第32巻 第3号 2017年3月 和文要約

表題
マインドワンダリングおよびアウェアネスと創造性の関連
著者
山岡明奈(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
湯川進太郎(筑波大学人間系)
要約
マインドワンダリングとアウェアネスは対立概念でありながら、どちらも創造性と正の相関が報告されている。この矛盾を明らかにするため、本研究では、先行研究で用いられていた創造性課題を拡散的洞察と収束的洞察という視点から整理し、実際に拡散的洞察を要するUnusual Uses Testを用いて創造性の3側面(流暢性・柔軟性・独自性)とマインドワンダリングおよびアウェアネスとの関連を検討した。532名(平均年齢19.67、SD = 1.44歳)の回答を分析対象とし、重回帰分析を行った結果、他者と重複しなかった回答に得点が与えられる非重複的独自性とマインドワンダリング傾向との間に逆U字型の関連が示され、分散分析からマインドワンダリング中群は低群よりも他者と重複しない稀な回答が多いことが示された。一方、回答が“どの程度創造的か”という観点から評定した時の評価的独自性は、マインドワンダリング傾向との間にU字型の関連を示し、マインドワンダリング中群の回答は低群よりも、回答の質的な評価が低いことが示された。
キーワード
マインドワンダリング、アウェアネス、創造性、用途テスト、独自性
表題
認知的評価は認知的感情制御と精神的健康の関連をいかに調整するか
著者
榊原良太(鹿児島大学学術研究院法文教育学域法文学系)
要約
近年の研究は、感情制御方略の効果を調整する要因に注目し、その検討を行ってきた。本研究では、ストレス状況に対する認知的評価が認知的感情制御と精神的健康の関連をいかに調整するかという点を、1週間の短期縦断調査によって検証した。Time 1では、最もストレスであると感じている状況とそれに対する認知的評価を問うた。Time 2において、1週間の間にどのような認知的感情制御方略を用いたか、回答を求めた。分析の結果、影響性の評価が高いとき、反芻、破局的思考は不安を高めるが、影響性の評価が低いとき、他者非難は不安を低めることが示された。また、コミットメントが高いとき、他者非難はwell-beingを低めるが、コミットメントが低いとき、肯定的再焦点化はwell-beingを高めることが示された。本研究により、いかに状況を認知的に評価するかが、認知的感情制御方略と精神的健康の関連を調整することが示唆された。
キーワード
認知的感情制御、認知的評価、精神的健康、縦断研究
表題
地方選挙における有権者の政治行動に関連する近接性の効果:空間統計を活用した兵庫県赤穂市長選挙の事例研究
著者
三浦麻子(関西学院大学文学部/社会心理学研究センター)
稲増一憲(関西学院大学社会学部/社会心理学研究センター)
中村早希(関西学院大学大学院文学研究科)
福沢愛(関西学院大学社会心理学研究センター)
要約
本研究では、日本の地方選挙における有権者の政治行動に対する候補者による選挙運動への近接性の効果を、空間統計を活用した手法で実証的に検討した。兵庫県赤穂市の市長選挙をフィールドとして、社会調査によって有権者の政治行動や政治的態度、および政治に対する意識を測定し、全地球測位システム(GPS)によって候補者の選挙運動の空間位置情報を測定した。有権者の候補者への好感度には、有権者あるいは近隣の他の有権者が選挙運動に接触した程度が正の関連を持っていたが,候補者との空間的な近接性は関連がなかった。一方、投票行動については、好感度を統制してもなお、有権者自身が選挙運動に接触している程度と候補者との空間的近接性の高さが、有権者をその候補者への投票に向かわせていた。空間統計の活用により、近接性の効果をより精緻に扱うことができる可能性が示唆された。
キーワード
地方選挙、空間統計、政治行動、選挙運動
表題
心的状態の推測方略:投影とステレオタイプ化
著者
石井辰典(東京成徳大学応用心理学部)
竹澤正哲(北海道大学大学院文学研究科/北海道大学社会科学実験研究センター)
要約
人々は複数の心的状態の推測方略を持ち、それらを使い分けていると考えられている。この点についてAmes(2004)は一連の研究から、類似性を感じる他者の心的状態の推測においては、自分の心的状態を利用する推測方略(投影)が用いられるが、類似性を感じない他者に対してはステレオタイプ知識を用いた推測方略(ステレオタイプ化)が使われることを示した。本研究では、4度にわたってAmes(2004)の追試研究を行ったが、その結果はいずれも仮説を支持するものではなかった。すなわち、標的人物の心的状態の推測において参加者は、知覚された類似性の高さに関わらず一貫してステレオタイプ化よりも投影を強く用いていたことが示された。推測方略の使い分けが生じる条件について精査する必要があると議論された。
キーワード
心的状態の推測、投影、ステレオタイプ化