第32巻 第2号 2016年11月 和文要約
- 表題
- 実体性が両面価値的な集団への行動意図に及ぼす影響:エイジズムに着目して
- 著者
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二木 望(東京大学大学院人文社会系研究科)
渡辺 匠(東京大学大学院人文社会系研究科/日本学術振興会)
櫻井良祐(東京大学大学院人文社会系研究科)
唐沢かおり(東京大学大学院人文社会系研究科)
- 要約
- 本研究では、「温かいが有能でない」というステレオタイプが抱かれる高齢者への態度に、実体性知覚がもたらす影響を検討した。先行研究によると、「温かいが有能でない」というステレオタイプは積極的助成と消極的危害をもたらし、また、この関係を感情が媒介する。本研究では、これらの効果が実体性の極化効果により調整されるという仮説を検証した。実験では(N = 74)、シナリオによって高齢者の実体性とステレオタイプの顕著性(e.g., 高齢者の温かさが顕著)を操作した。その結果、高い実体性が知覚される場合、温かさが積極的助成を、能力の低さが消極的危害をもたらすことが示された。さらに、賞賛が温かさと積極的助成の間を媒介していた。一方で、実体性が低い場合にはステレオタイプと行動意図が関連しなかった。以上より、ステレオタイプが行動をもたらす過程を実体性が規定することが示唆された。
- キーワード
- 実体性、ステレオタイプ、エイジズム、バイアスマップ、両面価値的な集団
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- 表題
- 政治的会話の橋渡し効果:政治的会話が政治参加を促進するメカニズム
- 著者
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横山智哉(一橋大学大学院社会学研究科)
稲葉哲郎(一橋大学大学院社会学研究科)
- 要約
- これまで政治的会話研究において、政治的会話が政治参加を促進するという効果は確認されているもの、なぜ政治的会話が政治参加を促進するのかというメカニズムについては実証的に十分検討されてこなかった。そこで2012年11月から2013年の1月にかけて、全国の20代から80代の有権者を対象にオンライン上で2波からなるパネル調査を実施した。分析の結果、政治的会話は政治に対する主観的な心理的距離感を有意に縮める効果をもつことが確認された。更に、政治的会話は統治政治参加に対して有意な正の効果を持ち、この効果は政治に対する主観的な心理的距離感に媒介されることが示唆された。
- キーワード
- 政治的会話、政治に対する心理的距離感、政治参加
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- 表題
- 評判予測と規範遵守行動の関係:関係流動性に着目して
- 著者
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岩谷舟真(東京大学大学院人文社会系研究科)
村本由紀子(東京大学大学院人文社会系研究科)
笠原伊織(東京大学大学院人文社会系研究科)
- 要約
- 本研究は、規範遵守行動の先行因が、関係流動性によってどのように異なるかを検討した。具体的には、関係流動性が高い場合は、自己の魅力をアピールしないと魅力的な他者と関わりを持つことが困難であるため、規範を遵守すると評判が上がると予測する者ほど規範に従うという仮説を立てた(仮説1)。一方、関係流動性が低い場合は、関係が閉ざされており排斥を避ける必要があるため、規範から逸脱すると評判が下がると予測する者ほど規範を遵守するという仮説を立てた(仮説2)。さらに、こうした評判予測がどの程度正確であるかについても検討した。具体的には、地域活動への参加を1つの規範として捉え、社会調査による検討を行った。結果、関係流動性が低い場合では、評判低下予測と活動参加頻度の関係が見られ、仮説2は支持された。さらに人々は、活動不参加者に対して他者が行う評価を、自分が行う評価よりも低く見積もっていた。こうした結果は、関係流動性が低い場合、逸脱に伴う評判低下を大きめに予測することで、多元的無知の形で規範が維持される可能性を示唆するものである。一方、関係流動性が高い場合では、評判予測と活動参加頻度の関連は見られず、仮説1は支持されなかった。これは、人々が規範遵守に伴う評判上昇をより控えめに予測していたためだと考えられる。
- キーワード
- 関係流動性、多元的無知、マイクロ-マクロ連関、評判、社会規範
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- 表題
- 囚人のジレンマゲームにおいて他者について考えることが協力率に与える影響
- 著者
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北梶陽子(北海道大学・日本学術振興会)
曽根美幸(日本気象協会)
佐藤浩輔(北海道大学・日本学術振興会)
小林 翼(北海道大学)
大沼 進(北海道大学)
- 要約
- 本研究は、他者について考えることが、1回限りの囚人のジレンマ(PD)ゲームの協力に与える影響を検討した。他者の理解のために他者について考える方略を、他者がどう感じるか考える他者想像と、自分を他者にあてはめて考える自己投影の2つにわけた。実験参加者は、「他者想像」群、「自己投影」群、人と無関係な物を想像する統制群の3条件のいずれかに割り当てられた。1回限りのPDゲームを行った後、社会的価値指向性を測定した。結果、他者想像群では協力率が高く、相手の協力の期待と相手の自分に対する協力期待の予想が高かった。一方、自己投影群ではこれらに有意な差は見られなかった。また、他者想像群では両協力期待を媒介して協力率が高まっていたが、自己投影群では媒介効果は見られなかった。以上より、相互協力の期待を高め、協力行動を引き出すために、自己を当てはめて考えることではなく他者を想像することの重要性が示唆された。
- キーワード
- 囚人のジレンマゲーム、協力、他者想像、相互協力期待、社会的価値志向性
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- 表題
- オンライン調査における努力の最小限化(Satisfice)を検出する技法:大学生サンプルを用いた検討
- 著者
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三浦麻子(関西学院大学)
小林哲郎(国立情報学研究所)
- 要約
- 本研究の目的は、オンライン調査におけるSatisfice(調査協力者が調査に際して応分の注意資源を割かない行動;Krosnick(1991))が、大学で研究者から依頼された調査に回答する大学生サンプルでどの程度生じるのかを多様な指標で測定して検討するとともに、Satisfice傾向を示す個人をなるべく効率的かつ正確に検出する有効な技法を探索することである。9大学で実施したオンライン調査の結果、各種検出指標の予測力は総じて高くなかった。また、測定法の差異によりオンライン調査モニタとの直接比較はできないが、大学生サンプルのSatisfice傾向は全般的に低かった。大学生サンプルを対象とする際はSatisfice傾向の検出に「躍起になる」必要はなく、むしろ調査内容によって回答環境を制御することの方が重要であると考えられる。
- キーワード
- Satisfice、オンライン調査、大学生サンプル、Lasso
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- 表題
- 潜在的文化的自己観と親しい他者との協力-競争目標に対する選好
- 著者
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小宮あすか(神戸大学)
唐牛祐輔(京都大学)
荻原祐二(京都大学)
後藤崇志(京都大学)
- 要約
- 本研究の目的は、文化的自己観によって親しい他者との協力-競争目標に対する評価が異なるかどうかを検討することである。35組70名の大学生がまず文化的自己観を測定するために潜在連合テスト(IAT; 相互協調的自己観vs. 相互独立的自己観)を行った。その後、参加者は友人と協力する条件か競争する条件で創造性課題を行い、課題に対してどのように感じたかを報告した。この結果、潜在的に相互協調的自己観が強い参加者は協力を競争よりも「もう一度やりたい」と評価する傾向にあった一方で、潜在的に相互独立的自己観が強い参加者ではこのような傾向が見られなかった。本研究の結果から、潜在的文化的自己観と協力—競争目標への選好との関連について議論する。
- キーワード
- 協力-競争、潜在—顕在指標、IAT、文化的自己観
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