC2)
坂内くらら(立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科)
大石和男(立教大学コミュニティ福祉学部)
要約
本研究の目的は、成人を対象としたライフスキル・トレーニングの検討へむけ、日本人成人のライフスキルを構成する行動及び思考を把握することであった。400名の成人を対象として自由記述調査を行い、ライフスキルに関するテキストデータを収集した。得られたデータを、計量テキスト分析手法の一つである共起ネットワーク分析を用いて分析した結果、40の行動や思考が抽出された。先行研究においても認められる【前向きな思考】【計画性】【対人マナー】などの要因に加えて、【メディアでの検索】【情報に対する懐疑的態度】【損益の検討】【最悪の展開の想像】【適切な心理的距離の判断】【適切な心理的距離の維持】など特徴的な要因が認められた。
キーワード
ライフスキル、日本人成人、計量テキスト分析、共起ネットワーク分析